hide creature7

 白い無地の壁の部屋の中心に黒いローテーブル、それを取り囲むように白い大きめのソファがふたつ更に小さいナチュラルな雰囲気のいすがひとつおいてあった。

 奥にはさらにダイニングテーブルなどが置かれていたり、キッチンらしいところもあったが、アギリはそれは後にしておいた。


 そこにそれぞれ人物がいた。


 右の大きめのソファにはパソコンをいじるグレーのハイネックを着た大柄な男。大柄といっても体格は痩せ気味である。

 あまり寝れてないのか時折あくびをしている。


 左のソファには仰向けで寝ている男がいた。ソファの下にいくつかペットボトルがおちている。寝ている男が飲んだものだろうか。

 顔のところに雑誌が乗っているので顔は見えないが、男の来ている黒のTシャツに白で「侍」と書いてあった。どこかの都市の定番土産物にありそうな一品である。

 アギリは思わずそこに目がいってしまった。


 が、それ以上にアギリは一番奥の椅子に腰かけていた人物に目がいった。


 整った金髪をサイドテールでまとめ、蒼い目でこちらを見ている。その女の凛とし見慣れた姿に釘付けになる。


「お、お姉ちゃん!?」


 アギリはなぜ、姉が…………ラーヴァここにいるのか、それが脳内を埋め尽くしていた。


「ん、久しぶり」


 そんなアギリとは対照にラーヴァの返事は落ち着いたものだった。


「で、そいつが新入り?」


 とたんにパソコンを弄ってた男が口を開いた。アギリがそちらに目をむけると男と目があった。

 目付きが悪いうえにひどい隈のせいでよけい目付きが悪く見える。アギリは一瞬睨まれているのかと勘違いしてしまった。


「うん、そうだよ。今から紹介するよ。……そこ!!寝てないで起きて!」


 そういうとジャスティーは落ちていたペットボトルを拾い男の顔を雑誌の上から小突いた。男は小さなうめき声をあげた後、顔に乗った雑誌をとりながら起き上がった。


 くすんだ茶髪に黒い太と縁の眼鏡をかけている。眼鏡は若干ずれ、髪も寝ぐせで所々跳ねていた。男は延びをし、「おはよー」と言った。一言で言えばだらしない。


「ほら、早く場所開けて」


 ジャスティーがそういうとメガネの男は姿勢を直し、ペットボトルを雑に端の方に寄せて人一人が座れるほどのスペースを作った。


「あ、アギリはそこに座ってね」


 と、ジャスティーはパソコンを弄っている男の隣の開いたスペースを指差して言った。アギリは言われた通りに男の隣に腰かけた。


 さっきも見ててアギリは思っていたが隣に座ると更に男の背の高さを感じた。もしかすると190cm近くあるかもしれない。


 アギリがそんなことを考えているうちにジャスティーはあの独特なTシャツを着た男の隣に座った。

 独特なTシャツを着た男が黙ってアギリの顔をまじまじと見つめた。アギリはしばらく硬直していたがなぜか恥ずかしくなってきて目線を逸らした。


「あ、この子が言ってた子?」


 と、Tシャツの男が能天気な顔で言った。


 アギリは反射的に「あ、アギリです………」と、言ってしまった。


「そうだよ。あと薬莢拾いお疲れ」

「もー、やめてよー機関銃使うの、この前も言っただろー?」


 と、Tシャツの男はそう言うと更に「薬莢って数あると重たいんだからな?」と言い肩を回した。薬莢とは先ほどのあのことだろうか。


「あーもう、そんなことより自己紹介して」

「ハイハイ………」


 と、ジャスティーの言ったことにTシャツの男は返事をし、再びアギリのほうを見た。


「どーも!新入りさん!俺がここのドアの貼紙かいたやつだよ!」


 と、ニコニコしながら言った。


「………じゃあ、あのトマトもあなたが?」

 なにを話せばいいのかもわからず、アギリがそう言うと男は「そうそう!!」と答えた。なぜかこのときアギリは敬語になっていた。というかこいつのテンションについていけない。


「まあ、俺のことはKPとでも読んでよ」

「キーパー?本名ですか?それ。」


 アギリが尋ねるとKPと名乗った男は

「それはどうだろーな」

 と、答えた。


 心なしかアギリは彼の目が一瞬だが鋭く見えたような気がした。


「こんぐらいでいい?」


 と、KPはジャスティーに言った。


「………まあいいか。んじゃ次、ガクト」

「横山ガクト、俺は本名だからな」


 と、アギリの隣の男はパソコンを弄りながらそっけなく答えた。ちらりと一度こちらを見た時目が合った。相変わらず目つきが悪い。


 アギリがガクトと名乗った男のパソコンに目を落とした。パソコンの画面にはひっきりなしに文字と数字が流れ続けていた。


 電子機器関係の知識はアギリは無に等しいものだが、これは何かのプログラムとかだろうか。ガクトは慣れた手つきでキーボードを打ち続けている。アギリはそれが何なのかが気になったが何故かきいてはいけないような気がした。


「おいおい、もう少しなんかいったらどーよ。つまんねーじゃんか」

「じゃあ他に何いえばいいんだよ」

「好きな食べ物とか?」

「小学生かよ」

「俺はジンジャーエールだからな」


 KPとガクトがそんな茶番をくりひろげているなかアギリはラーヴァの方をみた。


 ラーヴァは腕組をし、足を組んで退屈そうに茶番劇を見ていた。アギリはいまだになぜ姉がここにいるのかが引っ掛かったままだった。


 アギリは思わずラーヴァを凝視してしまっていたのか、ラーヴァはアギリに対して


「私の顔に何かついてる?」


 と、言った。アギリははっとし、思わず目を反らした。


「いや、なんでこんなとこにお姉ちゃんがいるのかがいまいちちょっと…………」


 と、アギリは答えた。ラーヴァは腕組みをやめ椅子の背もたれに持たれた。

「もともと、私はここにいる人間だったんだよ。」


 それを聞いて、アギリの目が点になった。


「え?そうなの!?いつから……………」

「丁度前の仕事を止めた辺りからかな」


 姉は今病院の事務仕事をしているのだが、その前までは別の仕事をしていた。アギリはなんの仕事か聞いたことはなかったが、その仕事を止めたのはたしか2年ほど前だったはずだ。


「そんなに前から…………」

「ちょっとお二人さん?話しているとこ悪いんだけど説明入るよ?」


 アギリとラーヴァの会話を阻んだのはジャスティーの声だった。そういわれるとアギリはあわててジャスティーとKPの方に体をむけた。ラーヴァは携帯を開いて時間を確認すると立ち上がった。


「あれ、どこ行くの?」

「仕事。同僚がひとり休んじゃって変わりにこの時間に入ることになった。じゃあ、いってくる」


 そう言い残すとラーヴァは部屋を出ていった。姉はなにかと人に対して素っ気なかったりする。アギリにも似た節はあるので気持ちはわかる。


「あーあ………いてくれたら楽だったのに。まあ、いいか。じゃ、説明してくよ!」


 と、KPが言った。この人はなんか妙にテンションが高いな、とアギリは思った。


「アギリはさ、能力検査とか受けたことある?」


「いや、ないです。」と、アギリは答えた。

 するとKPは「まあ、あれ高いしねぇ………もうちょっと安くなんないかなぁ」と、ぼやいていた。


「ここに来た人たちはとりあえずそーゆーのを受けるんだ。それでそこでこんな紙を渡される」


 と、KPは紙をローテーブルの上においた。その紙には一番上に太文字で「能力診断書」とかかれていた。その他にいろいろなメーターやグラフがかかれていた。

 名前のところはよくあるような「診断 太郎」というので埋められていた。


「まあ、これで自分の能力がどんなのかを判断するってわけよ」

「へぇ………このなにもかかれてない白いスペースには何をかかれるんですか?」


 アギリは太文字のすぐ下にあったスペースを指差した。そこだけ空欄になっていた。


「ああ、ここにはランクを書かれるんだ」


 そう言ってKPは更に続けた。アギリはジャスティーからランクの話はされていたが深くはきいていなかった。


「まだあまり広まってはないけどな、一応ランクってもんがあるんだよ。ここにはA~Eのランクが書かれる」


 なるほど。ここに自分のランクが記入されるのか。アギリは納得した。


「このランク分けは学校なんかで受けるアンケートなんかでもざっくりだけど振り分けることができる。けどより正確なことを知りたかったらこっちだな」


 アギリはそう聞きながら診断書を眺めていた。たしかに小学校の時なにかアンケートを受けたことはあったような記憶はあった。


 だが、明確な詳細などは生徒には特になく、ただどの生徒がどのような能力を持っているかを教師が把握するためのものだったかもしれない。


「あと、もうひとつ。ランクについて言わないといけないことがある」


 そう言ったKPの声にアギリはKPの方をむいた。KPの顔は笑っていた。が、目は真剣だった。


「このランクには例外がある」

「例外?」


 アギリが首をかしげるとKPは続けた。


「能力は人それぞれ。まず所有者とみ所有者。そして、もちろんこの場にいる全員の能力は異なる」


 そう言うとKPはジャスティーの方をみた。するとジャスティーは手を広げた。すると手の平の一点が光だしそこからボールペンがひとつ出てきた。


「僕の能力はありとあらゆる物を自分の体から「創りだす」能力だよ。さっきの機関銃もそれで創ったんだ」


 さきほどの光景はそういうことだったのか。便利な能力だな。と、アギリは思った。


「ガクトの能力は「干渉」。めんどくさいから説明はまた別の機会にするけど、使いかた次第ではさまざまなことができる」


 KPはガクトの方を見た。ガクトは相変わらずパソコンに目を落としたままだった。


「で、俺のは………」


 KPはそう言うと手を出した。するとジャスティーはKPの手にハイタッチした。KPは「ありがと」というとジャスティーというと、そのまま手のひらを広げた。

 そして、手一点が輝きだしそこからペンが作り出された。


「俺のは触れた相手の能力を「コピー」する能力だ」


 そう言ってKPは創ったペンでペン回しを始めた。本当に皆さまざまな能力を持っていた。アギリが初めてみる能力ばかりだった。


「で、これらの威力、性能、希少性とかによってランクが振り分けられるだけど…アギリ、俺さっきランクは何から何までって言ったっけ?」


 アギリはそうKPに問いかけられた。


「えーと…………A~Eだったような……」


 アギリは記憶力に自身はないが何とか答えられた。しかしKPは首を横にふった。


「たしかに俺はそう言ったな、けど厳密にいえばそれは違う」


 KPはそう言うとずれていた眼鏡をかけ直した。


「ごく稀に威力、性能、希少性…………その他いろいろなことにおいてずば抜けたものを持っている者がいる」


 KPは更に続けたら。


「そういうやつらにはランク判定''S''がつく」

「ランク……''S''?」


 アギリが言うとKPはうなづいた。


「ランクE~Bが約85%に対しランクAは約15%ほど、Sに関しては0.1%にも満たない」


 KPはただ機械的に淡々とした口調で述べた。


 近年世界人口は100億人をこえ、異能力所有者も50億人をこえた。そのなかでランクAは約7億5000万人、Sは5000万人にも満たないことになる。

 アギリは頭の中で計算してみた。数字は大きいが割合で考えるとごく一部であることがわかる。


「で、今hide creatureは総勢32名。ほとんどがランクAなんだけどそのなかでランクSが3名いる」

「へぇ…」

「そのうちの二人がジャスティーとガクトだ」


 アギリはそう言われてジャスティーと、ガクトの方を交互に見た。ジャスティーはとくに目だったそぶりは見せていなかった。ガクトはちらっとこちらを見たがすぐパソコンに目を落としてしまった。


「三人目は今はここにはいないけどじきに会うことになる。まあ、君ももしかしたらランク判定Sが出るかもしれないけど」


 そう言い終えるとKPはううーん、と伸びをした。


「まあ、俺が今説明できるのはこんぐらいかなぁ………また、聞きたいことがあったら何でも聞いてくれよなっ!!」


 アギリはKPにさっきの真面目ヅラはどこかに飛んでいき、ちょっと胡散臭い満面の笑みでそう言われて本名を問いつめて見ようかと思ったが、別にどうでもいいかなと思いやめておいた。

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