第35話 あんしん

 とてもとても、それはとても小さなセルリアンだったそうだ。


 それこそ姉さん達がサッカーで使うボールくらいの大きさで、クロはボールのような物が落ちていると勘違いしてそれを拾い上げたらしい。


 食われかけたのは右手、奇しくも俺と同じく右手だ。


 泣きながら腕を振り回すクロを見て助手はすぐにその小さなセルリアンを退治した。


 今のところ怪我など異常は見られないが…。


「すまないのですシロ、本当にすまないのです… あれではなんのために私が着いていたのか!」


「助手、なにも責めたりしないよ?助けてくれたじゃない?大丈夫、まだ俺と同じとは決まってないよ?」


「シロの言う通りなのです、まずは確認が先なのです」


 確認ならすぐにできる、俺は地下室から出るとまずは妻にこの件を簡単に伝えた。


「それ、本当なんですか?」


 大声は出さず落ち着いて見えるが、大層驚いた顔をしている。

 たが先程も言った通り決めつけるにはまだ早い、確かにクロは俺の子だが俺と決定的に違うところがある。


 それはフレンズと人間を分けて考えた場合、クロは人間の部分を4分の1しか持っていないということだ。


 ほとんどヒトに見えるのは母親がかばんちゃんだからであり、つまりクロは逆に体のほとんどがフレンズであると言える。


 今は子供だから少ないが、俺よりもずっと多くサンドスターを生み出せるはずだ。


 即ち吸収能力は必要ない。


「かばんちゃん、ラッキーにスキャンしてもらおう?もし検出されたらそのときは…」


「その時は…」


 俺がセルリアンになった時… この際あれのことをセルリ病と呼ぶが、セルリ病は潜伏期間が長くハッキリ症状が出るのに半年はかかる。


 出てきたころには遅いのかもしれないが、感覚が残っているうちは時間があるということだ、だから…。


「まだ間に合うはずだ、俺が責任もってサンドスターコントロールを教え込む」


「わかりました!」


「シロ、頼むのです」

「できることがあればなんでも言ってほしいのです」


「うん、じゃあクロを連れてくるよ?」





 サーバルちゃんが料理を習うようになってからはクロとユキは子供達だけで仲良く遊ぶことが増えた。

  

 そして今、その姿に異常は見られない。


 至って普通の子供、これから大きな病になるようには見えない、いつもの元気な子供達だ。


「二人とも、おいで?」


「なぁにパパ~?」

「見てパパ!ユキ逆立ちできるようになったよ!」


「え!?」


 見ると見事な倒立、逆さまのユキはパンモロでニコニコ笑いながら器用に手を使いこちらに歩いてくる。

 バカな!この子は4才!逆立ち歩きするなんて腕力もそうだが体幹が良すぎる!特別な訓練もない4才なのに。


 ってそうじゃなくて!


「ほらパンツ丸見えだぞユキ?女の子がそういうのスカートでやるもんじゃないの、いいか? …さぁちょっと中までおいで?ラッキーが面白いもの見せてくれるぞ~?」


「「いくー!」」


 この際一応ユキもスキャンだ、ラッキーの機能で体質まで分かるかは知らないが二人とも調べてもらうことしよう、母さんのこともなにか分かるかも。


 図書館に入ると博士達と妻が座って待っていた。


 子供達を不安にさせてはならない、三人は必死に笑顔を作っている。


「二人とも、おいで?」


「「ママー!」」ギュウ~


 やはり母親というのは包み込むような安心感があるのか、二人は呼ばれると喜んで妻に飛び付いた。


 じゃあ、頼むよラッキー?


「ねぇママなにするのー?」

「ラッキーなにするの?」


「二人が元気かどうか調べてもらうんだよ?… ラッキーさん、大丈夫ですか?」


「イツデモ大丈夫ダヨ」


 スキャンは一人づつだ、まずはユキから。


 一旦クロは博士達に預けてかばんちゃんにはラッキースキャンをしてもらう。


「スキャン開始」


 ピピピピと電子音が鳴るとラッキーから光が照射される。

 ユキの体を上から下、下から上… と光が当てられ数秒するとスキャンは終わる。


 結果は?


「身長体重ハ年齢ノ標準ノ数値 サンドスター保有量ハ 標準ヨリ少ナイケド 正常ナ循環ヲ確認 異常ナシ」


 異常無し… か、でも少ないのは子供だから?母さんはどうした?


 やっぱりユキのサンドスターに母さんが上手いこと混ざっているのか?それとも母さんが出てくるとサンドスターの数値が変わるとか?いや、今はとにかくクロだ…。


「さぁ、次はクロの番だぞ」


「もう終わったのー?」


「ユキはこっちにおいで?病気もないし大きくなってお姉ちゃんになったってさ?」


 それを言うと嬉しそうにこちらへ駆け寄ってきたユキ、その交代でクロが妻の前に立たされた。


 いきなりこんなこと始めたせいかクロはすこし不安そうな顔をしている。

 察しのいい子だ、病気だったらどうしよう?と考えているのかもしれない。


 だがそれ以上に不安なのは俺達だ。


 頼むぞ。


「スキャン開始」


 ピピピピ


 これで分かる。


 大丈夫だクロ、なにがあってもパパが助けてやるからな?


 だが願わくば異常はでないでほしい。


 頼む…。



 俺も博士もかばんちゃんも強く願った、助手は手を合わせギュッと目を閉じて震えているのがわかる、今回のことでもっとも責任を感じているんだろう。


 そしてスキャンが終わると…。



「異常ナシ」



 異常無し…。


 異常無し?


 やった!



 その時、俺達は皆でホッと胸を撫で下ろし安堵の表情を見合わせた。


 助手とスッと顔を上げ、今にも泣き出しそうなほど安心した顔をしていた。


「ユキ同様 全テノ数値ガ年齢に対して標準値 サンドスター保有量ハ ユキヨリ少ナイケド 循環ソノモノニハ異常ナシ 体調モ良好ダヨ」


「本当になんでもないんですね?サンドスターロウもないんですね?」


「保証スルヨ」


 はぁよかった… 本当に良かった。


「クロ、良かったなぁ…」ギュウ


「パパ苦しいよぉ」


 結局なんなんだ?と言うような顔を子供達に向けられたが、どれくらい成長したか見たかったと誤魔化すことにした。


 実際、俺が思っていたよりずっと成長していたのだから。


「あぁ良かった… 良かったのですクロ、本当に良かったのです…」


「じょしゅ泣いてるの?」

「どこか痛いの?」


「いえ、時に嬉しい時に嬉し涙というのが出ることがあるのですよ?二人とももっと大きくなるのですよ?」


 そう言うと助手は二人をギュッと抱き締めた。


 ずっと責任を感じていたのだろう、子供は目を離せないものだけど、まったく目を離さずにいるのは難しい。


 俺は今回のことで助手を責めないし恨んでもいない、妻もそうだろう。


 むしろ守ってくれたことに感謝したい。


 というか…。


 俺とかばんちゃんが大好きを混ぜあっている時にそんなことになっていたんだと思うとなんだかこっちが責任を感じてしまう、おいそれとデートなんてしていられないな。


 親には子を育てる義務がある。


 そりゃ自分達の時間がほしいこともあるが、やっぱり子供達のことを第一に考えないと… 手の掛かる年頃だしね?






 俺がセルリ病になった時、吸収した翌日高熱に倒れた。


 あれは川に落ちたからかもしれないが、今のところクロは熱が出る様子はない、ラッキースキャンでも異常は出なかった… 即ち健康体を意味する。


 子供達には吸収の体質がそもそもないのか、あるいは子供の体では吸収能力が未熟だとか?それかもっと別の何か?


 それを確かめるには…。


 サンドスター火山だ。


 試しに行ってみるか?山の頂上、セーバルちゃんのとこに…。

 


 よし!



 思い立ったが吉日… というほどの勢いではないのだけど、博士達にジャパリマンありったけを依頼しておいた。


 そして翌日、早速俺達家族はサンドスター火山に登り火口まで足を運んだのである、丁度正月も近いのでいいタイミングだろう。


 今日も変わらずキラキラと結晶が輝いている、四神の力に守られた火口にはセーバルちゃんのおかげでフィルター張られており、サンドスターロウの流出を防いでくれている。


 彼女は、セルリウムとも言っていたか?


 四神のいずれか、あるいはセーバルちゃん… この中の誰か一人でも欠けたらこのフィルターは成立しない。


 セーバルちゃん、四神の皆さん、いつもありがとうございます…。


「パパここはなぁに?」

「どうしてキラキラしてるの?」


「ここはね、神様がいるんだ… その石板に触るんじゃないぞ?少しでも動かしたらパーク中がセルリアンだらけになる、怖いだろ?」


「「怖い~!」」


「じゃあいい子にできるな?」


「「できるー!」」


 子供達には変化が見られない、ユキはフレンズ化しないしクロも特段変わったようには見えない。


 ってことは二人は少なくとも大気中のサンドスターは取り込んでいないことになる。


「シロさん?子供達は大丈夫そうですね?」


「油断はできないけどとりあえずは安心してもよさそうだね?助手も責任感じてたし、帰ってすぐ教えてあげよう?」


「はい!」


 俺は妻と子供達にジャパリマンを1つづつ手渡して中に放り込むように話した?


 俺は毎年ここに年が明けると来てるんだけど、家族を連れてくるのは初めてだ。

 まぁいわゆる初詣みたいなものだと思っている、感謝を表してお祈りでもしよう。


「よしみんな!ジャパリマンは持ったな!行くぞ!」←丸太感


「せーので入れるんだよ?」 


「はーい!」

「ふぁ~い」モグモグ


 ユキぃ… 食べてんじゃねぇよぉ?


「ユキ、それはセーバルちゃんのって言っただろ?なんで食べたゃったの?」


「あ、じゃあ半分こする!」ムシリ


 まぁ… うーん… いいかそれで。


「せーの!」


 \セーバルちゃんいつもありがとー!/


 掛け声と共に俺達家族の投げ入れたジャパリマンは火口に吸い込まれていった。


 子供達と妻を一旦火口から下がらせたあと俺は残りのジャパリマンありったけを放り込む、このあとセーバルちゃんが花火を上げてくれるのである。


 すると俺のすぐ後ろには下がったはずのユキ… いや母が立っていた。


「ユウキ…」


「母さん、セーバルちゃんってどんな子だったの?」


「話したんでしょ?多分、そのまんまの子ですよ?不思議な子でした、でもどこか人を惹き付けて… みんな彼女が大好きでした」


「そっか…」


 突然現れた母だったがそれだけ言い残すとユキに戻った。

 

 それから一分もしないうちのことだ、火山から地響きの音と共に小さく揺れが起きた。


 そして…。


 パンッ! パンッ! パンッ!


 そうした少しの揺れのあと、小さな噴火とともに弾けるサンドスターが空にキラキラと輝く… 言うなればサンドスター花火が火口から打ち上がったのだ。


「「すごーい!」」


「わぁ… 綺麗ですね?」


「あぁ、やっと一緒に見れたよ… ずっと並んで見たかったんだ?」


「今度からは家族で見れそうですね?」


「うん… あ、そうだ」


「はい?」


「君の方が綺麗だよ?」


「もう…///」


 はしゃぐ子供達を見ながら、コッソリと妻の肩を抱き寄せた。





 その頃図書館では、アライグマ達に料理を教わっているサーバルも火山の方を見てその花火に気付き、叫んだ。


「あ、見て見て!火山から花火が上がったよ!」


「じゃあこれから下山なのだ!丁度良く完成するように早速とりかかるのだ!」


「火口にジャパリマン入れると上がるんだってねー?不思議だねぇ?」


「セーバルちゃん?って子が“ありがとう”って言ってるんだって!」


 図書館からでもその様子は見てとれた


 サーバル達はそれを見てそろそろシロ達が戻るのを察すると、すぐに食材の用意加工に入った… 今日のお昼は“あんかけヤキソバ”だそうだ。


「博士、あれは?」 


「えぇ、少し時期外れですが、明けましておめでとうなのです」


「はい、今年もよろしくお願いします」


 長の二人も図書館の窓からその様子にすぐに気付いた。


 そして今、そこにはもう一人。


 二人は今客人をもてなしてるところだ。


 とあるフレンズは二人に訪ねる。


「あの、あれなんですか?」


「あれはサンドスターが空中で弾けて空を彩っているのです、ヒトがその昔お祭りなどで使った“花火”というものに似たようなものです」

「お前が用のある男が今家族を連れて神々に挨拶に行ったのですよ… えぇーっと、なんでしたっけ?その~…」


「あ!“破裏拳ハリケンホワイト”さんです!」


「そうそう… そのハリケーンなんとかと名乗った男ですが」

「今に戻るのです、紅茶でも飲んで待つがいいのです」


 長の二人はそのフレンズの言い放つ“破裏拳ホワイト”とという謎のキーワードに翻弄された…。


「博士?ハリ… なんですか?」コソコソ


「破裏拳ホワイト?です… こんなふざけた名を名乗るのはシロしかいないのです… というか、○○ホワイトって名乗るやつは大体アイツなのです」


 図書館を訪ねた彼女… そのフレンズが来たのには理由がある、以前その彼女がいう破裏拳ホワイトという人物に助けられたらしく、今日は礼を言いに来たとのことだった。


 彼女はセルリアンに襲われたその直後、颯爽と現れた白いヤツがセルリアンを華麗に打ち倒すところを見ていた、そして思ったのだ。


 あの人は誰?よく来るの?どこに住んでるの?何してる人なの?


 その年にフレンズ化したばかりの彼女は結構な有名人だったそんな彼のことをよく知らなかったのだ。


 サバンナちほー。

 彼女はそこの頼れるフレンズに彼のことを尋ねた。


「あら?それシロのことかしら?彼なら図書館に奥さんと子供と一緒に住んでますわ?」


「図書館!しんりんちほーのジャパリ図書館ですね?」


「行くなら気を付けなさいね?あとサーバルに会ったらよろしく言っておいてくださる?」


「わかりました!行ってきますカバさん!」


 彼女はカバの情報をもとに破裏拳ホワイト… つまりシロの元へと歩を進めたのであった。


「私のこと、覚えててくれるかな?」オドオド


 前途多難ではあったが無事辿り着くことに成功していた。

 

 彼女の様子を見て二人は交互に話し出す。


「博士、これはもしかすると…?」


「一波乱… あるかも知れませんね」


「ですね、またシロの八方美人が始まったのです… ヒトのオスとは皆こんなものなのでしょうか?」


「さぁ… クロもいずれあのようになると思うと、少し心配ですね?ねぇ助手?」


「何やら含みのある言い方をしますね?フフ… でも、そうですね?クロにはあのような苦労はしてほしくないのです」





 バスに乗り山を降りて図書館へ帰宅した。


 到着するといい匂いが漂っている、さては今日は中華だな?


 帰るなり博士達が出迎えてくれて俺に尋ねてきた。


「シロ、どうです?」

「まぁその様子を見るに、やはりなんでもなかったのですね?」


「ただいま、二人ともいつも通りだったよ?はぁ~安心した!助手もあんまり気にしないでいいからね?」


「わかったのです、私も安心しました…」「ところで客人ですよシロ?」


 客人… 誰かな?師匠でも来たかな?


「あ!やっと会えた!」


 話しているとそんな言葉が聞こえ、図書館の中から元気よく駆け出してくる女の子が1人。


 彼女は白を基調にした黒色が入った服に縞模様があり、白く長い後ろ髪はポニーテールに… 待てよ?


 白と黒の… シマシマ?


 まて誰だっけかこの子?

 目の前に来た彼女は言った。


「アードウルフです!先日は助けて頂いてありがとうございました!」


 アードウルフ… ちゃん? 助けた?


 そうだ、ゲートにいた子か!


 あぁ!?


 “白黒のシマシマに気をつけろ”


 あぁ… 君のことかぁ…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る