女騎士と解体少女
土装番
第1章
第1話
半壊した状態で営業するコンビニエンスストア〈パーソン〉で買い物をする少女、日向明里は荒れたままの店内で商品を物色する。
「うーん……今日はこれでいいかな」
カップラーメンと牛乳を手に取り、レジへと向かう。コンビニを出て、購入した食糧を入れたレジ袋を手に、明里はかつて道路として機能していた道にそびえる瓦礫の山へ歩き出す。
「さて、今日は何が見つかるかなー…… モンスターは出ませんように」
お祈りをしてから瓦礫の山を漁り始める明里。漁り始めから間もなくに明里は目的の物を見つける。
「あった! まずは一つ目の携帯! なかなか分解のしがいがありそうな……」
自身の趣味である機械の分解のために、廃墟と化した建物や瓦礫を探索する明里。この日は携帯電話2個とドライヤーを探し当てた。
「間もなく18時となります。夜の外出は非常に危険なため、速やかに帰宅してください」
「ちぇっ……もうちょっと探したかったなー」
大多数のモンスターが持つ、暗闇に乗じて人間を襲撃するという習性の存在が報告されて以降流されるようになった警告音声が、各所に設置されたスピーカーから流れる。
明里は探索欲を渋々我慢し、とぼとぼと帰路につくことにした。
* * *
「さて、今日も始めますか」
開け口が開いた牛乳と、お湯を入れたばかりのカップラーメンを自身の隣に置き、テーブルの上に無数の工具と共に携帯電話とドライヤーが置かれる。
手を合わせて一礼をした後、工具を手に取り携帯電話の分解に取りかかる。分解中の明里の表情には、真剣さと共にオモチャを手に取り喜ぶ子供のような柔らかさがあった。
あっと言う間に携帯電話とドライヤーの分解を終えた明里は、そのまま大の字で後ろに倒れ、スッキリした満足げな表情でそのまま眠りについた。
翌日、明里は眠気覚ましと身体を洗う意味を込めたシャワーを浴びる。その後服を着て、テーブル上にある分解後の無数の細かなパーツを、プラスチックの収納ケースの中へとまとめて流し入れる。
「ふあぁ……今日はどうしようかな。あそこはもうそろそろ探し尽くしそうだし……そうだ、今日は外でやろう!」
今までは、外に出ては持ち運べそうな機械を選び、持ち帰って分解するという手順で機器の解体をしていたために大きめな機械は分解できずにいた。
そこで発想を逆転させ、ならば外で直接分解すればわざわざ持ち帰らなくても良いのではと考えた。
思い立ったからにはすぐに実行に移さねばと、リュックサックに工具を仕舞い込み、昨日歩いた瓦礫の山へと向かうために外へと走り出した。
「冷蔵庫とか分解してみたいな……思いきって車とかでも……」
分解出来る機械が増える喜びで、明里の頭の中は分解してみたい機械だらけになり周りが見えなくなる。
「モンスターもなんだかんだで最近見てないし、大丈夫だよね……あっ、このテレビ一回分解してみたかったんだー!」
以前から目をつけていたテレビを目の前に、瞳を輝かせ手早く工具を取りだし、瓦礫の上に座って解体を始める。
解体に集中し、目の前のテレビのみに意識が向いた直後に、明里の背後から足音のような音が聞こえる。人の足音にしては一歩一歩の勢いが強く、唸るような声もその中に混じっている。
怪しい気配を察知した明里は身体を硬直させ、そんなはずはないと恐る恐る振り向く。
すると、振り向いた先には棍棒を持った二体の緑色の肌をしたゴブリンが、明里へと少しずつ歩み寄ろうとしていた。
「ひぃっ!? な、なんでこんな時にいるの……!? こっ……来ないで!」
明里は腰が抜け、地面に尻をつけた状態で後退りしながら石を投げつける。
ゴブリンに石を当てても効いてる様子は無く、こそばゆい程度だと言わんばかりに指で石が当たった箇所を指で掻く。
ゴブリンがお互いに見つめ合い、頷いた次の瞬間、二体のゴブリンは同時に明里に向かって走り出した。
「あっ……足が動かない……だめ……殺される……!」
目を瞑り、両手で頭を押さえて縮こまり死を覚悟する明里。
その時、明里の背後から女性の声がした。
「はあぁっ!」
何者かが明里の上を飛び越える。明里が押さえていた頭を解いて上を見上げると、そこには重装の鎧を身に纏った、金色の長髪の女騎士の姿があった。
その女騎士は明里の目の前に立ち、ゴブリン達へ刃を向ける。
「醜き怪物達よ、覚悟!」
女騎士は、ゴブリンの胸めがけて刃を貫き、一撃で絶命させる。
その様子に、ゴブリンは一瞬怯むも、すかさず女騎士に棍棒で殴りかかる。
棍棒と右腕を覆っている装甲がぶつかり、大きな金属音が鳴り響くが女騎士に効いてる様子は無く、ゆっくりと絶命したゴブリンから刃を引き抜く。
「どうした? 来ないのならばこっちから行くぞ!」
引き抜いた刃をそのままもう一体のゴブリンへ向け、勢いよくゴブリンの首へと振り払う。
ゴブリンの首は上空に吹き飛び、地面に叩きつけられ、頭部を失った身体は、ゆっくりとその場に崩れた。
「大丈夫か? どこか怪我はしていないか?」
女騎士は明里に手を差し延べる。金髪の長い髪を持つ綺麗な顔立ちをした美しい女騎士を目の前に、明里は見惚れてポカンと放心していた。
「あっ……は、はい! ありがとうございます!」
深々と慌ててお礼をする明里に、女騎士は笑顔で応える。
「騎士として当然のことをしたまでだ。これからは気を付けるんだぞ」
「はい! あっ、あの……さっき殴られてたところ、大丈夫ですか?」
明里はゴブリンに殴られた女騎士の腕を心配するが、女騎士は何事もなかったかのような顔で返す。
「何? 私は攻撃を一度も喰らってはいないぞ? だが、心配してくれてありがとう」
明里はここで不思議に思う。あれだけの金属音が響いたならば、攻撃されたとわかるはずだが、女騎士は本当に何も攻撃されていなかったかのように喋っている。
痩せ我慢をしているのではないか? と心配になり始めた明里は、女騎士の目の前に立つ。
「あ、あの……もしよかったら……一度私の家に来ませんか…? う、腕の方も……心配……ですし……」
緊張からか、段々小声になりながらも、女騎士を自分の家へと誘う。断られることを前提で話したが、女騎士は間を置かずに返事を返す。
「わかった。君の家へと着いていこう」
「……へっ?」
「君の家はどこなんだ? 案内してくれ」
予想外の返事に再び放心する明里。女騎士は、目の前でいつ向かうんだと言わんばかりに、明里の目の前で待機している。
「あ、ああええと……こっちです!」
「うむ、楽しみだ」
「あの…お名前はなんて言うんですか?」
「私の名前はクラリスだ、よろしく。あなたの名前は?」
「私は……日向明里って言います!」
「うむ、よろしく日向明里」
「あ……はい!」
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