第45話
「もっとだ。もっと酒を持ってこーい!」
クローニは床に寝そべりながら、手に持っているコップを掲げることでアルコールの追加を求めている。
クローニの愚痴を聞く会は始まってから、時間にすれば約二時間。時間的にはそこまでだが、殻になった酒瓶の数は、讀賣の予想を遥か越えていた。
寝そべるクローニの周りには、様々な種類の空の酒瓶が乱雑に放置されている。
「なぁ。そろそろ酒が無くなりそうなんだけど」
始まる前は百個なんて余裕に越えていたはずなのに、猛スピードで数を減らして行き、既に十個と数えるほどしかない。
途中からはクローニが酒瓶を2つ同時飲みをし、注ぎ口に口をつけて直飲みをしていた。
「別に今日はもう休業同然だから飲んじまおう、ぜ!」
寝そべっている状態から一気に起き上がると、讀賣の手に握られている酒瓶を奪い取り、自分の口へと運ぶ。
「くぅー! やっぱり酒は体と心を癒してくれるよ。こんないい男が居ればもっと、だけどな!」
恥ずかしかったのか、照れ隠しのように讀賣の背中を思いっきり叩く。
すると讀賣は眼球が飛べだす勢いで地面に激突した。これをクローニの愚痴を聞く会が始まってから幾度となく繰り返されているのだ。最低限の慣れは出てきたらしく、地面に追突する瞬間、衝撃を殺すために軟体生物のように地面を這うような形になる。
「あの、何度もやられるといい加減痛くてしょうがないのですが」
腕に力を込めて立ち上がりそういうが、クローニは反省どころか聞きもせずに酒は無いかと、讀賣がクローニの酒の飲む速度に驚いて全て出してソレが散らばらないようにと出した袋の中を漁っている。
袋の中には残り九本と、少ない数の量が入っている。
少なくなったから飲むのをやめよう、などの遠慮は一切なく、迷わずに袋の中から一つの酒瓶を取り出した。
ウォッカだ。
比較的お酒の中でも度数が高いとされているものだ。
はじめの方、これをそのまま直飲みして吐き出した事を覚えているのか、今までのように品の無い飲み方ではなくなり、しっかりとコップに注ぎだした。
「また、ここに泊まってくれるかい?」
讀賣が冒険者になりたいということをどこかで聞いていたクローニが求めるように聞く。
口を開こうとした讀賣だが、すぐに口を閉じる。
酒の雰囲気で適当を言うことは、讀賣の許しがたい事だ。たとえ理由がなんであれ、相手に期待を抱かせるという事はだめだ。
かつて淡い期待を抱いた自分のように。
息を大きく吸うと、一度クローニの目を見る。
「な、なんだよ」
じっと見つめられ恥ずかしくなったのか、顔を逸らす。
だが、すぐに顔を戻してしまうようなことが讀賣の口から発せられた。
「多分これからここを泊まることはないと思う」
目を大きく見開きひどく同様をするが、すぐに目を細めて寝そべる。
「やっぱり、な……そんで冒険者らしく冒険に行くのか?」
滲み出てきた涙をふき取ると、雰囲気を変えるためにたずねる。
その問いを効いた讀賣自身も苦虫を噛んだような悲しそうな悲しそうな顔を病め、今後の予定について考えた。
「多分明日は
「そ、それじゃあギルド登録はまだなのかい!?」
急に起き上がり讀賣に迫るクローニ。ちょいと手を出してクローニのことを抑えると、馬を落ち着かせるときの特有のいなし方をする。
「ドードー」
「わたしゃ馬じゃねーわい!」
すこしばかり強い突っ込みである思いっきりの張り手を讀賣の頭に放つ。
今回ばかしは予想が出来たのか、両の腕をあわせて力ずくで防御をする。
「ッだからいい加減それやめろっ!」
叩かれた腕を払うようにして衝撃を軽減される。
すると。
――ピロリン!
という小さな機械音が讀賣の中で響いた。
「なんか今音しなかったか?」
「なんもしなかったけど、ってにいちゃん切り替え早いな」
「だとすればステアップとかか?」
小さく呟くと、空中で指を遊ばせてステータス画面を開く。
名前:讀賣 新聞
種族:人間(転生者)
レベル:69
職業:村人
年齢:17(30)
体力:96220/96330
筋力:1260
防御:59160
俊敏:1666
魔力:250920/250920
魔力強度:12240
炎魔法Ⅹ・雷魔法Ⅹ・黒魔法Ⅷ・防護術Ⅶ・鑑定Ⅲ
「なか色々と増えているんだな」
この中で先ほど示したものはなんだ? レベル表記か?ただ単純にステータスがあがったからか? それなら何で今まであがらなかった? そもそもステータスやレベルが亜gファル条件とはなんなんだ?
憶測に憶測がよぎり、答えが見出せない。
頭の中には先程のような自問が飛び交っている。
さすがの讀賣もここまでの思考両立は出来ないらしく、クローニの迫ってくる手には気づかない。
「おい、返事をしな!」
呼びかけをしても返事をしない讀賣を心配しての目覚めのパンチ。
無防備な状態で食らったその一撃は、回復しきった体力を二割程度減らす。
「ッガハ!?」
拳が当たった腹は、一時的に大きな凹凸ができ、それが直ると同時に一気に壁まで吹き飛んでいく。
「な、なんだ敵かっ!」
気昨日の経験で敵襲かと疑うが、讀賣の目の前に居るのは呆れた顔を見えるクローニのみだ。
どうしたのだろうかと疑問の顔を浮かべると、クローニはため息交じりで説明をしだした。
「まあ色々とあってだな、にいちゃんが寝ぼけて反応をしなかったから起こしてあげたんだよ」
最後の方は呆れた口調だが、雰囲気に飲まれない読み栗はあることに気づいていた。
「それ、本気で殴る必要あった?」
涙目で訴える讀賣は非常に弱々しく、あまりそのような感情に疎そうなクローニですら、多少の引け目を感じているらしく、すこし顔を鹿ませている。
「その、なんか勢いで……」
恥ずかしそうに頭を掻くクローニを見て弱弱しさなどがなくなり、逆に呆れ顔にすらなっている。
「うん……知ってた」
その言葉と共にこぼれた涙は地面に落ち儚く散った。
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