第9話 星の浜と天体少女
「はっくしょん!」
……風邪ひいた。昨日の雨のせいだな、これは。
「お、マスクしてどうしたの。風邪でも引いたか」
廊下を歩いていると、後ろから隼人が追いついてきた。
「ああ、まあな」
……はっくしょん! 思ったより重症かもな。くしゃみが止まらん。
「珍しいな、和音が風邪ひくなんて」
確かにここ数年風邪を引いた記憶はないな。
「浜辺にいたら、急に雨が降ってきて」
すぐに帰宅してたら、風邪にはならなかっただろうけど。
「浜辺? 星の浜のことか? もしかして天体少女に会いに行ってたのか?」
星の浜? 天体少女?
何の話だ?
「和音の家の近くの浜辺は、「星の浜」って呼ばれてるんだよ。知らなかったのか?」
……そう言われれば、そういう名前だったような気がする。どうして覚えていなかったのだろう。すぐに思い出すことができなかったのだろう。
「その星の浜に、毎週日曜日に少女が現れるんだ。天体望遠鏡を覗き込む少女が」
桜井さんのことだろうか? 桜井さんと星の浜で出会ったのは日曜日だけだし。
でも、少女? 確かに桜井さんは少し童顔ではあるかもしれないが。
「俺も一回日曜日に星の浜に行ってみたんだけど、そのときには会えなかった。星の浜は広いからな。一応隅から隅まで見たんだけど、入れ違いとか、目撃された時間帯も統一性がないみたいだから、その辺は運もあるのかもな。それ以降は興味をなくしたから浜辺には行ってないんだけどな」
目撃って、まるでこの世には存在しないかもしれない生き物みたいじゃないか。
「ああ、俺は実際にこの目で見たわけじゃないからな。俺は、自分の目で見た者しか信じない。百聞は一見に如かずってのが、俺のポリシーだからね」
おっと、話が逸れたな。そう言って、隼人は話を続ける。
「この件に関しては、目撃って単語を使っているのは、俺だけじゃないぜ。実際に天体少女を目にした人でさえ、この目で確認した人でさえ、目撃って単語を使っているぐらいだ。「今日は目撃できなかったー。残念」ってツイッターで書き込んでいる人が大勢いる。おそらく、毎週日曜日しか見られないっていう希少性もあると思う。……だけど、俺はそれだけが原因ではないと思っている。この言葉が使われているのは、天体少女を俺たちとは異質な存在として捉えていることも一つの影響だと思う」
異質な存在? 桜井さんはどうみても俺たちと同じ人間じゃないか。
「誰も、天体少女と話をしたことがないみたいなんだ。話しかけても反応がないし、あれは俺たち人間とは違う、未知なる異質な存在だと考えているみたいだ」
キーン、コーン、カーン、コーン。
「お、授業だ、授業。じゃ、体調には気をつけろよ」
隼人が自分の席へと戻っていく。
……たぶん、単に望遠鏡で星を見るのに夢中になっているだけなんだろうな。昨日みたいに。
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