そこにあるもの

流々(るる)

現場(げんじょう)にて

 砂利敷きの駐車場を横切り、いつものように張られた黄色いテープをくぐった時、藤崎は感じた。


「………何かがおかしい」


 ノンキャリの自分が捜査一係長になれたのも、幾多の案件を重ねてつちかった『刑事デカの勘』と言うヤツがあるからだと自負している。


「何かにおうな」

 先に来ていた有田に声を掛ける。


「係長、何でしょうか?」

「この辺り、何か感じないか?」

「この辺で、ですか?」

「あぁ。さっき来た時から、どうもクサい感じがする。俺の勘だがな」

「そう言われれば、何かにおいますね」


 緊急呼び出しの電話が鳴る前に見ていたTVの占いコーナーでは、獅子座が一位だった。こういう仕事では、げんを担ぐのも習慣になってしまう。


「今日は運がついているからな」

「また占いですかぁ。係長くらいの年代だと、占いなんかあてにしないんじゃないですか?」

「お前はまだ若いから分からないんだよ。神社の前を通ればお参りをする、出掛ける時は右足から踏み出す、って言うのも大切なんだよ。あれだ、イチローがやるルーティーンってやつだな」

「そんなもんですかねぇ」


 遺体のある母屋の方へ歩いていくが、やはり何かおかしい。

 この違和感はいったい何だ。


「あれっ?この辺りも何だか………」

「やっぱり、おかしいだろ?何かにおうんだ」


 通ってきたところをもう一度よく見ると、床に敷き詰められたレンガに黒っぽい汚れが点々とついている。


「これはっ!」

「おいっ!すぐに鑑識を呼べ!」

「その必要はありません」


 しゃがみこんで庭の床を見ていた有田が、こちらに振り返りながら言う。その視線は私の足元に向けられている。

 まさか………




 ゆっくりと右足をあげ、靴底を見ると、そこには犬のうんこがべっとりとついていた。

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