第三十五話 水着の魔法少女

 七月初旬──金曜日。


 夏休みに魔法少女のみんなと海に行く事になったは、水着を買いにとあるショッピングモールにやって来ていた。


「沙希ちゃーん。久しぶりだねー! メールとかSNSとかじゃ頻繁に会話してたけど、こうして実際に会うのは天使と戦った時以来だよねー 」


 ショッピングモールの入り口で待つ私に、手を振りながら駆け寄る風歌さん。

 さすがに私一人では水着を買いづらいので、今日は一緒に来てもらっていた。


「はい、お久しぶりです。今日はありがとうございます」

「ああーもう! 固い固い! 私と沙希ちゃんの中でしょー?」


 相変わらず、風歌さんは元気いっぱいだ。

 朗らかな笑顔が、今の私にはとても眩しく感じる。


 ……ちなみに今日の風歌さんは学校帰りなので、高校の制服を着ていた。

 こうして制服姿を改めて見ると、風歌さんは年上の女子高生のお姉さんって感じがして、一緒にいると少しドキドキする。


 ────天真爛漫な年上のお姉さんって感じで、なんかこう……いい。


 ……そんな事を考えながら、私が風歌さんの制服姿に少し見惚れていると、


《な~に、浮かれてるんだか。ばっかみたい……》


 ヒカリが念話で不満げな声を漏らした。


《水着を着るのは海に行くから仕方ないけど、着る時はせめて目を瞑っててよね~……》

《はあ?》 


 なんだそれ……だいたい今更じゃないか?

 ヒカリは私に沙希の裸を見せたくないのだろうけど、そもそも前に優愛ちゃんの家でお風呂を借りた時に────……


《あ~! 思い出さないで~! とにかく、二度目は駄目だから! 今日もサイズは分かってるんだから、試着も無し!》

《分かった! 分かったから脳内で大声出すのはやめてよ!》


 まあ……海で着替える時にみんなの裸を見るわけにはいかないし、仕方ないか。

 なんとか理由をつけて向こうでも目を瞑るか、一人で着替えるようにしないと……って、あれ?


《今日、試着しなてくも、結局は向こうで着替える事になるんじゃないのか?》

《……そんなの、勇輝おとこの姿で水着を着てから、沙希に変身すればいいでしょ~?》

《はあ!? 嫌だよ!》


 いきなり何を言い出すんだ、こいつは!

 

《嫌とか言える立場じゃないでしょ~? 沙希の姿はヒカリが貸してあげてるんだから》


 うっ……それはそうだけど……。

 でも、勇輝おとこの姿のまま女性用水着を着るとか、絶対嫌だ……。

 なんとか海に行く日までにヒカリを説得しないと……。


《大体さぁ~……水着なんて買いに来るよりも先にするべき事があるんじゃないかな~?》

《それは……》


 ……たしかにこんな事をしている場合じゃないのかもしれない。


 なんせ、私はあの夜の遊園地での一件以来……ずっと巴と会っていないのだから。


 あれから巴は家に来なくなったし、私の方も巴のマンションには行っていない。

 連絡も取っていない。そのせいで、日和にも「お兄ちゃんって、巴さんと別れちゃったの?」とか聞かれる始末だ。


 ……まあ、元々付き合ってないけど。 

 

「うーん……もうすっかり夏休みだねー!」


 風歌さんが大きく伸びをしながら、開放感に満ちた笑顔でそんな事を言う。


「風歌さん。七月になったばかりですよ? あと一週間は学校ありますから……」

「えー細かいことはいいじゃん? 七月になればもう夏休みだよー。期末テストも終わったしねー。色んな意味で……」


 大きなため息をついて、がっくりと肩を落とす風歌さん。


 あの様子だと、風歌さんの期末テストの手応えはあまり良くなかったみたいだ。

 私は「うぅ……ヤバイよぉ……補修がぁ……」とうめき声を上げながら歩く風歌さんを励ましながら、水着売り場があるフロアを目指して歩く。


「はぁー……魔法少女はテストを免除されたりしないかなー。沙希ちゃんは期末テストはどうだった?」

「私ですか? 私はまずまずの手応えでしたよ」

「えぇー!? なんでー? 魔獣退治してたら勉強する時間なんてないでしょー? 凛々花ちゃんも優愛ちゃんもテストは問題無かったですよー、なんて言ってたしズルいよみんなー!」


 ズルくはないと思うけど……。


「まあ、風歌さんは高校生ですしね。勉強も難しくなって大変ですよね……」


 私は風歌さんにそんな慰めの言葉をかける。


 ……けど、私だって他人事じゃないかも。


 今はまだ勉強についていけるけど、三年になったら受験もある。

 私は来年になっても成績を落とさずに、魔法少女を続けられるんだろうか?

 訓練や魔獣退治の時間を減らしたくはないけど、勉強もある程度は頑張らないと父さんと母さんに申し訳ないし……。


 ……母さん。

 

『……先輩。あなたがそんなにも自分を追い詰めるのは……亡くなった前のお母さんの事が関係しているんですか?』


 ふと、あの夜の遊園地で巴に言われたことが頭を過り、私は思わず俯いて黙り込んでしまった。


 風歌さんはそんな私を見て一瞬「おや?」という顔をする。

 だけど、すぐにいつもの明るい表情に戻り、


「……そういえば巴ちゃんはどうだったのかなー? テストの成績」


 それとなく巴の事を私に聞いてきた。


「えっと、さあ……どう、なんですかね……」


 私は言葉を濁し、風歌さんから視線を逸した。

 巴とのことを、上手く説明出来る気がしない。


 ……あの日、|巴に母さんの事を聞かれた時だってそうだ。

 は巴に何も答えられなかった。


 の事は、俺の心の中でまだ整理がついていないからだ。


 もうあれから三年も経つのに……。


『その……ごめんなさい……。勝手に先輩のお母さんの事を調べたりして……。怒ってますよね?』


 あの時、巴は俺が怒っていると言ったけど、違う。

 俺が何も答えられないのは、巴が勝手に母の事を調べた事を怒っているからじゃない。


 大体、そんな事を少し調べれば誰でも分かる事だし、巴がステラを密着取材すると言ってた時にはもう知られるのは覚悟していた。


 だから、その事はいい──けど、俺が母さんの事で自分を追い詰めている?

 巴の言っている言葉の意味が分からなくて、俺は何を答えたらいいのかが分からない。


『…………っ』


 それでも何かを言わなきゃと思うのに……声にならない。

 続きの言葉が頭に浮かんでこない。

 ただ掠れた声が、わずかに俺の口から漏れるだけだ。


『──ぁ。……本当に……本当にごめんなさい、先輩。わ、私……そんな先輩を傷つけるつもりじゃ……』


 一体、その時の俺がどんな表情をしていたのか、自分では分からない。

 けど……多分、その時の俺の表情が、巴を傷つけてしまったんだと思う。


『────』


 雨に打たれながら何も言わずに立ち尽くす俺に、


『ごめんなさい……』


 巴は今にも泣き出しそうな顔で頭をもう一度深く下げた。

 そして、そのまま傘もささずに、遊園地の出口ゲートに向かって巴は走り出してしまう。


『────巴!』


 今すぐ追いかけて誤解を解かないと!


 ……そう思っているのに、俺の足はなぜか固まったまま動かない。

 俺は雨に打たれながら、走り去る巴の背中を見送る事しか出来なかった────……




 

「────きちゃん。沙希ちゃん? おーい。大丈夫……?」

「……え?」


 ふと我に返ると──突然黙り込んでしまった俺を、風歌さんが心配して呼びかけてくれていた。


 ────いけない、いけない。

 そんなに長い間考え込んでしまっていたのか。


 俺は慌てて顔を上げて、風歌さんに返事をした。

 だけど、あの夜の事を思い出していたせいで、


「あ、大丈夫ですよ、俺は……」

「んー? ……?」


 俺はつい、男の時の一人称で答えてしまった。


「あ、ああ! いえ! は大丈夫です、はい」


 私は慌てて一人称を元に戻し、誤魔化した。


 だけど、うまく誤魔化せただろうか?

 今の否定の仕方は、少し挙動不審だったんじゃないか?


「沙希ちゃん……」


 うっ……やっぱり怪しんでる。

 明らかに不審そうな顔で、風歌さんは私を見つめている。


「あのさー……答えにくい事だったら答えなくてもいいけど……。もしかして……」


 まさか、本当に私が男だとバレたんだろうか?

 風歌さんは言いにくそうに言葉を溜めているし、これは……


「もしかして、巴ちゃんと何かあったの?」

「……え!?」


 なんだ、そっちの話か。

 私はほっとして安堵の溜息をついた。


 巴の話題が出た途端に私が黙り込んだのだから、風歌さんがそう思うのも当然か……。

 しかし、正体がバレなくてよかったけど、これはこれで答えにくい質問だ。


「えっと、巴とはその……ちょっと色々あって、ぎくしゃくしてて。しばらく会ってないっていうか……」

「もしかして喧嘩でもしたの?」

「いえ……」


 喧嘩ではない……と思う。

 ただ、これからどう巴と接すればいいのかが分からないだけだ。


 こういう時、巴に謝れとか色々うるさく言いそうなヒカリも、


『ヒカリの事はいいからさ~。仲直りするために、一度ちゃんと巴ちゃんと会って話し合いなよ~』


 としか言ってくれない。


 だから、風歌さんにもどう説明すればいいのか……分からない。


「お節介かもしれないけどさー、私も沙希ちゃん達とは一緒に死線をくぐり抜けた仲間じゃない? だから風歌お姉さんに気軽に相談してみてよ、沙希ちゃん」


 風歌さんは優しく微笑みながら、そう言ってくれた。


「風歌さん……」


 私はそんな風歌さんの笑顔に少しどきっとしながら、出来る範囲で説明をすることにした。


「その、喧嘩……したわけじゃないと思うんです。ただ、どう接すればいいのか分からなくなったというか……。前は自然に話せていたのに、今は会うのが怖いんです。巴が何を考えているのか怖くて……」


 ……駄目だ。たどたどしいというか、言っている事が抽象的すぎる。

 これじゃ何が言いたいのかが伝わらない。

 ヒカリとルクス、そして母さんのことを話せないせいで、余計に上手く説明出来ない。


「ふむふむ、そっかー……。沙希ちゃんと巴ちゃんがねー……」


 風歌さんはそれでも、私の説明を咀嚼して「ふぅーむ……」と呟きながら、何度も頷いてくれている。


「むむ……うぅー……」


 だけど、大丈夫なんだろうか……?

 風歌さんは目を瞑ったまま、ものすごく難しい顔をして黙り込んでしまった。


「あの……風歌さん?」


 心配になって私が呼び掛けても、風歌さんは難しい顔をしたままだ。

 風歌さんはそのまましばらく「うーん」と唸り続けた後、


「よし!」


 突然顔を上げて、


「……分からん! お姉さん、何も分かりません!」


 大きな声でそう言い切ってしまった。


「ええ!?」


 たしかにさっきの私の説明じゃ、何があったのか伝わらないかもとは思ったけど……。

 

 勝手な話だけど、風歌さんに何か良いアドバイスがもらえるかもと期待していただけに、私は少しがっかりして、肩をがっくりと落としてしまった。


「だって、私より巴ちゃんと仲が良い沙希ちゃんが分からないんでしょー? まだ会ったばかりのお姉さんに分かるわけないじゃん?」


 そんな身も蓋もない……。


「いや、それはそうですけど……」

「だからさー……ここで辛気臭い顔しながら悩むより、直接巴ちゃんに会って聞いてみたら?」


 結局、風歌さんもヒカリと同じような事を言うのか。

 それが出来ないから、私は困っているのに……。


「それが出来たら苦労しないって顔してるねー?」

「それは……」


 また、人に考えを読まれてしまった。

 私はよっぽど不満が顔に出ていたのか、風歌さんは少しだけ申し訳なさそうに笑みを浮かべて、話を続ける。


「でもさ、それは巴ちゃんも同じじゃない? 巴ちゃんも沙希ちゃんと同じような事思ってるかもしれないよー? 君が何を考えてるか分からないし、気まずくてもう一度会うのが怖いなーって」

「え?」


 巴も……私と会うのが怖い?

 風歌さんに言われるまで、私はその可能性を考えもしなかった。


 実際どうなんだろう……。

 巴はあの夜、何を思って母さんの事を口に出したんだろう?


『ごめんなさい……』


 あの時──巴は泣き出しそうな顔で私に謝っていたけれど、やっぱり私が母さんの事を言われて怒っていると勘違いしているんだろうか?

 そう思わせるような怒った表情を、自分でも知らず知らずのうちにしていたのか?


 ……考えてみれば私は今の今まで、巴に聞いて確かめることすらしていない。


「結局、仲直りするにはさー。お互いに時間をかけて話し合ってみるしかないと思うよー。私も友達と似たような事があったけど、結局は話し合って解決したなー」

「話し合う……」

「うん。来週、海には巴ちゃんも来るでしょー? その時にでも話し合って仲直りしたらいいと思うよー。……私から言えるのはこれぐらい、かな?」


 風歌さんは言い終えると、私にまた微笑んでくれた。


「………」


 巴と一度会って、きちんと話し合う──ヒカリにも散々言われた事だけど、風歌さんに改めて言われると不思議と自然に受け入れる事が出来た。


《やっぱりお姉さんだね~風歌さんは。ヒカリが何度言っても、巴ちゃんに連絡すら取ろうとしなかったのにね~》


 私の心情の変化を察して、ヒカリが念話で話しかけてきた。

 ややスネ気味の口調だ。


《悪かったよ……》

 

 私は素直にヒカリに謝った。

 そして、風歌さんとヒカリのアドバイス通り、巴とももう一度会って謝ろうと思った。


 ちゃんと巴と向き合って、ちゃんとあの夜の続きを話し合おう────



 そう決意した瞬間、今まで巴の事を考えてモヤモヤしていた気持ちが、少しだけ晴れた……ような気がした。


「あはは、ごめんねー。あんまり良いアドバイスが出来なくて」

「いえ、とても参考になりました。私……風歌さんの言うとおり、巴に会ってちゃんと話し合ってみようと思います。相談に乗ってくれてありがとうございます」


 私は風歌さんに頭を深く下げて、感謝の気持ちを伝えた。


「うんうん! そうするのがいいよやっぱり!」


 風歌さんは満面の笑み私の手を握り、ぶんぶんと上下に振り回した。

 まるで自分の事のように、風歌さんは喜んでくれているのが……少し、嬉しかった。


「風歌さん……」


 ────風歌さんの手……暖かいな……。


 胸のモヤモヤが少し晴れたせいか、風歌さんの近い距離感にいまさらドキドキしてきた。

 顔もなんだか熱い気がする。


「ん? どうしたのー?」

「────っ」


 握られた手をじっと見ていると、風歌さんが私の顔を覗き込んできた。

 顔が近いせいで、風歌さんの長い睫毛と、バッチリとした大きな目がよく見える……。


「い、いえ……」 


 ……こうしてまじまじと見ると、やっぱり風歌さんは凄く綺麗だ。

 まだ中学生の私からすると風歌さんはとても大人びていて、女子高生のお姉さんって感じがこう……いい。


《勇輝ってさ~……年上のお姉さんが好きなの~? よく考えたらステラの姿も大人びてるし……。年上の綺麗なお姉さんが好みなの?》


 私が風歌さんの大人の魅力に少しドキッとしていると、ヒカリがなぜか不満そうな声を漏らした。

 なにか……少し怒っているようにも感じる。


《そりゃ、どっちかというとそうだけどさ……》

《ふ~ん……。じゃあ、沙希の姿はどうなの? わりと大人びてると思うけど?》

《え?》


 ……どうなの? と言われても。


《それはもちろん、滅茶苦茶好みのタイプの……って何を言わせるんだよ!?》


 しまった。

 ヒカリの誘導尋問に引っ掛かって、思わず言わなくていい事まで口にしてしまった。


《そっか~。沙希は滅茶苦茶好みなんだね~。えへへ~》

「…………」


 この反応──やっぱりヒカリは……。



 

 ────ともあれ、ひとまず私の相談も終わった。


 後はそう。えっと、今日はたしか……。


「よーし! 沙希ちゃんの悩みも一旦解決したし、張り切って水着を選びますかー! 今日はみんなより先に、沙希ちゃんの水着姿を拝ませてもらうからねー!」


 ……そうだった。

 今日は私の水着を選びに来たんだった……。

 

「ふふーん♪ 沙希ちゃんは可愛いからねー。今日は色んな水着を試してみよっかー」

「い、いや適当でいいですよ! サイズは分かってるんで、適当で……」

「駄目駄目、そんなんじゃ! 実際に着てみないと似合う水着かなんて、本当には分からないよー?」

「え!? 着るんですか!?」

「……そりゃ着るでしょ?」


 何言ってんの? と言いたげな顔で風歌さんは首をかしげているけど…それはまずい。

 試着なんてしたら、またヒカリに怒られてしまう!


「ふふ~ん♪ どれがいいかなー」


 ウキウキとしながら私の水着を選び始めている風歌さんには悪いけど、試着だけはどうにか断らないと……!


「あ、あの……」


 私は恐る恐る口を開いてみる。

 

「ほらほら、さっそく何着か着てみようよー」

「ちょ……!」


 だけど、断る間もなく……私は風歌さんにぐいぐいと背中を押されて、そのまま試着室の前まで連れて来られてしまった。


《勇輝~……?》


 ……ヒカリの念話から静かな怒りが伝わってくる。


「じゃあ、中に入ろっかー」


 駄目だ……このまま流されて試着に応じたら、またヒカリに怒られてしまう。

 もうこうなったら……多少、強引にでも断らないと!


「ほんとにいいんで! 適当でいいんです、私は! だから、試着はいいです!」


 私はぶんぶんと首を左右に振りながら、どうにか試着を断った。


「ええー……そっかぁ……」


 すると、風歌さんはあからさまに落胆した顔をして、俯いてしまった。

 

「沙希ちゃんの水着姿、私とっても楽しみにしてたのになー……。あーあ、相談にも乗ってあげたのになー……」

「うっ……」


 それを言われると辛い。

 だけど、駄目なものは駄目だ。辛いけど、きちんと断らないと。


「べっつにー? 気にしてないけどねー、私はー。あーあ、残念だなー」


 気にしてないと言いながら、風歌さんはめちゃくちゃ気にしてる顔で私を睨んでくる。


「うぅ……」


 ほんとに……ほんとに断っていいのか?

 相談に乗ってもらって、アドバイスまで貰っているのに。

 

「……いや……その……」

《いや、駄目だよ!? 断るよね!? ねえってば~!?》


 ヒカリは私が次に何を言い出すのか察したのか、念話で水着の試着を断るように念押ししてくる。


 だけど、ごめん……ヒカリ。


《勇輝!?》


 私は心の中で一言ヒカリに謝って、そして……


「わ、分かりました、風歌さん。試着……してみます」


 とうとう、その一言を口にしてしまった……。


「ほんと!? やったー!」


 風歌さんは私の返答に大喜びして飛び上がる。

 満面の笑みで、またウキウキとし始めている。

 

「じゃあ早速、試着室に行こうよー! ほらほら早く早くー!」


 そして……私はやけハイテンションになった風歌さんの手に引かれて、強引に試着室の中に押し込まれてしまう。


《勇輝~……!!》


 ────結局、その日は可愛いフリルの水着から、際どいほとんどヒモだけの水着まで……およそ二十着ほどを、風歌さんに試着させられてしまった。

 一応、最初は目を瞑りながらの水着を試着していたけど、途中で風歌さんに「何で目を瞑ってるの?」と指摘されてしまい、結局は目を開けて水着を着ることになってしまった。


《勇輝の……馬鹿~……!!!》


 なるべく見ないようにしたから……などという俺の言い訳が通じるわけもなく……帰宅した後、はヒカリに夜遅くまで諄々と説教をされる事になってしまったのは、もはや言うまでも無い事だろう。

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