第84話 さっきょく
ザーザーと雨の音。
なぜか雨の音って耳に心地よくて起きる気になれないんだ、少し気温は冷えるけどそれで寧ろ布団が温かいのでついくるまってしまい出たくなくなる。
というか…。
昨晩バカみたいに騒いでたらアリツさんに怒られて、でも結果的に真夜中の演奏会が始まり深夜まで騒いでしまったということがあったのだ。
そして現在、その疲れかこのように僕もスナ姉もお昼近くまで寝ているというわけだ。
ベッドは別々だ。
「雨ですねぇ?」
「そうだね」
「森は雨季に入ったんですね、雨が落ち着くまでサバンナはお預けです」
ねぇ本当に行くの~?勘弁してよ~!なんでわざわざフラれに行かなくちゃなんないの?っていうかもうフラれてるようなものですけど?スナ姉も人が悪いなぁ…。
僕はクロユキ、みんなはクロって呼んでる。
ご覧の通り今朝は豪雨だ、昨晩月が見えたのだってたまたま雲の切れ目があっただけで実質曇天の空であったことに変わりはない、深夜から朝にかけてポツポツと降り始めたかと思えば今日はどしゃ降り。
さて、こんな雨の日は何して過ごそうかなぁ?
…
「おはようクロくん?昨日は楽しかったよ、いい演奏だった」
「ありがとうオオカミ先生、でもまだまだ練習中なんだ」
「歌もじょーずだったわ!なんかネットリしてたけど!」
部屋を出てロビーに来ると早速オオカミ先生達にお褒めの言葉をいただいた、もっともアリツさんはジトッとした目でこちらを睨んでいる。
恐らくは通常業務で早起きしたんだろう、要はほとんど寝ていないのだ、そりゃ怒る… いやほんとごめんなさい。
「楽しませてもらいましたけど、ほどほどでお願いしますね?ぐっすり眠りたいお客さんもいますから」←自分も
「は、はーい…」
反省、返す言葉もございません。
「そういえば、曲を作ってるんだろうクロくん?どこまでできてるんだい?」
オオカミ先生は創作活動がお好きなようだ、特に自分のやってないようなことを人がやってるのを知ると興味津々… なんでも「私は音楽がからっきしでね?」とのこと、物語を作るのは得意だけど曲作りは苦手ってことだろう、故に興味をそそられている。
「まだまだ、サビもできてないよ?ほんのちょっとフレーズを思い付いてるだけ」
「それでも作るなんてすごいじゃないか?よかったら聞かせてくれないかな?今後の創作活動のヒントに繋がりそうだ」
まぁそこまで言われてはこちらも悪い気はしない、是非聞いてくださいとそういうわけで僕は椅子に座るとギターを持ち簡単にチューニングに入る。
「やっぱり様になってるわね!」
「音楽を作り出せるというのが才能って感じで素敵です!」
「まぁまぁ二人とも、ここは静かに聞かせてもらおうよ?」
「クロのオリジナルですか?楽しみぃ~」
あまり期待されるほどでもないんだよなぁ?未完成だし…。
まぁいいか、とにかくそれでは聞いてください… クロスペシャル!←仮名
~♪~♪ ~♪~♪
僕にとって音楽とは…。
アコースティックギターの5本の弦、それらを使い僕の個性、考え、発想などを音にして表現していく。
でも今作ってるこの曲は何をイメージしてるって訳ではない、ただ曲を作ろうと考えてコード進行などを並べたものである。
だから、その時に込める気持ちはその時により違う。
あるときは自分の心を叫び、またあるときはその場にいない誰かに何かを伝えようと気持ちを乗せ、そしてまたまたあるときは誰かを元気付けようと励ます為に囁くように歌う。
ギャンギャンと鳴らす激しい曲ではない、ただものすごくしっとりとした… いわゆるバラードみたいな曲というわけでもない。
ゆったりした曲ではあるが、これは弾き方次第でどうにでもできるだろう。
そういう弾きかたや歌いかたをすれば激しく元気がでるような歌にも変わるはずだ。
~♪ ~♪ ~♪
とここまでだ、あとは未完成。
弾き終える… というと完成していない曲なのでなんだか不適切な気はするけど、今はとりあえずここで終わり。
ギターのギラついた残響だけがロビーに残り、しんとしてきたころ僕は口を開く。
「って感じなんだけど、やっぱり未完成じゃつまらないでしょ?」
それっぽく締めてはみたけどやはり未完成であることに変わりはない、完成した曲に比べれば違和感が拭えずモヤモヤとしたものが残るはずなんだけど、皆手を叩き僕を称えてくれる。
「いやいや、そんなことはないよ?素晴らしい演奏だと思う、アリツさんもキリンもそう思うだろう?」
「私には音楽のことよくわからないけど、なんとなくいい感じなのはわかるわ!」
「私も、聞いてて心地好かったですよ?完成が楽しみです!是非また聞かせてくださいね?」
「アハハ、ありがとう…///」
なんて… 助手の時もそうだったけど、こうして自分の生み出したものが褒められるとちょっぴり照れくさい、心の奥がくすぐったいのだ。
だが慢心はいけない、この曲が未完成であることを忘れてはいけない。
なんてお堅いこと考えていたんだけど、その間に話はスナ姉のほうへ逸れた。
話題は彼女の声、なかなかの美声でもし歌を始めたらPPPを超えるのではないかとさえ言われているのだ。
「歌といえば、スナネコも声が綺麗だね?なにか特別なことでもしてるのかな?」
「元からですよ~?」
「自画自賛ね… だけど、そういえばたまに歌ってるわよね?怪しいわ!いったいどんなボイストレーニングをしてるの!」
そうだ、スナ姉は声がとても素敵なフレンズ、かといってなにか特別なことをしているわけではない。
歌のことはなぜか頭に入っていてなんとなく鼻唄という形で表現されているのだろう、実際ボイストレーニングなんてするようなタイプではないので始めたら飽きてすぐやめるだろう。
「そうですねぇ?ところでクロはどんな曲でも弾けるのですかぁ?」
早速話題に飽きていたのか僕にそんなことを聞いてきた、なんでもだなんてさすがに過大評価だ、一度は聞かないとさすがに無理だ
「なんでもってわけじゃないけど、でも聞いたことがあるやつは何となく合わせられるよ?リクエストでもあった?」
「おぉ~… それではボクが歌うので合わせてみてください?」
「できるかなぁ?まぁやってみるよ!」
彼女自身、鼻唄の話で褒められて少しテンションが上がったのか、僕達は即興でセッションすることになった。
面白い試みだ、プリンセスさんの時と違いカバーした曲でやるのではなく、歌に合わせて即興でギター演奏を作れと彼女は言っているのだから、いいじゃないか?腕が鳴るというものだ。
「じゃあまずどんな感じか歌ってみて?いけそうなら途中から入るよ」
そう伝えるととスナ姉はスーっと息を吸い鼻唄を口ずさむ。
「…~♪」
フンフンという声がとても可愛らしい、聞いたことがある… これはスナ姉がよく歌ってるやつじゃないか?特にタイトルとかもなく、それは僕の曲と同じだ。
「あぁこれね?いいよ、こんな感じかな?」
と鼻唄に合わせてコードを進行していく、セッションというには少し簡単なものなのかもしれないけど、やっぱりこう人と協力してなにかするのは楽しい。
演奏中もふと彼女の方を見ると目が合いニコっと笑いかけてくれる、そんな彼女に僕も笑い返す。
いいなぁこれ、なんか楽しい。
…
「へぇやるもんだね?流石だよクロくん、ところで聞いていて思ったのだけど…」
オオカミ先生は、僕らが一通り歌い終わると何か思い浮かんだらしくスッと挙手して僕らに尋ねた。
「クロくんの曲、今のそれとくっつけてみたらどうだい?結構合うと思うのだけど」
曲を… くっつける?
「あぁ~それ私も思いました!続けて弾いたらひとつの曲になりそうだな~なんて?」
「そうなの?私にはよくわからないけど!そういうのってかのーなの?」
つまりスナ姉の鼻歌を僕の曲にサビに使うということ?ん~そういのってどうなんだろ?なんか、いいのかな?盗作ってやつになるんじゃ?
そんな僕の表情を見て察したのか先生は少し慌てた様子でフォローを入れてくる。
「あぁ、もちろんそれは君の自由だよ?飽くまで自分で作ることにプライドを持っているならその方がいいよ?
私もギロギロを書いてるときファンの数人が“こうしたほうがいい”だとか“こういうのはどうだ?”とか“こうだと思うからそうするべきだ”とアイディアを押し付けてくることがあってね?
確かに… と思うこともあったのだけど、でもそうしてしまったらそれは最早私の作品と言えるのかな?って思ってね、なるべく聞かないことにしていたんだよ、だって例えば“結末はこうするべきだ”って言われても私としてはなぜここまで書いてきた私の大事な作品のフィナーレを他人に任せなくてはならないのか?ってそう思うわけだし、正直押し付けるくらいなら自分で書いてみるといいんだと私は思うね、そうすることで作家になる人も増えると私は楽しいし」
なるほど…。
「話が脱線してしまったね…」とひとつ謝罪をくれた先生、でも確かにその話には一理あるんだ。
僕は先生みたいに大作を生み出しているわけでもないけど、そんなプライドじみたものを自分の曲に感じてるのかもしれない。
無意識に…。
これは僕の曲だ、誰の手も借りない。
そんな気持ちを持っているのかもしれない。
だけど…。
「やるだけやってみようかな?僕は先生みたいにちゃんとしたもの作ってるわけじゃないし、それに言われてみれば確かに合うかも!スナ姉?もう一度、今度は僕の曲に合わせて歌ってくれる?」
「ボクは構いませんよ~?」
やってみよう、合作だ!
どうなるかはわからないけど悪くはならないってそんな気がする。
1… 2… 123… とギターをトントンと叩き歌い出しのタイミングを合わせる。
そして、スナ姉と僕のセッションがまた始まった。
♪~…
…
「…とこんな感じ、上手くできたね?ありがとうスナ姉?」
「どういたしまして、またやりましょ?」
曲が済むと皆さんからは拍手と賛美の言葉をいただいた。
「わぁ~!ピッタリじゃないですか!本当に繋がりましたね?」
「偶然できた2つが1つになるなんて凄いわ!もうそういう曲にしか聞こえないもの!」
「うん、最高だった… それでどうだい?」
と最後に先生がそう尋ねてきた、僕の答えはこれで決まった… ここまでの完成度、そしてお三方からいただいた反応、これだけ確認できただけで十分だ。
「多分、これ以上の曲は僕一人では作れないと思う… だからスナ姉?これで曲作ってもいい?」
「クロがそうしたいのなら構いません、その方が歌も喜びます」
歌も喜ぶ… か。
不思議な言い方するなぁ。
ともあれこの日、僕の作っていた曲が完成に向かった。
どーせ数日足止めを食らうんだ、ここで完成させてしまおう、歌詞もつけてしまえ。
スナ姉と一緒に!
…
クロが出ていった晩、私はすぐに置手紙のことをみんなに話していた。
反応は各々、博士はだるっだるに甘くしたコーヒー吹いて、アライちゃんは「すぐに探すのだぁ!」と走り出そうとした、止められたけど。
意外にフェネちゃんが珍しく慌てたり、助手が何かを言いたいけど言えないみたいなわなわなしたような動きをした。
私はシラユキ、みんなはユキって呼んでる。
「ねぇ家出ってなんで?なんて書いてあるのユキちゃん?」
「フェネちゃん落ち着いて?“数日帰らないから探さないで”って、理由はわかんない」
何かしら悩んでいたのは知っていた、私はそれをずっとサーバルちゃんのことだと思ってたけど、急にいなくなったってことはもっと別のこと?それとも関連したなにか?
「まだそう遠くへは行ってないはずなのだ!すぐに追いかけるのだ!」
「だから待つのですよアライグマ?クロは賢い子です、なにもバカな真似をしようってわけではないでしょうしそれに今はシロ達もいないのです、でもどうしても探すというなら1日くれてやるのですよ、一人で考えたいこともあるのでしょう?あの子も年頃なので」
「ぐぬぬぅ!」
年頃の悩みかぁ… みんな女の子だから年頃の男の子の悩みなんかわかんないよぉ
パパどっかでクロのこと見付けてくれないかなぁ?
私にはクロの気持ちを理解しきることができないことも多い、双子とか家族とかじゃなくて男女の違いで理解し難い部分が必ず出てくるからだ。
昔はこんなことなかったのに、どこに行くにも一緒でケンカもしたけど毎日一緒に遊んでた…。
今だって仲が悪いってわけじゃない、パパやママにも言えないようなこともクロには言えたりすることもあるし、その時はちゃんと聞いてくれて一緒に考えてくれる。
助けてもらったことだってたくさんある。
でも… クロ個人の悩みを私がなんとかしてあげられたことはない気がする。
博士の言う通りクロはとても頭が良くて、私よりも大人っぽい考えを持ってるところがある。
逆に子供っぼいところも多いけど、しっかりしてるところはしっかりしてる。
あんまりみんなに心配かけたくないのかもしれないけど、私としてはもっと頼ってくれてもいいのにって思う。
家族なんだもん…。
でも、男の子特有のやつなのかなー?なんて思うとやっぱり私では力になれない。
私が困るのと同時に助手の様子を見た博士がそれをなだめ始めた、助手もなんだか様子が普段と違う。
「助手も落ち着くのです、何をそんなにそわそわしてるのです?らしくもない…」
「しかし!しかし、クロ…!あぁ私はどうしたら!」
「とにかく少し待つのです?シロだって家出したとき帰ってきました、クロはもっと考えて動くのです… 大丈夫なのですよ?」
助手はクロに弱い… というより頭が上がらない?もちろん私に厳しいわけではない、普通に優しいし仲もいいつもりだ。
この前だって一緒にお菓子をつまみ食いしてアイアンクローをくらったばかりだし。
ただクロに対しては慎重というか、心配性なのだ… 例えば私が風邪をひいたときは。
「大丈夫ですか?早く元気になるのですよ?」と優しく囁いてくれる
でもクロに対しては…。
「クロ、苦しいのですか?辛いのですか?私になにかできることは…!」とどこかワタワタとする。
不満ではないけど、やっぱり昔のことを引きずってるのかな?って思う。
そんな助手を見てフェネちゃんの様子がいつもと違うのも不思議…。
これってもしかしてすると?
なにかあったの?
この三人の間に…。
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