第43話
ビービーとうるさくなる危険音に魘されて目が覚める。
腕が重いと横を見ると、ルーネとレグリーが腕に抱きついて寝ていた。
慣れてはいけないような気もするような感覚が頭に流れてくる。
そして讀賣の頭上には慣れる以前に、そもそも見たことがないような光景が広がっていた。
そう、おばちゃんの本気ダイブだ。
きっと先程の危険音はこれを知らせるためになったものなのだろうと一人でに納得すると、急に焦りが出てくる。
怪力のクローニのダイブだ。幾ら耐久が高い讀賣でも怪我程度は免れないだろう。
未だこちらの世界に来てから怪我をしていない讀賣。こちらの世界で怪我をしたらどの程度の苦痛が訪れるのだろうという興味と、もしかしたらとてつもなく痛いのではないかと憶測に憶測を重ねた結果出てくる恐怖心もある。
今の讀賣の心は、注射に慣れ始めた子供が急に注射は痛いという概念から錯乱状態になる寸前の心内状態だ。
開けてみたいが何があるかわからないパンドラの箱だ。
このままでは埒が明かないと、しょうがなくといった雰囲気で起き上がろうとする。
「おばちゃんパワー、全開よぉ!」
すると、奇声を発しながら振ってくるおばちゃんが目に入った。
そう、おばちゃんが、だ。
「――ちょっ!?」
布団を自分の体から剥ぎ取るようにして出ると、体を起こして腕をクローニの方にむける。
「起きたんならいいけどさ、これ、もう止まんないんだわ」
何かを悟ったような顔で讀賣に言った。
そして讀賣もこうなる事が予想していたのか、驚いた顔ではなく、比較的穏やかな顔だ。
「うん。知ってた」
同じように悟ったような顔で対面する二人、そしてそれを恐怖の顔で見つめるギレーヌとルーネ。
そんな彼女らを尻目に讀賣はクローニを受け止めるように手を伸ばすと、一気に力をこめる。
「ここまで重いおばちゃん、受け止められないから落とすわ」
「え? ちょ、まっ」
遠心力をつけるために一回転をその場で行うと、先ほどの正面が目の前に来た瞬間、地面に向けって腕を振るう。
「ごめん、これ以上はクローニ、あんた次第だ」
「せめて、優しく、ね?」
「ああ解った、。おも一気氏やってやるから歯食いしばれ!」
目を閉じて額に血管を浮かべると、一気に一本背負いの形になる。
そしてフンと力を込めて体を前側に倒す。
「
クローニが無詠唱である
「私を守りな、三枚全シールド稼動!」
うローにが叫んだ途端、いっせいに三色の輪が赤色に染まり、それぞれが上下に伸び、最終的には薄い膜となるようにして体に張り付いた。
「そいやぁ!」
そして一気に手を離して床を目掛けてクローニを飛ばす。
方向は狙った通りで、リーナとルーネ、そしてレグリーのベッドと今現在讀賣が膝立ちをしているベッドとの間にある廊下のようなスペースだ。
幸い、現在が二日目という事で大きな荷物や硬い物など、買う予定や買う目的も無かったがために何も買っていない。ゆえに死の可能性は格段と下がる。
いくら防御力があったとしても、それは苦痛耐性のようなものだ。だから鋭いものも刺さるし、硬い物に当たれば潰れもする。
だが、その身体の強度に関係のあるステータスというもある。
そう、それは隠しステータスだ。
だが、生憎と讀賣はそのステータスを見れるほどのレベルには達してはいない。
隠しステータスの気密性は現在讀賣が見れるパッシブスキルの上の上の上だ。
それもそうだろう。隠しステータスが見れるとするのならば、それは相手の弱点や、癖がわかるという事だ。
隠しステータスは経験に基づくものだ。怪我をすれば、今度怪我をしては危ないからという理由で、体内にある栄養を使いステータスをあげる。そしてそのステータスはものすごく細かく分類をされている。
例えば剣術の場合は、瞬発力が高ければ居合いを得意とする戦士だという事もわかるし、忍耐が高ければ、可能性に賭けずに確実性を基盤とした戦い方をする。
このように細かく分かってしまうのが隠しステータスだ。
讀賣はその隠しステータス自体は見れてはいないが、このサイクルに気づいてもいる。
こちらの世界に来てからの二日間、様々な出来事が合った。そして解った事もあった。
体が丈夫になっているということだ。
讀賣は昨日に凍らされたばかりだ。寒さ耐性や苦痛耐性、そして防御力が上がるのは当たり前な事だろう。
朝おきたときの違和感で察しをつけていた讀賣だが、それにたどり着く根拠が無かった。
だが、今日の朝、クローニに殴られた事からそれは確信に変わっていた。
小太りで80キロもありそうな人を片手の張り手だけで吹き飛ばすのだ。その人の本気の殴りを無抵抗の状態で受けるのだ、それ相応の痛みやダメージがあってもいいだろう。
だが、体力が減るどころか、そこまでの痛みは無かったのだ。
可笑しいとは考えるのが普通だろう。
そこから考えられるのは、ただ一つ。そう、もう一つのステータス、隠しステータスの存在だ。
それがもしも存在をするのならば、かさの事も納得が行く。
「お前は隠しステータスが高そうだしな。死にはしないだろうよ」
讀賣は隠しステータスの存在を信じ、思い切り床にクローニをたたきつけた。
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