第13話 なにはともあれ

「ユキ!」


 娘が野生解放してセルリアンを倒した。


 が、母であるかばんはその事実よりもパッタリと倒れてしまった娘の身を案じた。


「ユキ!しっかりして!ユキ!」


 バスを降り、タ走りだし、すぐに娘を抱き上げた。


 見た感じ怪我はなく穏やかな顔で「スースー」と寝息を立てている。


 その姿にかばんはとりあえずホッと胸を撫で下ろした。


「かばんちゃん!後ろのやつが来てるよ!早く戻って!」


 しかしかばんがバスに戻る頃にはすでに2体のセルリアンが目前まで迫っていた。


 セルリアンの補食対象はフレンズ、そしてその場にいるフレンズはサーバルとかばん、あるいは娘のシラユキも該当するのかもしれない。


 その時サーバルは考えていた。

 

 セルリアンの前に立ち自分が囮になればと…。


 だがサーバルのやろうとしていることは空気で何となく皆に伝わり、そこにいる全員がそんなことをさせるわけにはいかないと止めに入っていた。


 皆焦っていた、このままでは全滅だ。


 しかしナリユキは思考を止めることはなかった、ここで自分が考えるのをやめたらそれこそサーバル任せになり、彼女を失うことになるかもしれない。


 冷静に、焦らずに、でも急いで。

 彼は答えをだした…。


「わかった!サーバルちゃん下がりなさい!」


「えぇ!?でもどーするの!?」


「ユウキには悪いが… “サンドスターエンジン”を高回転で維持すればフレンズほどではないが輝きが集まるはずだ!バギーをエサにするぞ!」


 改造されたジャパリバギー、それには“サンドスターエンジン”という物が搭載されている。


 サンドスターエンジンとはナリユキがカコ博士の助言を得たことにより完成させた例のカプセルの技術の応用。


 大気中のサンドスターを吸い動力に変換、よりクリーンで効率の良いエンジンを作り出すことに成功したのだ。


 ただしサンドスターのあるパークでしか実用不可能なため、試験運転は現地で行うこととなっていた。


 そんなバギーをセルリアンの足止めに使うのだ。


「自分に任せてください」


「シンザキちゃん!危ないよ!」


 ここで名乗り出たのはシンザキだった。


 彼はバギーのアクセルを全開にして出力を上げる、するとキュゥゥゥン!!と唸りをあげ、空ぶかし状態のバギーはどんどん大気中のサンドスターを吸い続ける。

 

 その時、セルリアンは手近に輝きを放つバギーに視線を移した、作戦は成功。


 しかし…


「このまま固定しておきたいですがぁ…」


「シンザキちゃん!早く来て!」


 彼もまた、サーバルを囮にするくらいなら自分がその役目を… と思っていた。


「シンザキくん戻れ!セルリアンは心の輝きも奪う!廃人になりたいのか!」


「行ってくださいみなさん、覚悟ぉ… 決めますかねぇ?」


「イヤだよシンザキちゃん!早くこっちに来てよ!」


「サーバルぅ… 元気でぇ…」


 サーバルが涙し、シンザキが目を閉じたその時だった。


「ガァァァァアッ!!!手ぇ出してんじゃあねぇぞぉぉぉおッ!!!」


 そんな叫び声が聞こえると、ズバァァァァァンッ!!!という轟音と共に光の拳がセルリアンの本体ごと石を叩き潰した。


 やったのはシロ、今の彼ができる最大の獅子王の前足である。


 続いてブラックジャガーも空からもう一体に奇襲をかける。


「あの時よりさらに大きな拳… あのサイズを本体ごと潰してしまうとはな、恐ろしい技だ… がオレに言わせれば」


 シュッ と無駄の無い一撃をもう一体のセルリアンに仕掛けたブラックジャガー、シロとは相反し、その落ち着きがありクールな一撃は石に直撃、パカァーン!ともう一体も弾け飛んだ。


「まだまだ無駄が多いな、石を砕くのに大きさは必要ない… 鋭く、速く、正確にだ… 一撃とはただ当たればいいというものではない」


 空より現れたシロとブラックジャガーは、瞬く間に2体のセルリアンを始末した


 間一髪助かったシンザキは、安心したのかその場に腰を抜かしへたりこんだ。


「みんな!怪我は!」


 なんとか間に合った… か?シンザキさん危なかったな、逃げないでなにしてたんだろうか?


「シロさん!あぁよかった… 信じてました!シロさん…!」


 そう言って俺の胸に飛び込んできた妻… よほど怖がらせてしまったのか肩はまだ小さく震えていた。

 安心させるために優しく抱き返すと、話しを続けた。


「ごめん遅くなって… 大丈夫?ユキと父さんたちは?」


「みんな平気です、ユキは今眠っています」


「そっか… よかった」


 間に合ったみたいだな…。


 周囲にセルリアンの気配は無く、どうやらこの場は殲滅が完了したようだった。


 やれやれ、子供達にはとんだ誕生日にしてしまったな、ユキも恐かったろうに。


「シンザキちゃん!なんですぐに戻らなかったの!わたしシンザキちゃんにいなくなってほしくないよ!」


「あぁしてないとまたサーバルに目が向いてしまうのでぇ離れる訳にいかなかったんですよぉ」


「だからってシンザキちゃんが食べられていい理由にはならないよ!」


 サーバルちゃんから強めにお叱りを受けたシンザキさんは困った顔をしていたが、ここまで心配してくれるサーバルちゃんを見て若干やぁ喜びを隠しきれていない様子だ、末長くサーバルぅしてくれ、クロには申し訳ないがこの場合サーバルちゃんの気持ち次第なんだ、許せ息子よ。


「ひゅ~…さすがにヒヤッとしたなぁ、助かったぞユウキ」


「本当だよ… って父さん達さぁ!なんか対抗できる武器とかないわけ!?パーク撤退の当事者なんだからセルリアンの危険性くらいわかるでしょ!なんで丸腰なんだよ!」


「ざっくり政府方面のお達しでな、安全性を確かなものとしてパークの復興をするための調査なんだから武器なんて不必要とされてるんだ、護衛もいないし丸腰… まぁどちらにせよセルリアンは石以外に銃乱射したって無意味だ、それにサンドスターを武力に使うのもなぁ… 正直気が進まん」


 聞くに国々から見てもパーク復興派のみなさんは目の上のたんこぶらしく、変わり者の集まりなど勝手に危険に飛び込んで消えてくれという感じで上陸が許可されたらしい

 それでもミライさんは「完全隔離から上陸ができるようになったのは大きな前進です!」と指揮を取る、バイタリティに溢れた人だ。


「とにかくここからは俺とブラックジャガーさんで護衛をするよ、ブラックジャガーさんもいいかな?」


「もちろんだ、引き受けよう」


「ありがとう! …博士達は先に図書館に戻ってこっちは大丈夫だってみんなに伝えてあげてくれる?」


「こちらも引き受けたのです」

「シロ、油断してはいけませんよ?」


「りょーかい!じゃあ行こう!」


 そんなけで、さぁ護衛開始だ。


 しかしまてよ?あれに見えるは俺のバトルホッパーじゃないか。←バギーです

 

 詳しく聞くとついにジャパリパーク専用の究極のエコロジーエンジンであるサンドスターエンジンの搭載が実現したらしいじゃないか?


 素晴らしぃ… んじゃ早速。


「まてユウキ、少し話したい、バスに乗れ」


「ヘアァッ!?」


 親父ぃ… どうしたんだぁ…?


 バギーに浮かれていた俺だが話を聞くとそうはいかなくなった。


「ユキがセルリアンを!?」


「そうだ、フレンズ化は前にもあったって?」


「一回だけ…」


「その時はどんな様子だった?」


 ありのまま起きたこととして、野生に振り回されて暴れ回ったと俺は話す、それを聞くと父もミライさんもさらに頭を悩ませていた。


「今回は私から見ても随分落ち着いているみたいでした… いえ、驚くほど冷静に私に言いました“あれくらい倒せます”と」


「ユウキ、俺とミライさんは同じ意見なんだが、信じるかどうかは任せる… 俺にもどういうことなのかさっぱりわからん」


 二人は神妙な顔で目を合わせると俺を見て言った。


「あれはシラユキじゃない、“ユキ”だった」


「えっ… とそれはどういう?」


「あなたのお母さんのユキちゃんです、私達は間違いないと思っています」


「はぁ…?」


 母さん…? ユキが母さん?


 今ユキはミライさんの膝枕でスヤスヤと眠っている、その様子に“4才の娘”という以外の印象は感じないし、もちろん今は髪が白いだけで耳も尻尾もない。


 いつもの可愛い俺の娘だ。


 でも、そのユキが母さん?意味がわからん。


 似てると思ったことはあるがそのもののように感じたことなどない、それにユキが母さんならユキの人格はどうなってしまうんだ?妻が母を産んだとでも言うのか?


「野生解放より前はシラユキだった、セルリアンに怯えミライさんに泣きついていた

 だがその後だ、いつのまにかシラユキに耳と尻尾が生えていてセルリアンを一体倒した、あの動きは狩りに慣れた動きだ、4才の女の子が即興でマネできるものじゃない」


「じゃあ人間の時はユキだけどフレンズの時は母さんってこと?冗談やめてよ、だって母さんはもう…」


「うん… 飽くまで予想だが、お前の中に残っていたユキのサンドスターがシラユキに移ったのか、あるいはそもそもユキのサンドスターが理由でこの子が生まれたのかもしれない、これは今回限りかもしれないし野生解放で人格が変わるのかもしれない… すまない、俺にもまるで説明がつかん」


 今考えても仕方ないんだろうか…?

 

 母さんに会えるのは嬉しいけど。


 なぜか、娘を失ってしまったようなそんな気持ちになってしまう…。





「おいお前、何をさっきからジロジロ見ている?用があるなら言え」


「すんません、あなたはブラックジャガーさんですやんか?」


「いかにも、オレはブラックジャガーだが… それがどうかしたか?」


 俺が父さん達とシリアスしてる間を縫ってすぐ側でなにか始まりそうになっている、ナヤカマさんまさかブラックジャガーさんに手を出すつもりか?

 

 やめとけ!やめとけ!彼女は気難しいんだ!


「ブラックジャガー… ジャガーの黒変種でしばしばクロヒョウと間違われるんやけど、ジャガーっちゅうのは顔がでかくて首が太くて足が短くてぇ、ちょっとずんぐりむっくりした感じする頑丈な体をしとるし… よく見ると丸っこいわっかとその中に点々もある」


 おいやめろ!女の子やぞ!デリカシーってもんはないのか!


「…続けろ」←ちょっとショック


「トラやライオンに次ぐ大型猫科動物で、どこでも狩りができるようになっているその体、そしてジャガーというその名前の由来は“一突きで殺す者”… さっきの軽やかで無駄の無い一撃、まさにジャガーの名に相応しい見事なものですやんか?大ファンです、握手してください」スッ


 けなすのか褒めるのかどっちかにしなさい!あの顔見てみろよ!すげえ睨んでるぞ!八つ裂きにされる前に謝れナカヤマさん!


「オレのこと、随分と詳しいな?お前は何者だ?」


「ナカヤマです」


「ナカヤマ… そうか、お前が妹の言っていた面白い男か?よろしく頼む、改めて、オレがブラックジャガーだ」ギュッ


「感無量… ですやんか?」ギュッ


 えぇ~!?わっかんねぇー!?ブラック姉さんなに考えてるのかさっぱりわからん!

 しかもナカヤマさんしれっとジャガーちゃんから乗り換えやがった!ジャガーならなんでもいいのかよ!マジでいい加減にしろよ!


 なんかここ異次元過ぎてさっきの話し騒ぐほどでもない気がしてきた!満足!





 無事図書館に着くとすぐにクロが駆け寄ってきた。


「パパ!ママ!」


「クロ、いい子にしてたか?」

「ごめんねクロ… 寂しくなかった?」


「みんなといたから、平気…」


 だが、その声は今にも泣き出しそうな震えた声だった。


 よく頑張ったなクロ。


「そっか、強いなクロは?男の子だもんな?よしよし!」


「サーバルちゃんは…?」


 あぁ、後ろを走ってたからな…。

 俺はバスの向こうを指差すと間もなくバギーに乗ったシンザキさんとサーバルちゃんがこちらに駆け寄ってきた。


 クロはそれを見ると、血相を変えて走り出していた。


 まさかシンザキさんに危害を加えるつもりではあるまいな?彼は一応サーバルちゃんのために犠牲になろうとした勇者だ、見逃してやってほしい。


 俺は少し心配しながらクロを後ろから見守った、すると…。


「あ、クロちゃん!遅くなってごめんね?寂しかった?ほらおいで!」


「…」


 サっといつもの笑顔で腕を広げたサーバルちゃんを前に不安そうな顔になっているクロ… それを見た彼女はなにか察したように言った。


「あ、ごめんね?クロちゃんはもうこういうのイヤだったよね…?」


 すれ違いだ、それは違うサーバルちゃん… クロは照れているだけだ、本当はまた耳しゃぶとかしたいんだけど恥ずかしくって目も合わせられないんだよ。


 説明するべきか… と思っていたが。


「でもクロちゃん一緒に来なくてよかったよ、だってあんなにセルリアンがいるなて思わなかっ…」「さぁーばるちゃぁん!えぇ~ん!」ギュウ~


 驚いた…。

 さっきまで我慢していたんだろう、みんなの無事もそうだがサーバルちゃんの元気な姿を見て安心したのかクロは大泣きし始めた。


 赤ちゃんに戻ったのかというくらい大きな声で泣いている、こんなに泣いたのは一番最近では“月夜に笑うセルリアン 作タイリクオオカミ”以来だ。


 驚いたのは俺だけではない、サーバルちゃんも突然泣きながら飛び付いてきたクロにワッとビックリした顔をしていた。


「どうしたのクロちゃん!どこか痛いの!?」


「もうサーバルちゃんに…ヒッグサーバルちゃんに会えないかと思って…グスン」


「そっかぁ、心配してくれたんだね!でも大丈夫だよ!セルリアンなんて自慢の爪でやっつけちゃうから!」


「ぼくがおっきくなったら… サーバルちゃんを守ってあげる?グスン」


「うん、ありがとうクロちゃん!あ、耳触る?」


「うん…」


 あぁ… なんて… なんて感動的な…。


 もうダメ!自分の子供のこんなとこ見たら…!俺もうダメ!目から熱いものが…!


 ふぇ… パパ泣いちゃう! 


「もう~シロさんまで泣いちゃって…」 


「はわわ~だってかばんちゃん… クロがスゴいいい子だよ?」


「そうだなぁ、クロユキは優しいなぁ…グズグズ」


「ナリユキくんまで泣いてるんですか?フフ、歳ですか?涙脆くなりましたね?」


 そんな大の男が親子三代揃って泣き、落ち着いた頃、すっかり人も集まり準備もできたのでパーティーを始めることとなった。


 そして…。


「ぱぁぱぁ~!お腹すいた~!」


「ユキ!起きたのか?痛いとこないか?」


「お腹すいた!ケーキ食べたい!」


 ふむ… ユキだな?間違いない、娘のシラユキだ。


 まさか母さんが幼児のフリをしている訳ではないだろう、だがこうして見ると確かに母さんとよく似ている… 少し食い意地の張ったところなんて本当「はわわ」って感じだ。


「よーし、じゃあ今持ってくから座って待ってて?クロと一緒にロウソクふーってしないとな?」


「フーってするー!」


 クロも無事サーバルちゃんと前みたいに仲良くなったし、シンザキさんには仏頂面向けるけど。


 ユキのことは気になるが、今考えても仕方ない。


 今度母さんに語りかけてみよう、本当にそこにいるなら多分届くだろう。


 それからカコ先生にも協力してもらって。


 え~っと…。


 まぁ、なにはともあれ…。



「「お誕生日おめでとー!」」

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