お菓子な話
黒い猫
出会いは突然訪れる……
お
そもそも、甘いモノが苦手……という人はいても『お菓子』そのものを苦手……という人は、あまりいないのではないか……と俺は思っている。
お菓子を食べた時、みんな笑顔になる。俺はそのためにお菓子を作っている。その場で見られる訳ではないけど、俺が作ったモノで笑顔が生まれるなら……それが一番うれしい。
でも、俺は……本当に笑顔に出来ているのだろうか……俺は自分の親にすら、しばらく会っていない……いや、会いたくないのに――。
◆ ◆ ◆
「じゃあ、今日はコレとコレ……あっ、あとコレも!」
「……って」
俺は、自分の手に持っている木で出来ているトレイから目を離さず尋ねた。
「……ん? 何?」
「こっ、こんなに食べる?」
そこには、女性が1人で食べるにはいささか……いや、かなり多すぎる数の『お菓子』が乗っている。
「……そう? これくらい普通よ? いつもこれくらい食べるし、大丈夫! それに、みんなも普通にこれくらいは食べるし、自分へのご
「そっ、そう」
まぁ、食べるであろう人が「大丈夫!」と言っているだから……、多分。大丈夫なのだろう。
しかし、俺の記憶が正しければつい最近も「体重が増えた―!」とか言って『お菓子禁止宣言』をしていたはずだ。
ただ、俺がそんな話をしたところで、この人はいつもの様に「大丈夫大丈夫!」と笑いとばして、聞かないのだろう。
「それで……コレでいい?」
「あっ、ちょっちょっと待って! うーん、やっぱりこのマフィンも……いや、こっちのスポンジケーキの方が……」
女性はもう一度冷蔵庫の中にあるお菓子をジッーと見つめ始めた。
「……」
それはつまり、まだまだ時間がかかる……という事を示していた。
◆ ◆ ◆
「……はぁ」
ため息をつきながら見上げた空は、ポカポカと暖かい陽気だった。
こんな天気の良い日は、草原で寝っ転がって昼寝をしたい気分だ。いや、どうせならお昼寝だけではなく、ピクニックをするのもいいだろう。
「全く、あの人は……」
ただ、今の俺には『やらなければならない事』があった。
「いつも……突然頼むんだから」
それは、ついさっきまでいた女性……。
もっと詳しく言うと、ついさっきまで冷蔵庫の前で『お菓子』を
しかも、帰り際――。
姉さんは俺に向かって「たまには帰って来てよ? お父さんも心配しているから」と言って帰っていった。
それだけなら、いつもの事なのだが……姉は「ついでに……」とかなり厄介な『注文』を俺に渡していった。
帰り際の姉の表情は少し寂しそうだった。
だが、玄関にかけている……手とは逆に持っていた『大量のお菓子が入った袋』がなければ、もう少し説得力があったのに……と思ってしまう。
まぁ、そこが姉さんらしいといえば、姉さんらしい。この大事なところが決まらない感じが……。
「さて、この件をどうしたものか……って、ん?」
ふと目にした玄関は……確か姉さんが帰る時キッチリと閉めて行ったはずだ。しかし、それが今はなぜか不自然に開いていた。
「……お客か?」
俺は不思議に思いながら少し開いていた玄関に手をかけ、扉をさらに大きく
時は、少し
ここは、先ほどの『お
『森』だ。
しかし、今のここは全く『緑が生い茂る』なんてモノを全く感じさせない。もはやここは『森』ですらない。
今、ここに広がっているのは……『枯れ果てた大地』だった。
そんな枯れ果てた大地の土から、小さな小さな『茶色の動物』がピョコっと可愛らしく顔を出した。
ただその『動物』は不思議そうに目を丸くし、辺りをキョロキョロと見渡した。
「……えっ?」
この『動物』は、多分。外がこんな状態になっているだなんて、夢にも思っていなかっただろう。
なぜなら、この『動物』は今まで土の中で『冬眠』していたのだから――。
「……どういう事? 何、この状況」
僕は、目の前の変わり果てた風景に思わずそんな言葉を
なぜなら、そこには僕の知っている『緑豊かな景色』ではなく……いや、もはや緑一つない……ただの土地が広がっているだけだったのだから――。
『シマリス』
人間たちは僕たちの事をそう呼んでいる。
でも、もっと細かくすると、僕はシマリスの中でも『トウブシマリス』という種類になるらしい。
そんな僕たち『シマリス』は……いや、『リス』たちは全員『
しかし、実は種類によっては『冬眠』をしない。
だけど、僕たちは冬眠をする。そのために僕たちは秋の間にたくさんの食料を集めている。
でも、まさかその寝ている……『冬眠』している間に『森』が丸ごとなくなっているとは思ってもいなかった。
「……どうしよう」
僕は、ちょっと困った。でも、僕はちょっとの事では
それに、なんだかんだ言って『本当にどうしようもない事』という状況は、僕が今まで生きてきた中でほとんど起きていない。
「……うん。あっちに行ってみよう。なんか甘いにおいがする!」
僕は、森の少し離れたところから感じたにおいを目印にゆっくり小さく歩みを進めたのだった……。
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