hide creature2
人類がなんらかしらの特殊能力をもつようになってからどのくらいがたつのだろうか。
学校の歴史で習ったのはたしか1000年くらい前だったような気がする。今は世界総人口の半数以上が特殊能力をもつようになった。
だが、それにつれてさまざまな課題も出てくるのは当然だ。なかでも最も問題視されているのは謎の生命体__「クロウ」の出現だった。
「クロウ」の出現は今からおおよそ1000年~900年ほど前らしい。ちょうど人類が特殊能力を持ち始めた時期と同じくらいだが関係性は全く不明。そもそもなぜ人類が能力を持ち始めたのかもわかってない。
クロウの正体を暴こうと様々な学者がクロウを捕獲し研究しようとした。が、どうやらクロウは陰さえあればどこかへ逃げてしまうし、生命力が弱すぎると自然消滅してしまう。かといって強すぎても暴れて多大な被害が出る。これがクロウの研究を阻んでいる。
それでも近年になって分かってきたこともある。クロウは生き物の精神を糧にしてどんどん肥大化し動物に寄生して精神を蝕み続ける。そして、駆除すると黒色の玉へと姿を変えるようだ。これを黒玉と呼ぶ。これはクロウが貪った精神の量によって大きさが変化する。
…………と、クロウのことを考えながらアギリは人気のない通りを歩いている。頭のあまりよくない自分でもこのくらいはしってる。
「……この町にまだ住んでいる人っているのかな…」
この町は三年ほど前にゴーストタウンと化した。理由は世界各地でおこったクロウの爆発的増加だった。この町の三分の1がクロウの餌食となった。そして生き残った人間はクロウの出現が少ない都市部へと移った。
アギリは幸いにも生き残ることができたが、引っ越す余裕もなかったためこの町にとどまり続けている。歩けば三十分ほどで隣町へいける。今は高校をやめ隣町の売店で働いている。
ある程度お金がたまったら隣町へ引っ越そうかなと考えていた。ドアの立て付けが悪くなってきたし大雨が降るとところどころ雨漏りしてくる。まあ、ドアの立て付けが悪くなったのは自分がドアを蹴っ飛ばして開けるからなのだが……………。
そう考えながらアギリは次の角を右へ曲がった。が、その直後背後から何かの気配を感じ取った。すぐ振り返ると電柱の陰から黒い犬………のようなものが飛び出してきた。
アギリはとっさに後ろへ飛んでかわした。黒い犬かは地面へ突っ込んだ。灰色のアスファルトが衝撃で少しへこみひびがはいっている。が、黒い犬……の姿をしたクロウはまだへばってはいない。
「チッ……これでへばってくれれば楽だったのに…」
そう言いはなつとクロウはアギリの方へと突っ込んできた。
…………ああ、……やだな、この感じ。
自分の体が暑くなっていくのを感じ心臓が脈打つ音が大きく聞こえる。どうもこの感覚は好きになれない。クロウの動きが遅くなってみえていく。まあ、いつものことだ。
アギリは迷うことなく、クロウの攻撃をかわしながらクロウの右前足をつかんでバランスを崩させそのまま思いっきりアスファルトへ叩きつけた。ドン!! と大きな音と共ににクロウは断末魔をあげ暫く痙攣したのちうごかなくなった。そして黒い蒸気を上げ野球ボールほどの黒玉へと姿を変えた。
「やっぱりこんぐらいか。まあ、なかなか大きいのはいないし」
そう呟いてアギリはバキバキにはいったアスファルトのひびの中心に転がってる黒玉を拾い上げた。黒玉は真っ黒な見た目に反して羽のように軽い。ちょっと風が吹けばどこかへと転がっていってしまうほどだ。アギリは黒玉をポケットに突っ込んだ。
クロウが爆発的に増えた今、この黒玉を市役所とかそういうところに持っていけば量や大きさによって値段は変わるが討伐費がもらえる。アギリがこの町にとどまり続けている理由の一つにクロウがうようよいるというのがある。
無論、他人にこの事を話せばだいたいドン引きされたり、引っ越した方がいいと強く言われる。いくら討伐費が出るといってもクロウを狩るのは至難の技なのだ。
だからクロウを狩るのはクロウを狩ることを職とする「ハンター」か銃を扱えるもの。あるいは強力な能力を持っているものと限られてくる。
アギリは「ハンター」でもないし銃も扱えない。と、いうことは後者の強い能力を持っているということになる。まあ、そういわれてもアギリは否定しない。心当たりはいくらでもあるからだ。蛇口を捻りすぎて壊したり、ドアを開けようとしたら力が入りすぎて回りの壁ごとドアを取ってしまったこともある。
自分の能力は「力の増幅」だと勝手にアギリは考えている。
自分の能力を検査しにいってもいいのだが検査代金が二万円くらいかかるしさらに、場合によっては追加で料金がつくことがある。これは姉から聞いた話だ。ただてさえ結構ギリギリなのにどこから捻出すればいいのだろうか。
アギリは拾った黒玉をポケットから取り出しそんなことを考えながら黒玉を眺めていた。このくらいなら多少の小遣いにはなるかも知れない。アギリは再び黒玉をポケットに突っ込んだ。そして隣町へと続く道を歩いていった。
***
寂れた町の三階建てほどのビルの屋上で、手すりに持たれながら彼女を見ていた人物がいた。
なかなか面白いものを見せてもらった。ある程度話は聞いてきたがあんなに動きがいい子は始めてみた。久しぶりの感覚に思わず顔がにやけてしまう。
『…………おい?話聞いてるか?……』
眠そうな声が聞こえた。
「あぁ、ごめんごめん」
そういや電話をしていたんだった。忘れてた。
「んで、あの子に声かければいいんだよね?あんな動きがいいなら僕殴られちゃうかもね」
『怪しまれないように声をかければいいだろ。万が一失敗してもあいつの姉貴がなんとかしてくれる』
「まあ、そうだね。……僕も僕なりに努力するよ。じゃあ、切るね」
プツンと音がして携帯を耳から離し画面を見ると通話終了という表示が出ていた。携帯をポケットに突込み伸びをした。勧誘はあまり得意ではない上に今回はさらに難を極めそうだ。まあ、それも面白いかもしれない。
屋上にいた人物は階段の方へとは向かわず比較的手すりが丈夫そうなところへと向かった。と、いっても根本が若干腐りかけてい
る。
「ギリギリいけっかなぁ…これ」
そう呟くと人物は手を広げた。すると手のひらの一点が光りそこから太さ一センチほどのワイヤーが出てきた。そして、ある程度の長さになるとワイヤーは出てこなくなった。人物は「創った」ワイヤーを手すりに引っかけ、強度を確認したのちワイヤーを手につかんで屋上からビルの壁をつたって降りていった。人気があるところだとこんなことはできないがここなら大丈夫だろう。と、いうか彼女以外にここに住んでいる猛者はいるのだろうか。
足が地につくなり颯爽とワイヤーを回収し、一応回りに誰もいないのを確認した。その人物は路地裏を抜け先ほど破壊されたアスファルトを横目に見ながらアギリの後を追いかけていった
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