僕らは未だに幸せを求め続ける。
蒼井湖美智
プロローグ
始まりのこえ
電話越しに私は言った。
「私は幸せだよ」
それは、たぶん私の叫びのだったのだと思う。たった一度だけの叫びだったのだと思う。
例えば、いじめられている子が「いじめられている」なんて言えても、きっと誰も何もすることができないのだ。先生でさえも。そうやって「いじめられていない」という子が増えるんだ。言ったって何も変わらないと分かっているから。それでも「いじめられている」と言える者はとても強い者だ。同時に弱い者でもある。助けを呼べるということは、とてもすごいことだ。ただ、その前に自分で戦うことができなかったということだろう。たとえ戦ったとしても、きっと勝つことはできないのだ。じゃあ、どうすればよかったかなんて聞かれても分からない。正解はないのだから。逆に、正解がないからいじめが発生するのだ。いじめている側は、それが正解だと思ってやっているから。
そう考えてしまうと、もう変えられないのかもしれない。自分が強くなることができたって、もう泣くことさえ出来なくなる。嘘ばかりになる。
いつも考えるのだ。
幸せとはなんだろう、不幸とはなんだろう、と。
誰かに自分の幸せを否定されようと、自分が幸せだと言ってしまえば、きっと誰も何も言えなくなる。
だからだと思う。私が「幸せだ」なんて言ったのは。でも、気づいてほしかったのだと思う。誰かに否定してほしかったのだと思う。この「幸せ」を。
――君は俺にとってつらいだけなんだ。お願いだから、俺の前から消えてくれ。早くもとの場所に帰ってくれ。ここは君の居場所じゃない。
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