第15話 船出の前に
目の前にいるのは…。
フレンズ化したが暴れないユキ、それをどうにかしようと躍起になるミライさん。
ユキ?でいいんだよな?いや…。
父さんに泣きついている、この状況ではなんにせよ俺がやることは1つだ。
ザッ
「ミライさん…」
「ハッ!?ユウキくん!」
「何が起きてるのか知りませんが、娘を傷物にしようというなら… あなたの眼鏡を叩いて砕く」ピッキーン
「え、え~っと!コホン… 彼女は孫娘ですよ?傷物だなんて人聞きの悪い、自分の孫を可愛がってなにが悪いと言うんです?」キリッ
「ガルルルル…」
「わ、わかりましたよぉ~!そんなに怒らなくたって…」
まったく、これから娘にいけないことしようとしてる人がよくそんな屁理屈を言えたものだ。
危機を回避して改めてユキの方を見ると、娘?は俺を見るなり飛び付いて言った。
「まぁユウキ!こんなに大きくなって!ママですよー!」
「ん~…?」
そんなことを流暢に話すユキをスッと抱き上げて目線を合わせて見た、可愛らしい猫耳と尻尾の生えた娘のシラユキだが…。
「母さん… なの?」
「そうですよー?すっかり大人になって… さぁママにハグして?またこうして息子に触れられるなんて思ってなかったですー…はわわぁ~…」
母らしい、やはりシラユキの姿をした母のユキで間違いないみたいだ。
じ、実感が沸かない!母さん?こんなに小さいのに?
「シロさん?あの、ユキはどうなったんですか?」
「母さんになった… らしいんだけど」
「あ!あなたがかばんちゃんね?ユウキがいつもお世話になっております~」
「え、えーっと!?は、はい!かばんです!あの、ユウキさんには妻に迎えてもらい、それからえーっとぉ~…!」
「全部知ってるから大丈夫ですよぉ?出会いから初体験まですべて知っています」
「は、初たいぅぇ!?///」
なるほど、少なくとも4才の娘はこんなこと言わないな、俺としてもどういう原理でこうなったのかわからない、知りたい。
何から話せばよいか?いきなり母さんとか言われてもなぁ、じゃあユキはどこへ行ってしまったんだ?
「あの、母さん?娘は、シラユキはどうしたの?」
「眠っているの、私は長く表に出られないから、時間が経てばシラユキちゃんに戻りますよ?心配は要りません!」
「じゃあ母さんはなんでその… こういう状態なの?最後に見た夢は無声映画みたいだったし、てっきりもう会えないものかと」
「それはわからないけど、とにかくまたこうして会えたことがママは嬉しいです!いっぱい辛いことがあったけど、今は綺麗な奥さんと可愛い子供が二人もいて幸せですね?だからママも幸せ、よかったねユウキ!」
そう言うと母?は俺の頭をその小さな手で撫でてくれた。
こんなに小さな手のひらなのに、なぜかどこか懐かしく安心感を覚える。
そうだ、母さんはいつもこうして俺の猫耳を後ろから前に優しく撫でてくれるんだ。
あぁ、母さん…?本当に母さんなの…?
「母さん…」ウル
「あらあら?泣き虫は治ってないの?困った子ね?しっかりしないとダメですよー?もうパパなんだから!」
少し呆れたような可愛いらしい笑顔を向ける小さな母を見ていると、懐かしい気持ちがワッと溢れてきた俺はさらに涙を流した。
どんどん思い出す、優しくって見栄っ張りの母さんのことを、ずっと俺を守ってくれていた母さんのことを。
…
父さんも積もる話があっただろうが、あんまり俺が泣くものだからやや遠慮気味だったようだ。
母さんも母さんであまり長く出てこれないらしく、俺が落ち着く頃にはフッと耳が消えてユキに戻っていた。
ユキはその時のことを覚えていない…。
師匠の時みたいにまた眠ったりはしなかったが、記憶が飛び飛びになっているらしい。
いつのまにか俺に抱っこされてるのでビックリした顔をしていた。
さてと、これからどうしたものか?
…
「ユキはどう?」
「今クロと一緒に博士さんたちのお話を聞いています、きっとすぐに寝ちゃいますね?」
「わかった、それじゃ… 父さんにミライさん?どうしようか?」
「そうだなぁ」
「前例というのも存在しませんからねぇ…?」
そうだ、俺も母さんに会えたことは嬉しい、父さんだっていい歳して子供のように喜んでいる。
それはミライさんもかばんちゃんも同じで、ミライさんは旧友に会えたことに感動(暴走)して、かばんちゃんは俺の母親という存在にあたふたとしたものの、挨拶ができたことに満足していた。
とにかく今気になるのは娘がシラユキなのか母なのかということだ…。
「どうしてこうなったのかな?」
「恐らくは、そもそもユキがお前を生き返らせた時のことが原因だと思う、サンドスターと一緒にユキの意識がお前の中に入ったんだろう」
「あの時は小さいし、俺は死んでいたからどんな感じだったのか… 客観的に見てもわからない出来事だったよ」
「同時に私もその場にいましたが、不思議なことが起きていたとしか… ユウキくんはユキちゃんと夢で何度か話したんですよね?」
母さんの夢…。
あれはそう、かばんちゃんがキョウシュウに帰ってくる直後くらいのことだ。
パーティーをするのにせかせかと働いていた俺は疲れのせいかぼーっとすることが増えていた。
そしてその時周りの言動や雰囲気から母のことをよく連想し、思い出すようになった。
初めに見たのは小さい頃の夢だ、記憶の映像という感じだった… これらの原因はよくわからない、パークに住んでから始まったから多分そういうこと。
とても小さい頃の記憶だった、俺が3才の頃に母は… 亡くなった?でいいのかな?だから少なくともその辺りの記憶。
それからすぐにパーティーで野生の暴走があった… 1つ共通点があったな、ユキも野生の暴走があった。
俺は姉さんからライオンという動物を学び、師匠からは力の使い方を学んだ
二人の王の協力で野生を物にした俺は修行の仕上げにサンドスター火山に登った、そのときセルリアンの大群に襲われる。
そして崖から落ちて生と死の境をさ迷った時だ、とうとう夢の中で母さんと対談した。
あれは単なる夢ではない、現実に起きたことだ…。
「あの、ユキは1度野生に振り回されてるんですよね?」
「うん、歯形を見たでしょ?」
「はい… もしかして、振り回されるくらいの野生解放をするのが切っ掛けになってるんじゃ?」
なるほど、かばんちゃんの意見によると野生解放が鍵になってサンドスターがなんやかんやした結果、母さんの意識が目覚めたのかも?ということだ。
だって俺は母さんのサンドスターを持っていたんだから。
「それはいいんだが、なぜユウキからシラユキへ移動したんだ?いつ?」
「ナリユキくんそれはほら!えっと、その~… ねぇ?かばんさん?///」
「あはは… はい///」
まぁそうだ、ミライさんの言わんとしてることは分かる、まったくデリカシーのない父親だ。
俺がサンドスターロウを吸収した時だ、それから数ヵ月後、その年の冬。
確かクリスマスの後のこと。
母さんが何度も謝ってくる夢を見た。
思うにあれは母さんがサンドスターロウと戦っていたけど、だんだん大きくなるサンドスターロウに負けてしまったことを意味する。
そしてかばんちゃんの妊娠発覚…。
“直撃”はラッキー調べによるとクリスマスの夜らしい。
あの日は燃えたぜ!おかわりしちゃったよ!二人して寝坊しちゃったんだ!テヘッ☆
それはいいんだけど、つまりかばんちゃんの妊娠時に… あの~だからつまり、主砲直撃時にですね?
その時に俺の中の“お母さンドスター”が子供に移動したのでは?そして移動した結果、俺側にあった“お母さンドスター”は残りカスみたいになって、だからサンドスターロウの侵食も加速した… これだろ、筋が通ってる。
そしてけもハーモニーを受けてから俺が目を覚ますとき、最後の夢の後に母さんの残ったサンドスターはとうとう消滅した、そう考えると無声映画だった説明がつくな。
つまり今俺は俺だけの力で生きているということだ、即ち母からの自立か…。
「なるほど、筋は通るな?とすると、たまたまユキが移ったのがシラユキの方だったと考えるべきか」
「うん、パターンが違えば髪が真っ白のクロが産まれたのかもしれない」
あるいは、母さんの影響で双子に分かれた?でもこのパターンは無しでいきたい。
だってこれじゃあまるでユキが存在しないみたいじゃないか?娘は確かに存在してるんだ。
かばんちゃんがお腹を痛めて産んでくれたんだ。
間違いなくユキは俺の子だし同時にかばんちゃんの子だ、それに機嫌がいいと歌うとこなんてかばんちゃんとそっくりじゃないか?
「父さんはどう思う?」
「仮にシラユキの体がユキの器みたいなものだとしたら、それなら本当にユキだけの人格で生まれるんじゃないか?シラユキという人格が存在する以上は間違いなくシラユキという子がお前の娘として存在しているということだと俺は思う」
そっか、その通りだ…。
それにかばんちゃんの理論を推すなら野生解放時にのみフレンズ化するという昔の俺と同じ特性にも説明がつく、俺と妻の間に産まれたからこその特性だ。
ヒトとホワイトライオンの二つの姿を持っている。
もし母さんが産まれたんだとしたら、初めから耳の生えたホワイトライオンのフレンズかま産まれるんじゃ?
つまり俺達の結論は、ユキのフレンズ部分に母の意識がくっついている… と、この考えが妥当ではないだろうか?そして同時にそれが理由でユキはホワイトライオンの影響が強く出て髪が白い。
「とにかくどうにかしようにもこんな家族は俺達しかいない、明日は予定通りゴコクのカコ先輩に会いに行こう?そこでまた相談だ」
「そうですね、もしかしたらカコさんならユキちゃん達を分離できるかもしれませんし!」
分離か、考えてなかったな…。
もし母さんが肉体を取り戻して復活できたとしたら、父さんはその時どうするんだろう?また向こうに連れて帰るのか?でもそんなこと…。
あんなイカれた世界にまた母さんを連れていくなんて。
正直、俺は反対だ…。
…
翌日。
「パパぁー!」耳ぐぃ~
「起きて起きてぇー!」尻尾ぐぃ~
「はいはぁ~い?」むぎゅ~
「「きゃあはははは!」」
「ずるーい、ママも入れて~?」
「「なかよしー!」」
いつもの朝だった…。
クロが耳を、ユキが尻尾にちょっかいだして俺が捕まえる。
今日は妻もくっついている、よきかな…。
妻は幸せそうに、二人は子供らしく元気いっぱいに笑う。
「パパお腹すいた!」
と言ったのはやはりユキだ、今は間違いなくユキ、耳も尻尾もなく母さんの意識は見られない。
「そうだなぁ、ユキはなにが食べたい?」
「なっとー!」
「嘘つくなよ~?くさーい!って食べないだろ?」
「ユキもうお姉ちゃんだから平気なの!」
ぜーったい食わないな!間違いなく!
ところで、母さんはこんな日常会話や俺達の姿も見て、聞いているんだろうか?しかし言っていたじゃないか?俺とかばんちゃんの嬉し恥ずかし初体験のこと知ってるんだぞ?普通に気まずいわそれ、母に見られた初夜とか本当やだ。
真の敵はラッキーではなく母だったのか。
まぁそれは置いといて。
「二人とも~?今日はカコばぁばに会いに行くんだぞ~?楽しみ?」
「「楽しみー!」」
「じゃあ~ちゃっちゃと準備しておっきい船にのるぞー?」
「「乗る~!」」
父さんたちは昨日のうちに港まで送った、今頃船出の準備をして俺達を待っていることだろう。
そこでだ…。
いつものメンバーに加えて是非連れて行きたい子がいる、せっかくここまで来てくれたのだ、またフラッといなくなる前に声をかけておこう。
「さぁ子供たち~?サーバルちゃん“達”を起こしておいで~?」
「「はーい!」」
…
図書館には昔はシロが使っていた寝床がある。
階段下のデッドスペースを上手いことワンルームにしていて、とても狭いが寝床にしか使われないのでまったく問題ない。
そんなプライバシースペースにはシロとかばんの家ができたあとにはサーバルが寝泊まりしていた。
そして昨晩はから今朝にかけては…。
「うみゃ~!くすぐったいよぉ///」
「おぉ~?やっぱり誰かとくっついて寝るのは気持ちがいいですねぇ~?」
「なんで尻尾をスリスリするの~!?」
「ツチノコが出ていってからずーっと一人で眠ってたから、人肌が恋しかったんですよぉ?サーバルは温かくて気持ちぃですねぇ~?」
「うみゃ~!?」
スナネコは昨晩からサーバルの寝床で夜を共にしていた。
寂しさからサーバルにピタリとくっつくスナネコ、そんなネットリとした空間に年端もいかない子供たちが乗り込む。
「サーバルちゃん!」
「スナネェちゃん!」
「「朝だよー!」」
耳と尻尾に埋もれようとした子供たち二人だったが、その光景に「?」と足を止めた。
「うみゃ~!?なんで“そんなとこ”さわるのぉ~!?あっ!」
「「なかよし?」」
「ヤバイよヤバイよ!二人の前で“変なこと”しちゃダメだよスナネコ!」
「“変なこと”というのはぁどんなことですかぁ?」サワサワ
「もぉ~!“これ”のことだよ!///」
「満足ぅ…」
…
叫び声のわりに帰ってこないなぁと思ったらサーバルちゃんが逃げるように駆け出してきた、続いて後ろからルンルンと手を繋いで三人が現れた。
滅多に会わないのにスナネコちゃんは二人と仲がいいな?好かれやすいのかな?
「おはよう二人とも、今日は早起きだったね?」
「スナネコが朝から…」
「朝から?」
「な、なんでもないよ!///」
いったい子供たちの前でなにが起きていたんだ!なぜ頬を赤らめている!
けしからぁん!!!
「おはようございますシロ~」
「サーバルちゃんになんかしたでしょ?」
「スキンシップですよぉ?」
「「なかよしなかよしー!」」
なに“なかよし”だとぉ?
俺とかばんちゃんは昨晩我慢してたのに!ゴコクでツチノコちゃんに言いつけてやる!
という茶番はとりあえずすっ飛ばして、本題に入らせてもらおう。
俺はゴコクのカコ先生に会いに行く話をスナネコちゃんに伝えた。
今回は子供の誕生祝いに挨拶がてらほんの数日の滞在なので、前のように一年以上いるつもりはないが。
「どうスナネコちゃん?せっかくだから会いにいかない?ツチノコちゃんに」
「ボクも着いていっていいのですか?」
「キョウシュウの旅もそろそろ飽きたんじゃない?」
「そんなとこはありませんが…」
と一呼吸置くと彼女は満面の笑みで俺に言った。
「そっちの方が面白そうですねぇ~!」
決まりだ!
ツチノコちゃん、元気にしてるかなー?
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