デスゲーム生還から始める社会生活
柊奏我
プロローグ 社会の闇
生還者
社会。
それは人間として生まれたが最後、必ず通らなければいけない道。
人間は社会の闇からは逃れられない。
例をあげるとすれば、ブラック企業や残業、パワハラ上司等、社会に出たものからの苦情が絶えない。
そこから人間は定年退職を待ち続け、闇に呑まれていく。
そんな事、誰が楽しいのだろうか?
人間は社会に呑まれないよう、学生を必死に行わなければならない。
内申点だ何だと人々に急かされ、先代たちの敷いたレールにそって歩かされる。
大抵の人間はそのレールから降りて行くが、そのレールの外の中で生きていけるのは数少ない才能のある人間だけだ。
大体、社会と苦しみを理解していない子供に、後悔を伝えるのは難しい。
社会辛いっていってもすぐに終わるだろと考える人間が多くだ。
しかも、社会が辛いと気づけた所で努力する人間も少ない。
そして人間は闇へと進んで行く。
それが社会。 空しくも現実。 受け止めるしかない。
と、最近の妄想は悲しい事しかしないな。と、立ち上がり会社の会議室からゆっくり歩き出す。
私は空我幸助。43歳、しがない社会人だ。
今の時刻は午後5時半。今日は会議が早くに終わり、今からすぐに家へ帰れる。
自分のデスクからパソコンと次の会議の資料、食べなかった栄養食を手に取り、外へと駆けていく。
この時間帯での電車はあと一本しかないということで駅へと足を急がせている。
エレベーターの前に足を置き、立ち止まる。
その間におもむろにバッグに手を入れ、がさごそと音をたて、携帯を取り出す。
取り出してすぐに電源をつけ、パスワードを入力し、ショートカットアイコンに触れ自宅に電話をかける。
家には家族も待っている。
幸せな生活を過ごし、社会に対する不満も少ない。
しかし、今の息子の現状には困ったものだが…。
ま、そんな暗い話は置いといて…
今はそんなに苦しい生活ではない。
エレベーターに乗り込み、愛する妻に連絡を告げ、一階のロビーにつく。
次々と人が外に向かう中に身を入れ、早足で駆けていく。
会社の自動ドアのボタンを押して、外に足を踏み入れ、一呼吸する。
外は秋の色に染まり、落ち葉が足場で舞っている。
空気が美味しい。
今日も終わったと背筋を伸ばし、また駆けていく。
外にも人は多くいるが、それをなめらかな動きで進んでいく。
そのまま駅までたどり着き、切符を買い、電車に乗る。
電車の中ではスマホで「就活 上手くいく方法」と調べていた。
いままさに働いている自分にこんなのをみてもどうにもならないと思うだろうが、息子が今、就活しているのだ。
これを聞いてもまだ疑問に思う人もいるだろう。
今は秋。 どう考えても就活シーズンではない。なのに就活をしている。 つまり就職難状態だ。
就活シーズン外れもいいとこだと思うが、息子の成績を聞いて欲しい。
内申点ALL1、テスト点数平均23点。 はっきりいってゴミだ。 息子に言う言葉でもないがゴミだ。
高校生活でろくな事をしてなかったのでこうなった。 泣きたい。とこれは本人談だが息子もダメだと思っている。
という訳でこんなサイトを見ているわけだが、だいたいのサイトはやはり成績だの内申点だのといっている。
まあ、当たり前だなと眺めながら電車の中でスマホに読み続けた。
電車が自宅から最寄りの駅に着く。
電車のドアの前につき、先ほどまで見ていたスマホをポケットの中にしまい、ドアが開くのを待っている。
その間に妻の姿を探す。
先ほどの電話で迎えに来るように言っておいた。
駅から家まで多少の距離があるのでこのように妻を電話で呼び、車で送ってもらっている。
妻とは結婚してから23年経つが、今まで目立った喧嘩もなく、今でも仲良く暮らしている。
と、探している間にドアが開く。
駅のホームで妻を見つけ、一緒に車へ向かう。
車に乗り込んだ後は息子の話になった。
「あの子、今日も就活してたのよ」
「すごいもんだよな…いままでどれだけの会社から落とされたか…」
「毎日勉強だってしてる。だけど、結果がでないの…」
妻の目は涙目だった。 息子の事を思ってくれていると改めて実感する。
「ねぇ…なんであの子はこんな差別を受けてるの?ねぇ、教えてよ…」
妻にかける言葉も思い付かず、ただ、顔を見ていることしか出来なかった。
さて、話を戻そう。
今、息子はピンチなんだ。
妻も涙を流すほど、息子はピンチなのだ。
いままで受けた会社は多く、その受けた会社にすべて入社を拒否させられた。
まあ、成績を考えたら当たり前なのだが、息子は一度たりとも受かっていない。
しかし、息子は落ち込む姿も見せず、毎日のように就活をしている。
会社のほうも今頃就活かよと混乱するだろうが…。
とにかく、就活を繰り返している。
妻もここまで来ると泣くようになってきた。
なんで息子だけ…と、毎晩のように泣いている。
実際、自分も泣きたいが、息子に弱いとこを見せてはならないと我慢している。
きっといつか、受かる日が来ると願い、ただ毎日のように願っている。
車は自宅につき、自分の持っている合鍵を使い、家に入る。
「ただいまー」
「うん、父さんお帰り」
今話しかけて来たのは息子の空我祐介。20歳だ。
「…今日もだめだったよ」
「…そうか」
息子は重たい口調で私に話しかける。
どう返せばいのか分からず、そうかとしか返せなかった。
「とりあえず上で勉強してくる…」
私は首を縦にふり、上に向かう息子を見ていた。
「「祐介、いつか受かるといいなぁ」なんておもってんのかな、父さん。」
今起きたことは幸助が思った事を祐介が当てた、つまるところ、幸助が思ったことを祐介が予測したということだ。
「…しっかし、ここまでここまでくるとどこも受かんない気がするな」
祐介は机に参考書を置き、右手にシャーペンを持ち落ち込んでいた。
しかし、こうなることを解ってなかった訳ではない。
実際、内申点ALL1の俺が社会で必要とされるかは誰でも分かる。
しかし、学校生活を振り替えって後悔することはなかった。
涙と引き換えに。
クラスメイトが血を流す姿。死にたくない、死にたくないとひたすら死にもがく姿。
他にも見てきたクラスメイト達の残酷な姿。
二年たった今でも鮮明に思い出す残酷な描写。
二度と思い出したくない。
しかし、思い出さないのもクラスメイトの命を無駄にした気もして嫌だった。
とちらにしろ、自分が嫌な選択肢であって、どちらも選べずにいた。
たびたび夢に出てくるクラスメイトたちにはなぜ殺したと脅される夢。
今思うと、あるクラスメイトが言っていた「みんなでこの学校から脱出しよう」なんて言葉は綺麗事でしかなかったと思う。
あの時の俺らは、自分のことで一杯のただのクズだった。
クズとクズが争い、命を奪う、最悪で最強の悪夢でしかなかった。
机の棚の中には学校で使っていた道具が沢山残っている。
その種類は自分のものからクラスメイトが大切に使っていたものまである。
その道具の中にはきっと誕生日にもらった物や母の形見だったりするだろう。
しかし、その人間が存在しないのであれば意味はない。
つまり、今この道具が存在する意味はない。
ただ、面影を感じるため、今は祐介のために存在している。
これらを見ると、嫌な思い出が思いだすときもあるし、ただ楽しかった学校生活も思いだせる。
生きる糧にもなるときもあるし、クラスメイトに裏切ったと恨まれるときもある。
しかし、俺の唯一の親友の道具を見る時だけは、いい思い出しか思い出せなかった。
あいつは最後まで俺を信じてくれていた。
あいつを思いだすと、その温もりを恋しく感じていた。
「たまには、あいつんちいってくるか」
次の日。
今日入れておいた面接をすべて蹴り、たまには養気を養おうということで町の色んなとこをまわろうとしていた。
最初についたところは俺の唯一の親友の家だった。
親友とは幼なじみで趣味もあったおかげでかずっと仲が良かった。
幸いにして同じような学力だったため、同じ高校に進学。
学校内では少し暗めな俺だったがそいつといるときは幸せだった。
しかも親友は社交的な人物で学校内の人で気の合いそうな人を紹介してもらっていたりした。
それでいて美人。 女子だ。
学校内でファンクラブが出来るほど綺麗だった。
それで俺と付き合ってんじゃねえのかって疑惑とか出てたっけ。
まあ、妄想ここまでにしてとと、親友が住んでいた家のピンポンを押す。
家からドタドタと足音をたて、ドアが開く。
家から出てきたのは親友、ではなく親友の母だ。
「いらっしゃい、今日はどうしたの?」
「今日はたまにしかこれないのでお祈り位はしておかないとと思って…」
「そりゃあ、ありがとね。 あの子も喜んでるよ」
温かく迎えてくれていた。
学校で生き残ったのは俺だけだ。そのために生き残った俺に向ける保護者達の目は主に二種類あった。
一つは今の母のような大変だったねと優しくしてくれる人たち。
もう一つはなんでお前が生き残ったんだと殺意を向けてくる人たち。
なぜ自分の息子じゃなくてお前なんだ、なんで私の息子が死んでそんな顔が出来るんだと、自分の息子を溺愛し、俺が殺したとして怒りを見せてくる人だ。
しかし、気持ちがわからない訳ではない。
自分の息子を愛する事は普通で、自分の息子が帰ってくるのではなく他人の子が感情もなく帰ってくる。
しかも自分の息子は死んでいるのだ。
怒りを覚える事に無理はない。
俺は返す言葉も何もない。
今まで数えきれない程に怒りをぶつけられただろう。
時には殴られもした。刃物を突きつけてきた人もいた。
しかし、日常茶飯事であった俺には恨む事もなくただ、ひたすらやられるままだった。
ただ、中には親友の母親のような心優しく迎え入れた人もいる。
頑張ったね、頑張ったねと。
俺は何度泣きそうになっただろう。
その言葉に励まされ、今ここにいるといってもいい。
「それじゃあ、お祈りしておきますね」
と述べ、庭の墓に向かう。
その庭の墓は真新しく手入れが施されている。
親はきっと毎日のように洗っているのだろう。 それだけ娘を愛していたのだろう。
「…いい人でしたよね」
「うん、親から見ても友達想いで、親孝行で、完璧だった」
「…俺を恨まないんですか? あなたの大事な子供を僕が殺したかもしれないのに」
「いや、君がそんなことするわけないってわかってるよ。 なんなら、君になら娘を預けてもいいと想ってたよ」
「はは…ありがとうございます」
冗談を言う理由もないしこの言葉は本当なのだろう。
俺は皆の為に生きよう、そして、彼女の為にも生きようと再び決意した。
彼女の家を後にしたあと、向かった先は母校の雨宮高等学校だった。
俺がここを卒業したと同時に廃校となってしまったこの学校は今は立ち入り禁止となっていた。
俺はそれを無視して校舎内へと入っていく。
校舎内には腐りかけた血がいくつもの壁や天井に付着している。
少なからず俺の血もある。
あのとき俺は、どれだけの人の命を踏みにじっていたんだろう。
俺は廊下を歩きながら校舎内を見渡し、思い出に浸る。
俺がここで生き残ったのは二年前の話だった。
ゆっくりと足を運び、着いた先は3-2。 俺のクラスだ。
教室内は廊下よりも多く血が残る。
ドアをガラッと開け、辺りを伺う。
何日も人が来た形跡はなく、机や椅子もそのまま残っている。
俺は自分の席に向かい、歩く。
ぴしゃ、ぴしゃと血を踏む音が聞こえ、あの惨劇を思い出す。
自分の席に着いた頃にはクラスメイトたちの死ぬ瞬間を何度思いだしただろう。
ここから見た景色は授業の風景と皆の死だ。
そう、ここで起きた事とは。
デスゲームだ。
幾度となく人が死んで、死んで、死んでいく。
何度見ても人の死には慣れない。 生にもがき、もがき続け、死んだ。
精一杯生きようとした人間が死んでいく姿を誰が見たかっただろうか。
俺は幾度なく泣いた。 人が死ぬ度に泣いた。
人が簡単に死んでいく、と。
俺は教室を出て、血生臭い廊下を歩く。
そして、向かった先は屋上。
デスゲームの最後の命令、二人で殺し合えという命令が来た場所だった。
最後に殺しあったのは最後まで生き残った俺と、さっき会った母の娘、つまり俺の親友と殺しあった場所だった。
結局、あいつは私を殺してと言って自決した。
最後まで格好いいやつだった。
何で俺を生かそうと思ったのか、今になっても謎だ。
あいつの方が社会性もあって、社会から欲しがられただろうに。
なんて考えてたら、階段まで着いていた。
階段を上り、屋上のドアを開けると一人の死体があった。
最後に俺を残した、彼女の姿だった。
俺は死体に向かい、話しかける。
「俺、まただめだったよ。 どこの会社にも断られて、母親に心配させて、父親には我慢させて、俺は…本当に親不孝な奴だなぁ。 でも、いつか、親を心配させない、そして、お前が生かして正解だったと思えるような人間になって見せるよ、きっと、きっと… 絶対に…」
俺は涙を流しながら、正解だったと思える人間になることを決意する。
これは、デスゲームで生かされたただの人間が正解の人生を描く物語。
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