宝剣伝説 ー己を賭けた闘いー

紅桜 晴樹

第1話 名もなき伝説

――――――――――――――『名も無き少年』―――――――――――――――


       

―――――――――――王国の人々からはそう言われていた。――――――――――


 

―――――この王国の中で、少年の名前を知る者はだれ一人いなかった。―――――



――――――――――少年の人生はいつの間にか伝説と化していた――――――――






(これが…エクスカリバー…)



エクスカリバーを本で知ったのは5年程前。



『エクスカリバーは『シックザール王国』に存在する。』

『エクスカリバーは岩の上に裂き刺さっている。』


『アーサー王伝説に登場する、アーサー王が持つとされる剣。』

『この剣には、魔法の力が宿されているとされる。』




本にはそう書いてあった。




試しに抜こうとしても、ピクリとも動かない。



「…もう一度抜いてみるか…」


「うぐぐぐぐぐ…」



一人の住人が走ってくる。

「イラン王国が攻めてきたぞおおおお!!!」


この王国では、古くから王国対王国で争いが起きている。

王国は50国。


『どうして争いが起きるのか』は庶民には何も分からなかった。


「逃げろおおおぉぉぉ!!」

慌てて大勢の住人達は逃げる。



「…!」

突然エクスカリバーが抜けた。


これが”奇跡”というものなんだろうか。

これが”魔法の力”なのだろうか。



(この剣…重い…!)

少年はかなり剣を使いこなしている。


剣を構え、兵士に突進する。

「うおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」


「コイツ…剣をもって突進してくるぞ…!」

もう一人の兵士が慌てふためき、逃げようとする


「あれは…世界に平和をもたらすエクスカリバー…!?」

「うぐぁ!」

少年は王国の兵士を斬り、聖騎士の所へ走った。


「うおおおぉぉぉぉ!!」

聖騎士に向かって剣を振った。


「甘い…」


「!?」

振った剣を盾で防がれ、それと同時に剣が砕ける。


「なっ…!」

(剣が…砕けた…)


「エクスカリバーもそんなものか…」

聖騎士は剣で後ろ向きの少年を斬った。


少年は聖騎士の後ろにある岩へ吹っ飛んだ。



「ぐふっ…」

少年は岩へ顔面を強打したが体勢を立て直し、剣を構えた。

「―――ッ」


「もう終わりか…?」

聖騎士は後ろを向き、そう言った。


(剣が折れようが砕けようが俺には関係ない)

(俺はこいつを殺すだけだ…)

「うおおおぉぉぉぉ!!」


(まさか、剣が砕けている状態で向かってくるとは…!)

(その度胸だけは認めてやろう)

(だが…)



本で見たことがある。


『人間は宝技と呼ばれる隠された力を持っている。』

『今は”誰”もそのことに気付かず生活している。』

『10年後、自分の隠された能力を知る者が出てくるだろう。』


と―――



「砕け散れ!『神をも砕く人類の巨人リーゼ・トート』!」



30ⅿぐらいの巨大な巨人が少年に向かって大振で拳を振るが、

少年はエクスカリバーで攻撃を受け流し、聖騎士のもとへ走った。


「終わりだぁぁぁぁぁぁぁ!!」




「…」


そしてエクスカリバーは聖騎士の鎧を…心臓を貫いていた。


「負けを認めよう…少年よ」

「君の勝ち…だ…」

少年はゆっくり剣を抜く。


「グフッ…」

地面に血が零れ落ち、聖騎士は倒れる。




――――――――――『聖剣を取ればお前は人々を護れる』―――――――――――



―――――――――『聖剣を興せば自分の人生全て変化する』――――――――――



――――――――――――『これは運命であり伝説だ』―――――――――――――


「!」

「誰…だ…?」

少年も気を失ったのか、そのまま倒れ込んでしまった。






「起きろ、少年…」


「!」

慌ててベッドから起き上がる


「お前の名前は何だ?」


「…すまねぇな…実は俺には名前が無くて…な…」

「ふん…良かったら付けてくれねぇか?」


「待て、どういうことだ?」


「簡単に言えば」

「親に名付けられてない…」


「お…おいおい…俺は忙しいんだぜ?」

「名づける暇なんて無い」


「適当でいいから!」


「ああ、あぁ分かったよ」

「うーん…そうだな…」

「アーサー=クラレント…なんてのはどうだ?」


「おお、いい名前じゃないか」

「と言うか…ここどこだ」


「おいおい、ここはシックザール王国の宿だぜ?」

「思い出してくれよ」


「エクスカリバーは?」

アーサーが辺りを見渡すが、見渡す限りエクスカリバーは無かった。


「エクスカリバーならお前が寝てたベッドの下だ」


「ん?あぁ、ここか」

エクスカリバーを持ち、アーサーはベッドから降りた。


「ん?どこへ行くんだ?」


「二階だよ、二階」


「いや、行ってもいいが…」

「何するんだ?」


「準備だよ、準備」

「旅に出る準備」


「フッ…」


「さて…」

アーサーが階段から降りてきた。

「準備も終わったし…ちょっくらにでも行ってくるか…」

「帰る家もねぇしな」



――――――――――『聖剣を取ればお前は人々を護れる』―――――――――――



――――――――――『聖剣を興せば人生もろとも変化する』――――――――――



――――――――――――『これは運命であり伝説だ』―――――――――――――


「!」

この言葉が突然頭を過った。

(この言葉…聞いた事がある…)

(この声…どこかで聞いた事がある…)


それは男の声だった。

(誰だ…?)


男の声だった。

誰も聞けないような優しい声。

だが、そんな声をしている人は、シックザール王国には誰一人いない。

誰かが呼びかけているのだろうか。

これはSOSなのだろうか。


アーサーは周りを見渡すが、この部屋には病人ばかり。

二階には一部屋しか無く、アーサーが行った時には一人しかいなかった。


誰の足音もしない、誰の声もしない。

一体だれの声なのだろうか。


それはまだわからない。



「ん?どうしたアーサー」


「いや…なんでもない」

「行ってくるよ」


「…ここに戻ってくることはあるのか?」


「いや…ないかもな」

「んじゃ」


「あぁ、じゃあな」

アーサーは別れの挨拶を告げ、遠くに歩いて行く。




そう、これが『宝剣伝説』の始まり――――






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