第六話 交友する魔法少女
ノクスと戦った数日後の、とある土曜日。
「この姿で会うのは初めてですね!はじめまして! アタシは
最初に挨拶をしてくれたのは、ショートツインが印象的な女の子──凛々花ちゃんだ。
声が大きくて、元気いっぱいな子だ。
「わ、私はえっと……はじめまして。
凛々花ちゃんに続いて挨拶をしてくれたのは、髪を肩口で切りそろえている女の子──優愛ちゃんだ。
声が小さくて、おどおどとしている。大人しそうな子だ。
「こちらこそ、はじめまして」
なんだか対照的な性格の二人だなぁ──なんて事を考えながら微笑み、私も挨拶をした。
そして、二人に自己紹介をする。
「私は
そう。沙希だ。
今の私は日向勇輝ではなく、ステラが変身を解いた女の子──という設定の少女、『沙希』に変身しているのだ。
「はい! こちらこそよろしくお願いします! ステラさん!」
「よ、よろしくお願いします……」
目の前に座っている二人も、私がの正体を微塵も全く疑っていない。
変身は完璧だった。
今の
……しかし、だ。
そもそも、他の魔法少女とは関わらないと決めたはずの私が、なぜ二人と会っているのか。
その理由を説明するには、ノクスと対峙したあの日の夕方にまで時間は遡る事になる。
□□□
「よかった……」
私は気絶したコスモスの無事を確認し、ほっと息をついた。
コスモスは気を失ってはいたが、怪我はしていなかった。
これなら後はローズに任せれば問題ないだろう。
私はそう判断して立ち上がり、二人に背を向けて歩き出した。
「じゃあ、私はこれで」
「あの! 待ってください!」
ローズが慌てて私を呼び止めた。
振り返るとローズは涙を滲ませながら、私に向かって深々と頭を下げていた。
「さっきはありがとうございました! ステラさんが来なかったらアタシ達……」
「そんなに畏まらなくも……頭を上げて」
私は涙ぐむローズの肩に手をおいて微笑み、頭を上げてもらった。
「私達は同じ魔獣を倒す仲間なんだし。当たり前の事をしただけだよ。『魔法少女は助け合い』でしょ?」
……我ながら、いい感じに格好良く決まった感じがする。
「ステラさん……」
ローズも感動して感極まったような顔をしている。
あとはこのまま立ち去れば完璧だ。
私はそれ以上何も言わずに、マントを翻しながら二人に背を向けた。
そして、今度こそこの場を後にしようと歩き出したのだが……。
「あ、待って! あの! ステラさん!」
また、ローズに呼び止められてしまった。
しかも、今度は私の腕をがしっと掴んでいて、絶対に離すまいと必死だ。
必死過ぎて、ちょっと腕が痛い。
「えっと……?」
なんでまた呼び止められたんだろう?
ローズは真剣な眼差しで私を見つめながら、
「連絡先! 連絡先を交換しませんか!?」
そう言って、早速スマホを取り出した。
「連絡先?」
「はい! やっぱりお礼はさせてください! また会いたいですし! ご迷惑じゃなければ……ですけど……」
スマホを握りしめながら、私の返事を不安そうに待つローズ。
断るのはかわいそうだが……。
「うーん……」
どうなんだろう、それは……。
私は顎に手を当てて、少し考えてみた。
まず、私が今まで他の魔法少女と関わってこなかったのは、正体が男だと知られるかも、と考えていたからだ。
それなのに連絡先を交換? もし休みの日に遊びにでも誘われたりでもしたらどうする?
魔獣と戦うわけじゃないのに、変身したまま会うなんて出来ないし、変身解除して会えば男だという事がバレる。
うん、駄目だな。
冷静に考えれば考える程、ローズ達と連絡先を交換するのはリスクが高すぎる。
お礼をしたいというローズには悪いけど、返す答えは一つしかない。
「あの……駄目ですか? ステラさん……」
「うっ……それは……」
だが、続きの言葉出てこなかった。
不安げなローズの視線が突き刺さる。
けど、駄目なものは駄目だ。
可哀想だけど、きちんと断らないと。
────よし、言うぞ!
私は覚悟を決め、口を開いた。
そして────
「いや、まったく迷惑じゃないよ? それじゃあ連絡先を交換しよっか」
……気づけば、私はそんな言葉を口にしてしまっていた。
とまあ、こうして私はローズと連絡先を交換し、その場で後日二人と遊びに行く約束をしてしまった──というわけなのだが……。
「ああああぁぁ……!」
私は帰宅した後──
「勇輝ってさ~。馬鹿だよね~。ほんとに……」
ベッドの上で頭を抱えて呻く俺を、ヒカリが冷ややかな声で罵倒した。
「うぅ……」
何もいい返せない。俺は馬鹿だ……。
「さっそく今度の日曜日に会う事になったけど、どうしよう……?」
「そのまま行って男の子だって正直に言う~? それとも変身したまま行くの~? 何で魔獣と戦うわけじゃないのに変身したままなのか聞かれるね~?」
「うっ……」
ヒカリの言う通りだ。
こうなる事は分かってたのに。俺って、ほんとバカ……。
後悔、先に立たずとはこの事だ……。
「ああ〜! どうしよう! どうしよう、マジで!」
後悔ともどかしさで、俺は頭を抱えてベッドの上でゴロゴロと転がった。
惨めにも程がある。そんな俺を哀れに思ったのか、
「はぁ……もう仕方ないな~……今回だけ助けてあげるよ~」
ヒカリは溜め息を付きながら、そんなことを言い出した。
「え? 助ける? どうやって?」
「いいからまずはしゃがんで~」
しゃがむ?
俺はわけもわからず、とりあえず言われた通りに床にしゃがみ込んだ。
「こ、こうか?」
「もっと~! 頭も下げて~!」
言われた通り、頭をさらに下げる。
「もっと〜!」
「お、おお……」
もっとか……俺はさらに頭を下げた。
ほとんど土下座してるような姿勢だ。
「う〜ん。そのぐらいでいいよ〜」
ヒカリはようやく納得したように頷いた。
そして、ヒカリもまたしゃがみ込み、
「じっとしててよ~」
なぜか俺の額に自分の額を合わせてきた。
「え? なにを……」
この姿勢は……アレだ。
ラブコメ漫画とかで、主人公とヒロインが熱を測る時にわざわざやるアレだ。
……相手が猫だから、ちっともドキドキしないけど。
「そのままだよ~。動かないでじっとしててね~」
「だから、何を……」
俺がもう一度質問した──その時だった。
「うわっ!?」
ヒカリの額が突然光りだして、俺の頭の中に何かのイメージが伝わってきた。
「これは……?」
人……黒髪の女の子?
頭の中にそんなイメージが浮かび、オーヴァム・ストーンも光を放ち始めた。
「な、なんだこれ……うわっ!」
これは──変身の時の光だ。
その光が身体を包み込み、あっという間に俺を別の姿へと一瞬で変化させてしまった
「え? なに?
でも、なんで勝手に?
私は困惑しながら立ち上がり、自分の手や体を確認した。
やっぱり女の子の体だ。けど……なにかがおかしい。
魔法少女に変身した時とは、何が違っていた。
「魔法少女じゃないよ~。
「え……?」
ヒカリに言われるがまま鏡で自分の姿を確認した私は、驚いて「あっ!」と声を上げた。
「女の子だ……」
鏡の中には、ピンクの衣装に身を包んだあのステラではなく、普通の服を着た女の子が映っていた。
そう。私は魔法少女ではなく、普通の人間の女の子に変身していたのだ。
「すごい! ヒカリってこんな事も出来たんだ……」
「私の中の女の子のイメージを勇輝に複写したんだよ~。これなら、どこからどう見ても普通の女の子でしょ~?」
なぜか『普通』の女の子だという部分を強調し、ドヤ顔をするヒカリ。
だけど……。
「普通? 美少女すぎでしょ、これは……」
「ええ〜!?」
私が正直にそう言うと、ヒカリは意外そうな声で驚いた。
「だって、ほら……」
私は鏡の中に映る今の自分の姿を指差した。
鏡に映っているのは、腰までサラサラと流れる綺麗な茶よりの色の黒髪に、パッチリと開いたやや明るいブラウンの瞳が特徴的な美少女だった。
白のVニットと茶色のロングスカートもよく似合っていて、はっきり言って街中で見かけたら誰もが思わず振り向いてしまうレベルだ。
「可愛すぎるけど……でも、ここまで美少女なら私が本当は男だって、誰も疑わないかも! ありがとうヒカリ!」
私は心の底から感謝して、ヒカリの手(前脚?)を握りながらお礼を言った。
「うぅ~……」
なぜかヒカリは照れくさそうな、困ったような…….。
そんなどっちともつかない顔をしている。
「……美少女は言い過ぎだよ~。あと恥ずかしいからあんまりその姿で変な事はやめてね~?」
「変な事って何!? しないよ! というかなんでヒカリが恥ずかしいのさ?」
「えっと、ヒカリのイメージが作った姿でしょ? だから……まあ、そういう理由かな~」
何だか歯切れが悪い。
なんとなく他に理由があるような気もするけど……今は訊かなくてもいいか。
なにせ、これで問題は解決したのだから。
「安心してヒカリ! 日曜の私は完璧な女の子になりきってみせる!」
「ええ~? そんな決意を聞かされても困るよ~……」
□□□
────と、こうしてヒカリの協力のおかげで完璧な美少女へと変身した私は、凛々花ちゃん達と待ち合わせをしていた喫茶店に意気揚々と入り、今に至るというわけだ。
二人に名乗った『日向沙希』という名前は、もちろん偽名だ。
名字の日向は
「変身もしてないのに魔法少女の名前で呼び合うのもおかしいですよね! 本名でいいですか?」
「うん、そうだね。じゃあ私の事は沙希でいいよ。私も凛々花ちゃんって呼んでいいかな?」
「はい! 沙希さん!」
早速、私の名前を呼ぶ凛々花ちゃん。
やっぱり元気いっぱいだ。
「じゃあ、今日は改めてよろしくね。凛々花ちゃん」
「はい!」
「優愛ちゃんも」
「……はい」
だけど……反対に、優愛ちゃんの返事には元気がない。
優愛ちゃんは見るからに気が弱そうだし、人見知りする性格……なんだろうか?
打ち解けるには時間がかかるかもしれない。
ともかく、凛々花ちゃんとの会話はまずまずの滑り出しだ。
この調子でいずれ優愛ちゃんとも仲良くなれば──念願の魔法少女の仲間を手に入れることも夢じゃないかもしれない!
《ホントにそれだけ~?》
……ヒカリが邪推して、俺にじとっとした思念を送ってきているけど、本当に目的はそれだけだ。
やましい気持ちは一切ない。
……ないったらない!
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