第21話

男性妊娠に関する理解と言うレクチャーは役所内で数ヶ月前から秘密裏に始まり、何故自分が受講者に選ばれたのか分からないほど愚かではなかった。しかし受講者は自分だけではなかった。不妊が珍しくなくなった今は、既婚で子供がいない職員は他にも結構いて、受講者は多かった事、自分は上司及び上層部のお気に入りだった事からまさか自分が選ばれるとは想定していなかった。


仮に、五十代以上の男は体力的に移植が無理だと、二十代と三十代は一般の不妊治療が成功する確率が高いとそれぞれ除外されたとして。ターゲットとして絞られるのは四十代男性。だとしても何故俺が。他にも――。


突然、矢口の頭の中に雷のような衝撃が落ちた。

林だ。

彼が最初のターゲットだったのではないか。


四十代の既婚者で子供がいなかったのは他にもいる。しかし、講義が始まった時期と林の調子がおかしくなった時期がぴたりと重なり、最初の候補者は彼以外考え付かなかった。彼が別れの際に何か言いたそうにしていたのも、実はこの事を伝えたかったのではないか。四十代で、彼の次に若手は俺だと。


途端に足元が崩れ落ちるような衝撃を感じ、矢口はテーブルの上に置いていた両手を握り締めた。汗ばんだ両手の爪が白くなっている。


林も同じ怖さを抱えていたのだろうか。男だった自分が、女でもない男でもないモノへと創りかえられていく恐怖に耐えられなかったのだろうか。

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