転生したら兵器製作チートをもっていました。

煩悩

1章 

第1話 死にました

「……お願いです!! コウさん! 速くっ、あそこまで逃げて……くださいっ!」


 背中に白い翼の生えた少女は自分の足に剣を突き刺しながら必死に俺に叫ぶ。刺した所からは血がドクドクと流れ続けその周りには血溜まりができていた。

 その少女はまるで勝手に体が動かないように抑制しているように見えた。


 だが俺は絶対逃げない。逃げられるハズがないのだ。その愛した彼女の為にも。


 俺はその少女に一歩一歩、動かなくなった右足を何とか引きずりながら少しずつ近づいていく。


「駄目ですっ!! お願いです! コウさん!!」


 少女は瞳に涙を浮かばせながら何度も近づくる俺に必死に叫ぶ。

 だが俺は足を止めない。


 一歩、また一歩と近づき、俺は何とかその少女の前に立つ。


 そして――



 グサッ!



 少女に俺の身丈はあると思われる長剣で腹を貫抜かれる。


「ぐはっ……!」


 俺の口から普通ならあってはならない量の血が吐き出て、刺された腹部からドロドロと外に流れていく。


 少女は長剣から手を離しゆっくりと後ずさり、悲壮な表情にゆっくりと移り変わっていく。


「そんなっ……! どうしてこんなことをっ!」


 少女はその場に力なく腰を落とし、今まで貯めていた涙をボロボロと地面に落としながら問いかけてきた。

 そして少女は自分の意思で不自由なく動けるようになった。今行った少女が受けた命令の遂行によって。


「ははっ……。そんなの、エリが一番、知ってるんじゃ……ない、か……?」


 俺はその場に膝つき、傷みに歯を食いしばって耐えながら少女に微笑みかける。何度も殴り合いをして痛みは慣れっこだと思っていたけどやっぱり無理だったな。


「コウ……さん……!」


 少女は泣きじゃくり、顔が涙でぐしゃぐしゃになっている。

 折角の可愛い顔が台無しじゃないか。


「泣かないで……くれよ。お前は、世界で……一番、笑顔が、似合うんだから……」


 痛みで脳が動きたくないと語りかける中、俺は無理やり腕を動かし少女の頬を触れる。

 俺にはこの決められていた運命を覆すことはできない。でも、その後になら新たに自分で、俺達で作ることができる。


「な……あ、エリ。それ、なら……来世、で……また……」

「コウ、さん……」


 俺はどんどん意識が沈み、思考が薄れていき眠さに似た感覚に襲われる。

 どうやら俺はもう駄目なようだ。


「……分かりました。必ず、コウさんを見つけて……そしてまた……」


 ――愛します――


「あり……が、とう……、愛し……てる、"エリ"」


 満足した俺はプツンと切れるように意識が無くなった。


 ――――――――――§――――――――



 ピピピピッ、ピピピピッ、ピピピピッ


「んっ……たく、うるせぇなー」


 無機質な五月蝿い目覚まし時計のアラーム音でスッキリしない朝を迎える。

 時計を見ると5時半。いつものような代わり映えのない一日の始まりだ。


 上半身をゆっくり起こし「うぅー」と両腕を上に伸ばす。目の奥から来る重い気持ち悪さにしっかりと聞かない俺の体。”この時期”になると何故かこんな感じに目覚めの悪い朝が続く。


「あぁー、寝たのに疲れが全く取れねぇ……」


 自分の優位の至福の一時である二次元物色という自由時間を断腸の思いで早くに切り上げ、すぐにベットインして寝ても「よく寝た!」って感じが全くしない。むしろ疲れに直結している気がする。


「俺、なんかの病気なのかなぁ」


 ベットから降りて色々な物が散らばっている部屋を見渡す。その散らばった物とは昨日、秋葉原でGETしてきた戦利品の数々で、好きな二次元キャラのグッズや抱き枕、そして安かったエロゲなどだ。


「なんというか、ホント汚ねぇな」


 彼女がいたらこの家には何があっても絶対に入れることはないだろう。

 まあ? 俺は世間でよくいる、彼女いない歴=年齢と言われる分類だから関係ないがな。……虚しい。


 仕事に行く為、とりあえずパジャマから外着に着替えようとズボンを脱ぐが、


「うぅーさむっ!」


 確か昨日、ニュースキャスターが「春の兆しが感じられる日々が続いております」とかなんとか言っていたが、やっぱり朝だからか下着だけだと本当に寒い。


 クローゼットを開けて中に入っている収納を開け外着を取り出す。二次グッズにばかり手を出してファッションを気にしないのがモテない理由なのかもしれない。

 取り出したジーンズを履いた後、上を脱ぎTシャツを着ようとする。


 ――だがその時、俺は馬鹿だと痛感する。


 その着替えている途中、寝起きのせいなのか足がふらつき誤って抱き枕だと思われる物を踏んでしまい、周りから見たら「ビンボーダンス?」なんて思われそうなほど体制を大きく崩す。


「くっ、なんとぉぉぉぉ!!」


 何とか気合と根性と根性で体制を全力で立て直しに行くが――


 ――ゴシャァ!


 タンスに足の小指を思いっきりぶつける。


「ぐあぁぁぁぁぁ、小指がぁぁぁぁぁ!!」


 Tシャツを被った状態でその場に倒れ、ゴロゴロと転がり悶絶する。弁慶の泣き所という急所に寒さというバフがかかり俺に大ダメージが入ったわけだ。これで平然とできる人がいたらマジで尊敬するわ。


「くそっ……、朝からついてねぇ。今日は厄日だな……」


 持続する苦痛に耐えながら何とか着替えを終わらせ台所へ行く。台には昨日作り置きしていたおにぎりがラップに包まれて皿の上に置かれている。もっと早い時間に起きて飯を作ってもいのだが、”この時期”はこんな感じで朝食を済ませている。


 時間も迫ってきたのでおにぎりを一つ残し、風呂敷に包み今背負っているリュックに無造作に入れる。そして残したおにぎりをラップを剥がし頬張りながら玄関を出る。


 

 玄関のカギを閉めようとしたとき後ろからこの時期によく起こる”誰から向けられているのか分からない”不気味な視線が俺を射抜く。


「はぁー、今年もなのか……」


 この視線は俺が19歳の三月に東北の田舎町から上京して一年後、俺が20歳の時に始まった。これが始まると”必ず”二週間以内に俺の身に危険が生じる。

 3年前は交通事故に巻き込まれそうになり、2年前は通り魔事件が目の前で起こり、そして去年は大型トラックに積まれた大量の木材が俺に降りかかってきたりと何度も死に直面した。


「俺、もしかして呪われてるのかなぁー」


 もし、今年も起こってしまったら霊能力者に見てもらうか。そもそも呪われる事なんてしたか? 日頃の行いは悪くはないと思うんだが。


 今年はそんな事がありませんように! と願いながら自宅を後にする。


     Д


 マンションの端側にあるエレベーターで下に降りて、そこから徒歩で浜松町駅 に向かう。その途中ではスーツで身をピシッと決めている人やスマホを弄りなら店に並ぶ人、ランニングする人や「WO!」と叫びながら町を歩く外人など多種多様な人とすれ違う。

 俺の住んでいた田舎では6時なんていう早朝にはあまり人なんて出歩いていなかった。多分俺はこういう所があるから東京に憧れたのかもしれない。


 改札を通り過ぎ階段を上りホームに行くと丁度、羽田空港国内線ターミナル行のモノレールが停車していたのでそれ乗り、入口の近くの吊り革を掴む。こんな時間でも半数以上乗っているってやっぱり田舎では考えられない凄い事だと今でも思う。

 いや、今日はいつもより少し多い気がする。


 乗ってから少しするとピロロロロロロロ! と発射前の警告が鳴り響き扉が閉まりモノレールが動き出す。そしていつものようにモノレールに揺られて20分くらいをボーっと考え事をする。


「この風景、もう4年は見てるんだなぁ」


 俺は4年前にJALに入社して、今現在まで羽田空港で飛行機の整備士をしていた。

 入った当初は杉さんと言う怖い熟練の整備士のおっさんにこっぴどくしごかれ、最近になってやっと認められるようになった。


 俺は機械いじりが好きで色々な物を分解しては直すという変な趣味を持っていた。それで高校生の時は機械馬鹿とか機器マニアとか色々な変なあだ名がついていた。

 高校生活は面白いと良く言われるが、俺には何が楽しいのか理解することができなかった。


         §


 そんな感じで風景を見ながら黄昏て、他愛もない事を考えていると「――次は終点、成田空港、成田第一ターミナルです」と車内アナウンスが流れる。


「はぁ、今日も過酷な一日の始まりだなー」


 モノレールが駅のホームに入り止まった後、人が密集する中を何とか下車し改札を過ぎ、裏の業務用通路から入っていく。

 

 飛行機を整備するにはまず安全の為の作業着に着替えなければならない。てなわけで更衣室に向かう。その途中、清掃用具の入ったカートを押す清掃のおばちゃんに「おはよう! こうきちゃん。全く、そんなくらい顔してないでシャキッと!」と笑顔言われるのがもう日課になっていた。

 

 更衣室の中に入るといつもは賑やかなはずなのに今は誰もいない。賑やかと言っても杉さんの怒鳴り声でと言う意味だが。

 もしかしてと思い腕時計を見ると……6時50分だった。


「えっ!? なんでだよ! いつもと同じ時間に来たはず……。って待てよ?」


 そもそも俺が行く時間にモノレールが丁度停車していた事なんて一度でもあったか? いや、無い。6時の空港快速を利用するため5時40分に自宅を出て浜松町駅に行くが所要時間は10分弱。駅に着くと10分くらいはいつも待っていたはずなんだ。なのに今日は乗れたってことは、


「どうして目覚まし時計ズレてんだよっ!」


 乗るべきだったモノレールの後にやって来る6時20分の空港快速に乗ってしまったのなら時間的にも人が少し多かったことにも説明がつく。


「あの野郎とけい……。家に帰ったらぜってぇ廃棄してやる……」


 俺は恨みを持ちながら人知を超えたスピード(俺の中で)で着替えをして専用通路を通りすぐ格納庫へと向かう。その途中ではすれ違う人に挨拶もせず全力疾走で走っていく。

 そして曲がり角を走り抜けようとした時、俺と同じ青い作業着を着た少女と一瞬目が合った。その間は一瞬だったはずなのにゆっくり時間が流れていると錯覚してしまう。

 真っ赤な透き通るような綺麗な瞳に日本人ではありえない銀髪。


 なんだろう。この感じ、どこかで……。ってそんなことより!


 釣られていく意識を「格納庫へ突っ走る」に切り替える。あの人はマジで怖い。

 怒られまいと自分の体力が持つ限りで動き、少しして何とか格納庫にたどり着く――が「おめぇ、遅いぞ!!!」とやっぱり怒号が響き渡るのであった。


       Д


 旅客機が到着すると俺たちはまず機体状態の確認をする。少しでも問題があればすぐに直したり、壊れた箇所を取り外して替えて、動作確認をしたりする。

 それで機体の具合から杉さんは判断して、修理作業の時間を作るために飛行機の出発を遅らせたり代替機への機材変更を指示したりする。4年働いている俺だが、あそこまで的確な指示を出すのはまだ無理だろう。



 あれから数機を整備して見送った後、空港にエンジントラブルで緊急着陸してくる飛行機があった。俺達が急いでいくとその機体は一番最初に点検した飛行機だった。


「おい、光希! お前がエンジン系だったよな?」

「はい……そうですけど」


 杉さんの顔は誰が見てもわかるように激高したような表情だった。これは遅刻や物忘れに対して見せる顔ではなく”人の命が懸かっている時”に見せる表情だ。


「自分の担当も満足に出来ないのか! お前は!」


 格納庫には作業音よりも大きな杉さんの怒号が響き渡る。

 だが俺は、手抜きしたつもりは無いので反論する。


「そんなっ! 俺はしっかり点検しましたよ。そして各部異常がありませんでした!」


 機器の一つ一つに指をさしながら確認していき、どこにも異常がないことを確かめたのだ。今でもどんな状況だったか覚えている。


「自分も光希の横で確認しましたが異常はみられませんでしたよ」


 横で俺をフォローしてくれたのは高校生時代からの祐逸の親友の一人、佐藤学さとうまなぶだ。一応こいつも俺と同じ趣味をもつ機械馬鹿+二次元オタクだ。

 

 杉さんは一瞬悩んだと思うと、すぐに状況を理解して判断を下す。この判断力の高さは長年この仕事に命を懸けてきた結果なのだろう。


「なら光希! もう一度エンジンのカバーを外して隅々までチェックしろ! 学は俺について予備部品を運ぶのを手伝え!」

『分かりました!』



 学は杉さんに付いていき俺は全て停止した飛行機のエンジンの外部を外してもう一度確認していく。

 するとさっき確認した時にはなかったハズの変な長方形の物体がついていた。


「なんだこれ?  こんなパーツ、エンジンにはついてないはずだぞ?」


 それもその長方形の物体から赤コードのような物が機器の奥に伸びている。機器の場合こんな小さいコードなんて使うはずないし、赤い粘着テープなんて論外だろう。

 

 その物体を外そうと工具箱からペンチを取りだし赤い線を切る。


「えっ……?」


 誰がその物体が爆弾だと思うだろう。この日本で、ましてやテロ対策が厳重に取られた空港で、そんな事を考えるだろうか。

 その赤い物体は俺が何かを考える時間を与える事は無く一瞬で、



 ――ドコォォォォォン!!!



 爆発を起こす。

 その爆風で俺は大きく体が吹き飛ばされ格納庫の壁に激突する。


「ぐあぁぁぁぁぁ!! っあぁぁぁぁ!!!」


 頭の中は痛いという言葉、辛いという言葉、苦しいという言葉で埋め尽くされていく。これは朝、足の小指をぶつけた痛みなんて次元のものではない。この体をジクジクとさすような痛みと焼けているような熱い痛み。多分、今の爆発で焼けただれてしまったのだろうか。


 それと今気づいたが視界が片目を瞑った時のように左だけ暗い。

 確かめるために痛みに耐えながらなんとか左手を左目に当てる。


 ――そして気づく。


「なんだ……目玉がねぇーじゃねーか……」


 普通なら球体で弾力がある目玉があるはずなのだが、それがなかった。

 その触れた左手を見ると血がべっとりとまとわりつくようについていた。


 動く右の目だけ動かし横を見ると俺を中心にして大きな赤い水溜まりができていた。

 何処から出ているのか確認するため首を動かそうとするがいう事を聞かない。俺は動かなくなった首を左手で無理矢理、右に動かしてどうなっているか確認しようとする。


「っあがぁぁぁぁぁ!!!」


 ただ横を見るという行為だけなのに言葉に出来ないほど痛い。あと息がさっきからまったくできなくて声もしっかり出せない。これ首の骨、折れてる気がする。


 やっとの思いで右を見ると飛行機の残骸が散らばり、あたりが火の海になっていることを気づく。そして遠くからは消防車のサイレン音が聞こえる。


 そのあと右目を下へ動かし、右肩を見ると……あるべきものが無かった。


(そうか……、ここから血が流れ出ていたのか……)


 右腕があった場所からは今もなお、血が小川のように流れ続ける。



 少し時間がたつと、もう首より下の感覚がなくなっていき、もう死にたいと思ってしまうほどの痛みが消えていった。そして自分の身体がどんどん冷たくなっていくのが怖いと思えるほど分かる。


(あぁ、俺は、ここで死ぬのかな……。もっと楽しくて衝撃的な人生だったら良かったな……)


 そんな薄れゆく意識の中「こうきぃ!!」と俺を呼ぶ声が聞こえる。この声は杉さんだろうか。もう音も満足聞こえない。


「おい! しっかりしろ!!」


 俺は右目だけ動かし、声の人物を見る。


(やっぱり杉さんだったか)


 杉さんはいつもなら見せない心配した顔で俺の酷い有様を目を逸らさずに見ていた。その目には絶望はなく絶対助けてやるという強い意志が見えるようであった。


(まったく、いつも怒ってる顔か真顔位しか見せない癖にこんな時はこんな顔するんだな)


「大丈夫だ! お前は俺が助けてやる! だから踏ん張るんだ!!」


 そう言うと杉さんは俺の左腕を自分の肩にまわし俺を立たせる。多分杉さんが運んだところで俺はもう助からない。それは杉さんだって承知しているはずなのに。


(ほんと律儀というか融通のきかない人だなぁ)


 俺は道連れにして殺したくないので、杉さんを生きながらえさせる為に足に力を入れなんとか歩く。と言っても感覚はもうないから力が入っているかどうかわからないが。


 そしてここの鋼鉄の扉をくぐれば格納庫から出れるというところでドアを開けて一度休憩のためか止まる。


「おい、大丈夫か? あと少しだ! だからがんばれ!」


 杉さんは俺に一度も見せたことがない安心できるような笑顔で俺を励まそうとしてくれる。


(まったく杉さんらしくないな……)


 俺は最後の力を振り絞り杉さんをドアの向こうに投げ飛ばす。飛ばした理由は近くに燃料タンクが散らばっていて、そこまで火の手が回り始めていたからだ。いつ引火してもおかしくない状況だ。いつもの杉さんならこんなことすぐ理解するだろうに。


「こ、こうき!! いまたすけ――」


「ま……った、く、詰……めが、甘い……んで、すよ」


 俺は何とか声を絞り出し左手で扉を閉める。そして次の瞬間、



 ――ドゴォォォォン!!!



 一気に爆発が起こり俺はそれに巻き込まれ”死んだ”。

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