第3話 俺の冷えピタ通学

「そんな辛気臭い顔してたら、折角の始業式が台無しだよー」

 ……だれのせいだよ。それに――。

「まあ、大丈夫だよ! 額にある冷えピタに目を引かれて、表情にまで気が回らないと思うし」

 学校に着いたら、速攻で冷えピタをはがそうと心に誓う。

「それにしても、やっぱり遠いよね、高校」

 自転車で二十分。徒歩だと一時間程かかるだろう。小中学校は徒歩で五分の距離だった。一年経った今でも、あの頃と比較してしまうことがときどきある。

「田舎だから、しょうがないけど」

 俺たちの住む星雲町は、近年少子高齢化の影響を大きく受けており、日本でも五本の指に入るほどに少子高齢化が進んでいると言われている。俺たちが中学生のころは、家の近くに高校があったのだが、少子化の影響であと数年で廃校になることが決まっている。俺たちが高校受験の年には、入学生を募集していなかったため、俺たちはその次に家から近い今の高校を受験したわけだ。

「あーあー、大学は東京にしよっかなー」

 ペダルから両足を離して前に伸ばすその姿は、とても高校生には見えない。

「……いま、失礼なこと考えてない?」

 香織は昔から鋭い奴で、何度も冷や冷やさせられたことがある。香織のお気に入りのプリンを盗み食いしたこととか、内緒で宿題を写させてもらったりとか――。

 俺は自転車のペダルを強く踏み込む。

 ちょっと、待ちなさーい。

 高校の門が見えてきた。

 俺はギアを一段上げ、さらに強く踏み込んだ。

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