第47話 浄化の炎

 クロとユキは5才になった。


 そんなめでたい今日という日には毎年恒例の如くミライさんが父と部下二人を連れて調査を名目にお祝いにやってくる。


 今回は話すことがたくさんあるな…。


 皆俺を見るなり驚いていた。


 まぁそうだろう、何せフレンズとしての特長である耳と尻尾が消えているのだから。


「ユウキ… 何かあったんだな?」


 父の神妙な表情に緊張が走るが、詳しい話はパーティーの後にしてもらうことにした。

 

 だって今日はめでたい日じゃないか?


 子供たちが元気に5才を迎えてくれたんだから、辛気臭い話は夜にしてもらおう。


 俺もこうして無事なんだから…。





 その晩、ミライさんと父、そして俺とかばんちゃんと長の二人は地下室で昨晩の出来事について話し合うことになった。


 その前に、クロのことを話さなくてはならない。


「クロユキくんが例の病気に!?」

「大丈夫なのか!?見た目ではわからなかったが…」


「いえ、もう治ったんです」


「ですが、正直成功するとは思わなかったのです」

「下手したらパークにとって大事な存在が“二人共”セルリアンに変わってしまうところでした」


「ユウキ、“それ”と関係あるんだな?」

「お耳と尻尾はどこへいったんですか?」


 昨晩… クロの意識が消えて首の裏に石が出現した時のことだ。


 俺はカコ先生に「決してやってはいけない」と固く禁じられていた、サンドスターロウの吸収を試みた。


 ぐっとクロを抱き締めて右手は石を割らない程度に強く掴んだ。


 その時クロの体のサンドスターの循環が正に手に取るようにわかった、クロの体内はサンドスターロウに支配されドロドロとした感覚がこちらにも伝わってくるほどだった。


 先生は…。


 “クロユキくんの体内にあるサンドスターロウはすでにあなたの許容量を越えている、そんな膨大な量を取り込んだら下手すれば親子揃ってセルリアンになってしまう” 


 そう俺に言った、確かにその危険性は高い。


 成功率に対し明らかにデメリットが大きかった、でもそれでもやるしかないと思った。


 ただ、何も無策のまま挑んだ訳ではない。


 俺はこの二ヶ月間ずっと考えていたんだ。


 どうすれば膨大な量のサンドスターロウをクロから取り除き、尚且つ処理することができるのか。






   

「ガァァァァァァァァッッッ!?!?!?」


 なだれ込むサンドスターロウに全身が悲鳴をあげ、俺は声をあげずにはいられなかった。


 本当にこのクソッタレサンドスターロウとかいうやつは厄介極まりない。

 

 基本サンドスターより強く、すぐに飲み込んでしまうのだから。


「「シロ!?」」

「シロちゃん!?」

「ユウキ!やっぱり無理です!すぐにやめて!」


「止めるな!下がってろ!」


「シロさん!?」


「ドリンクをくれ!全部だ!」


 変質する自分の体に耐えながら左手でサンドスタードリンクを受け取り何本も飲み干していった


「グゥルァァァァァァァァァアッ!!!!」


 ブワァ… 体から黒いオーラを放ち、それがどんどん飛散していくのがわかる。


「博士、サンドスターロウが…」

「シロの体を通して外へ出ていくのです!」


 1つめの策は、許容量がオーバーしてるなら吸いながら出せばいいという単純なことだ。

 ただ量も侵食のスピードも段違いだったので俺がもとから保有するサンドスターではすぐに食われて押し出せなくなってしまう。


 そこでその対策としてサンドスタードリンクを飲み自分のサンドスターを切らさないようにする。

 結果は上々だ、俺の予想通りロウの排出と吸収を同時進行できた。


 しかし、これもいつまで持つかわからない。


「グウゥゥ…!もう少し!もう少しだ…!」


「あぁ、クロの体が治って…!?」

「元に戻って来ているのです!」


 無論楽な戦いではなかったさ、正直言ってここまでできただけで奇跡だと思った。


 俺は最後の力を振り絞るように一気にラストスパートを掛けた、出し惜しみは無しだ。


 ここからは気合い!


「うぁぁぁぁあッッッ!!!!クロから出ていけぇぇぇぇッッッ!!!!!」


 

 


 その時 スン… と吸収が止まった。


 俺は確信したよ、根こそぎ吸いとってやったと。



 クロは助かったんだ。



「はわわ… 成功…?したんですか?」


「なんてやつですまったく!」

「お前というやつは!どこまでも規格外なのです!」


「クロちゃん元に戻ってるよ!治ってる!やったよシロちゃん!助かったんだよ!」


「シロさん…」


 成功した、クロ助けることができたんだ


 俺はこの時既に虫の息だったが、まだ油断もできないのでラッキーに指示を出した。



「ハァ… ハァ… ラッ…キー… クロヲ… スキャンだ… 」


 今度はぼさっとせず迅速なスキャンでクロを見ていた、結果は…。


「異常ナシ」


「やっタぞ… おレの勝チだ… クロ… よくガンばっタ」


「何をしてるのですシロ!早くサンドスターロウを押し出すのです!」

「このままではお前がセルリアンになるのです!さっさとするのです!」


 もちろんやっていた、だがもう限界だ。


 このままでは俺は長の言う通り手遅れになる、クロを助けられただけでもかなりのものだと褒めてもらいたいが、約束がたくさんある、俺もここで終わる訳にはいかない。


「シロさん、飲んでください!」


 かばんちゃん、全部よこせと言ったのに一本隠し持っていたのか?先見の明だな、本当にいい嫁さんもらったよな俺ってやつは。

 

 それを受け取り飲み干すことで少しだけ楽になった。


 ここまでがプランAとする。


 クロを助けるまでがこのプランAだ、このまま俺もすんなり助かればそれでいいが、正直こうなることは予想してたんだ… なのでここからはプランBだ。


 プランBはどうすればサンドスターロウにまみれた俺が助かるのか?かばんちゃんのおかげで少し楽になったのが幸いしほんの少し猶予ができた。


 説明してる暇はない、すぐに次に移らなければならない。



「博士… 助手… 連れテってクれ… 火口へ…」


「行けば助かるのですね?」

「話は後です!行きましょう博士!」


「シロさん、僕も…!」


「ダメだ… クロヲ… 見テて… 必ず戻る… 母さン… 留守を頼む…」


「ママに任せなさい!待ってますからね!すぐに戻るんですよ!」


「シロちゃん!こっちは任せて!」


 俺はもう二度と妻との約束は破りたくない、クロとの約束も守りたい。


 だから必ず帰る、絶対帰る…。


 母さんにもらったこの命も無駄にはしない。


「シロさん… 僕、信じてます…!」


「いってきます」





 急ぎ長の二人に連れられサンドスター火山へ飛んでもらった俺は、火口の崖っぷち寸前で膝をつき力尽きたように座り込んだ。


「シロ、どうするのです?」

「ここならサンドスターも濃いですが、さすがにそれだけでは足りないでしょう?」


「こウだッ…!」


 俺は右手からサンドスターの腕を伸ばしフィルターを直に掴んだ。


「まさかこれは…」

「サンドスターを火山から直接?」


 サンドスターを体に直輸入する、とりあえずこれで停滞まではできた、しかしこのままではダメだ、新鮮なサンドスターを食ってロウも俄然元気ハツラツ。


 とここまでがプランBだ、正直ここで治ると予想したがダメか…。


 その時、俺の今の状態がセルリアンに片足を突っ込んだ状態だったことや、フィルターにサンドスターコントロールを使い直接触れているのが理由となったのだろう。


 頭には懐かしい声が響き渡る。


“『またセルリアンになるなんてバカだよシロは… 大馬鹿、間抜けにも程がある』”


 やぁ、セーバルちゃんか?久しぶりだね?そこに息子が行ったろ?どうだった?


“『もう帰ったよ、大丈夫… 可愛い子だね?できればもう少し話したかったけど』”


 悪いね?お世話になったからジャパリマンまた持ってくから許して?


“『倍プッシュでお願いね?それで、それからどうするの?あなたそのままじゃ助からないよ?』”




 そう助からない、この方法だとここから動けない上にだんだんサンドスターロウが新鮮なサンドスターを食らい強くなってくる。


 だから本当にダメなとき…。


 最後の最後に用意したのがプランC。


 そのプランCの内容は…。


 俺は頭に響くセーバルちゃんの声に尋ねたんだ。


 “セーバルちゃん?四神を復活させたい…一人でいい、方法を教えてほしい”


 プランC それは即ち神頼みだ。



 


 答えを聞いた俺はすぐに手近の石板に手を触れた。


「何をする気です?」

「それが無いとフィルターが…」


「今、答えがわかった… こうするんだ!」


 俺は死ぬ気でその石板にありったけサンドスターを流しこんだんだ、ロウが混ざってても構わずそのまま石板にドンドンねじ込んだ。


 噴火の度に石板にはサンドスターが少しでも当たっているはず… なのになぜ四神は再フレンズ化しないのか?


 単純な話、一度に当たる量が少なすぎてフレンズ化しないんだ。


 だったらたっぷり飲ませてやる、火口から取れた新鮮なサンドスターだ。


 流し続けることで俺の体に残ったサンドスターロウが体を蝕んできた、だが同時に石板の方も強い輝きを放ち始めた。



 神々しい光の中に、女性の姿が露となり始める。


「まさかシロ、復活させたのですか!?」「四神… パークの守護けものの一柱を!」


「やっタぞ…  四神… 復活だ…」




 光の中から声が聞こえる。




「誰じゃ?我にまた肉体を与える愚か者は」

  

 


 紅… その姿はまるで炎を連想させ、クジャクのような美しい尾羽はさらに神々しさを強く印象づけた。


 機嫌でも悪いのかもとの性格なのか知らないが、この方はなんだか怒ってるように感じる。


 聞こえる声には思わずひざまづいて震え上がってしまうような圧力がある。



「四神…?力ヲ… 貸して…」 


「我はジャパリパーク、南方を守護する者、四神獣スザク… お前か?我を起こしたのは?妙なやつめ、お前は人間なのか?フレンズなのか?それともセルリアンなのか?」


 起こして早々申し訳ないが早速お願いがある、俺は朦朧とする意識の中で四神スザクに尋ねた。


「サンドスターロウ… コントロールしたい… 教エて… くれ… 帰ラナいと… 家族の… トコに… 約…束… したんだ…」


「愚か者め!何をしてそうなったのか知らんが、お前は己の私利私欲のためにわざわざ石板となって火口を守る我を復活させたのか!貴様のような者はセルリアンとしてその生涯を閉じるがいい!我が浄化の炎で焼き付くしてくれるッ!」


 四神スザクの周囲から火柱があがり渦を巻く。


 まぁ… 確かに怒る気持ちは分かるよ?


 聞いた感じここを動かないためにわざわざ石板になってたんだ、なのにそれを邪魔して肉体を与えてしまった、しかもその理由がセルリアンになりたくないから助けてくれってんだから。


 失敗だ、神を軽く見すぎたんだ… やがて俺の意識は消え始めそのまま死を覚悟した。


 その時。

 


「四神スザク!話を聞くのです!」

「こいつの名はシロ!フレンズとの混血です!」


「島の長か?なるほど混血、男のクセにフレンズな訳じゃ… それで、それがどうかしたのか?」


「シロは同じ状態になった自分の子供を救うためにサンドスターロウを全て受け入れてしまったのです!」

「我々からもどうか!どうかお願いするのです!」

「「こいつを救ってほしいのです!!!」」


「フム… なるほどな?」


 喋れなくなった俺の代わりにあの博士たちが代わりに話し、ひざまづき頭を下げてくれた、あの博士達がだ。


 土下座をしたのだ、俺なんかのためにこの島の長が…。



「シロという者よ?島の長にここまでさせるのだ、どうやらそれなりに善行を積んできたようじゃな?」


「…」


「だがすまないがコントロールは教えてやれん… これは我等四神の持つ能力でできることでな、教えてやれるようなことではないのじゃ… だから代わりにこうしてやる!」


 瞬間… 俺の周りを炎が包みこむ、だが熱くはない、不思議な感じだ。

 

 それどころかなんだかむしろ心地良いのだ、例えるならそう。


 母親のお腹の中。


 とても安心する…。



 スザクは怒っていた割には気前がよくすぐに対策をとってくれた、やがて炎は俺の体に吸い込まれていき、収まるとスザクは言った。


「お前の体にそれを浄化できるフィルターを張ってやったぞ、なに火山に比べれば大した量ではない… 我一人でも十分じゃ?気分はどうかのう?」


「はぁ、あぁ?なんだ?楽になった… 助かった?助かったのか!?」


「やりましたね博士!シロも助かったのです!」

「はい!四神スザク!礼を言うのです!ありがとうなのです!」


 どうやらスザクは俺の体に簡易的なフィルターを張ってサンドスターロウを抑え込んだらしいことを言っていた、証拠に俺の胸元になにか紋章のような赤々とした物が刻まれている。


「混血の者シロよ?見たところ白き獅子のフレンズだな?悪いがその力も封印させてもらった、野生解放はしてはならんぞ?」


「そんな!?… いや、助かっただけでも十分だ!四神スザク様、ありがとうございます!これで家族にまた会えます!約束を守ってやれます!」 


 こればかりは予想外、なんとホワイトライオンの力まで封印されてしまったのだ。


 これが俺の耳と尻尾がなくなった理由、だがこれはスザクが意図的にやったことではない、こうするしかなかったのだ。


「浄化が済んだらそれを解いてやろう、良いか?これより一年じゃ、己の力のみで生き抜き家族を守って見せろ?これは試練じゃ…

 だがもし無理矢理にでも野生解放を使ってしまったとき、その時は我が浄化のフィルターは破壊されお前はたちまち闇に飲まれ心を失うだろう…」


 野生解放は使ってはならない。


 逆に言えば、その気になれば野生解放はできるということだろうか?ただし使えばまた先程の状態に逆戻り、俺は心を失いセルリアンになる。


 ともあれ、俺はそうして助かったわけだ。


 俺が家に帰る頃には朝になっていたが、かばんちゃんが寝ずにクロの側についていた。


 俺は帰ると妻に近寄り言った…。


「かばんちゃん、ただいま?」 


 その時、半分眠ってしまっていたのかハッと驚いた顔でこちらを振り向いた。


「…!?シロさん…!?シロさん!帰ってきてくれた!よかった…!信じてました!信じてたけど、すごく不安でした… でもよかった、本当によかった…!」


 朝日の差し込むその部屋で俺達は強く抱き締めあった… 約束を守ることができた、俺はまた妻を泣かせてしまったが、安心ででた涙なら多目に見てもらいたい。


 俺も張詰めていたものがとけたのか決壊したダムのように涙が溢れだした。




「かばんちゃん、俺フレンズになれなくなっちゃった?一年だって、ゴメンね?」


「どうして謝るんですか?そんなの関係ないです!」


「だってかばんちゃん、俺の耳と尻尾が好きだったから…」


「もぅ… 僕はシロさんにお耳と尻尾があったから好きになったわけじゃありませんよ?僕はシロさんだから好きになったんです

 だからシロさん?愛してます、これからもずっと…」


「かばんちゃん、俺もずっと愛してるよ… だから、これからもどうかよろしくね?」


 溢れる気持ちを抑えきれず、俺達は口付けを交わした。





 クロが助かった、俺も助かった… 犠牲は誰一人でていない。


 なら、これでいいじゃないか?フレンズ化できなくなったのは些細なことだ。



 だって俺には家族がついてるんだから。



 けもハーモニーを使えばすぐに治るのだろうか?と思ったが、スザクの封印にどんな影響を出すかわからない。


 一年だ、たった一年の我慢すれば済む。



 それにしても、今年の子供たちの誕生日はお礼やお詫びが多くて忙しくなりそうだ。

 


 父とミライさんも俺の話には混乱を隠しきれていなかったが、とにかく皆が無事でいることに安堵していた。

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