第30話 vsボクシング

まぁね、私に張り合ってくるみなさんは共通の間違いを犯して、

そして私に自尊心をヘシ折られて帰ってくんですけど、

大体の人が私がパンチのできないエセ・ムエタイかぶれ野郎と思っているみたいですが

それは誤解というものです。


私はこのド田舎ジムで唯一人、カウンターパンチを合わせてくる男です。

ちょっと格闘技を見る目があれば分かりそうなもんですが、

アホ共が私をナメて豪腕パンチを振るってくる時には、

身の程を知ってもらうために、あえて使います。


それで、なぜか私が嫌われるわけです。

勘弁してください、そういうの。

ぼくが何をしたって言うんですか。



しかし先日、もう一人カウンター・パンチを使いこなす若者が入会してきましてね、

大学時代にアマ・ボクシングで相当鳴らしてた奴です。



私が今いるジムはムエタイジムで、日本のキックボクシングをすごいバカにしてて、

国際式ボクシングの経験者は優遇されてます。


私なんか入会した当初、中途半端にムエタイをかじった お強いみなさんから

「レベルの低い昭和のキックボクシングジムから来た変態野郎」みたいに軽んじられていて、

私がフレンドリーに話しかけても ぜんぜん仲良くしてくれなかったので、

調子こいてそうな奴は片っ端から左ミドルと首相撲と膝蹴りで思想矯正かましたわけです。

皆様方におかれましては、私の誠意を分かって頂けたようで、ぼくはとても嬉しいです。


話を戻しましょう。


もうね、本格ボクシング野郎を見た会長大歓喜なわけでして、

アマチュアで十数戦無敗Ko率90%ののおっさん(歳とっててプロになれない)とマススパーしてるわけです。

このおっさんは私より強いのですが、

まぁパンチャーなので、ボクシングの若者とボコボコに打ち合って互角の勝負を展開してるわけです。

経験と当て勘のおっさんか、ボクテク・スピードと体力に勝る若者か!といったところです。

いやぁ噛み合ってましたね、いい勝負でした。


次の日、今度は相手になる奴がいなかったので、The☆処刑係・この墓林の出番です。

この若者は礼儀正しくて周囲に不遜な態度をとるわけでもないし、

特に私はなんとも思いませんでしたよ。


ただ、こういうのには「相性」ってのがありましてね、

豪腕パンチの無敵のおっさんに勝てても、だから私に勝てるってわけじゃないです。

そのへんが格闘技の面白さなんですが


彼は自信に満ちていて、タフなファイトには非常に慣れてましたが、

私の陰湿さと変態性には耐性がないようでした。


彼は弱くないし、頭もいいので

蹴ったらバックステップで躱されるので、蹴らずに待って、殴ってきたらミドルを合わせて

それでも殴ってきたら組み付いて膝蹴りを出して投げ飛ばすという展開です。

彼のパンチは全て抱きついて無効化するか、防御しました。


彼はいいやつだと思ったので乱暴に投げたり、痛めつけるような真似はしませんでした。

5Rくらいはやりましたかね、そうしたら周囲から伝わってくるですよ

こう、

「墓林負けろ~、負けろ墓林~~~~(・∀・)」

みたいな雰囲気が、もうヒシヒシと伝わってきます。

回を重ねるごとにジムのみなさんの声援は若者に集中し、

インターバルには彼に対して会長の身振り手振りを交えたアツい指導も行われ、

その間 私は絶賛放置プレイされてます。


待て。

ムエタイの流儀に則ってやってんのはオレの方だ。

なんかオレに言うことないのかよ!と思いましたが、特にないようでした。


もうネチネチやりながら泣きそうでした。

酷いと思います。


人間こうも残酷になれるものかと思いました。

危なげなく私が全てをコントロールした勝負でしたが、

こんな仕打ちを受けたらオレの心がボロボロです。


でも。

後日、彼は他の人ではなく、私に教えを請うてきました。

私はちょっと嬉しかったです。


そんな彼を私は尊敬しています。

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