第10話

暗幕をくぐると、そこには外から見たよりも大きな空間は広がっている。

 所々にたいまつが立てられており、薄暗い雰囲気のある部屋だ。

 そして肝心の奴隷たちは檻の中に子供なら三人、大人なら二人という風に分けられている。

 「意外と中は広いんですね」

 「知らないのですか? これは入り口を対象とした空間魔法ですよ」

 自慢げにカーサワは言ってくる。

 空間魔法。読んで字の如く、空間を対象とした魔法で、今回の事を言えば、暗幕を扉と仮定して、暗幕を通るとそこは別の空間に移動できる魔法のことだ。

 その魔法自体はそこまで珍しくはない、とリーナは言っている。

 だが、この空間魔法は一味違うみたいで、普通の空間魔法なら止まっているもの同士でしか魔法は成立しなかったのだが、この奴隷の運搬用の馬車はそれを可能にしているらしい。

 「ああ、確かにすごいな」

 すると調子に乗ったのか、すぐさまに奴隷の購入を勧めてくる。

 「どいつを買っていただけるのでしょうか」

 ゲスが、といいたくなる口を無理やり閉じると、一度奴隷たちの顔をゆっくりと眺める。

 すると、一人しか入っていない檻があることに気づく。

 その檻に入っている奴隷は幼女だ。それも他のものとは一味所か二味以上も違う。

 だが、そんな幼女を見ても讀賣は平然を保っている。

 それはその奴隷の状態に気をとられているからだ。

 「怯えているのか?」

 人、という前に讀賣に怯えている。

 先ほどまではなんともなかった奴隷だったが、讀賣が視線を向けた瞬間蛇に睨まれた蛙の様に縮こまり警戒心を丸出しにしている。

 それに体中にも痣や擦り傷、切り傷もだが、深く残っている古傷すらも見える。

 流石にゲスとはいえ腐っても奴隷商、自ら商品を傷つけるなどの愚行はしないだろう。

 きっとここに来る前に、そして来たあとの客や奴隷などから色々な事をされたのだろう。

 そう判断すると、讀賣はその幼女に近づく。

 「……」

 幼女は近づいてくる讀賣をただ睨むだけだ。

 すると、カーサワは付け足すように言ってくる。

 「その奴隷ははっきり言って危険ですので、ふれあいを臨むのならば危険を承知の上で」

 それは讀賣を心配してのことではないだろう。

 きっとお得意様をなくしたくなかったり、評判を落とさないための計らいだろう。

 讀賣はそれを聞き流し、何のためらいもなく檻に手を入れる。

 「ッ!」

 幼女の奴隷は、自分のテリトリーに侵入してきたその手を噛む。

 そして口の中に入った手を噛み砕くように上の歯と下の歯を左右に揺らし噛み続ける。

 だが、讀賣は痛みなどは全く気にせずに、もっと噛んでと左の手も差し出す。

 今度は差し出されたもう一つの手を折るようにして手で握り絞める。

 (ああ、こんな可愛い幼女が舐めたり握手できるなんて本望だよ!)

 その光景を見ていたカーサワは口を開け唖然としている顔だ。

 それはそうだろう。今まで誰一人としてこの奴隷を前に逃げ出さなかったものはいない。

 噛まれ、痛いと顔を殴ったりする人間はカーサワがじきじきに粛清を食らわしその手を切り落としている。

 それほどまでこの幼女の髪は強烈なのだ。

 だが、そんな噛み付きを物ともせず、逆に差し出してすらも居るのだ。

 ならばこの際に売り出したほうがいいだろう。

 「どうです? この奴隷、買ってみません?」

 手をこすり合わせ二マァっとしたした笑顔で言う。

 そんな笑顔に多少引きつつも答える。

 「俺は幼女の奴隷は買いたくないんですよ。でも」

 顔の色を変えると、魔力があふれまわりに風が立つ。

 思考は懐かしきあの頃、セールス時代のものに変わっていた。

 さぁ、手に入れたもの情報で幼女を買ってやろう。

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