0から作ろう魔王軍! 〜常勝無敗の暗黒騎士伝〜

不確定ワオン

第1話 俺と魔王と夕暮れキッスと涙目

夕暮れの河川敷。


 遠くで響くサイレンの音。

 そして逃げ惑う人々の悲鳴を聞きながら俺は困惑する。


「ん!? んー!?」


 やわ、やわわわ! 


 柔らかい!


 人生初めてのマウストゥマウス! つまりはキッス! 

 お袋でも婆ちゃんでも無い女の子と、ファーストキッス!


「んーーーー! ぷはぁっ!」


「ブハァっ! おっ! おま! おままままっ!」


 俺のファーストキッスを奪った相手が、目に涙を浮かべて口を腕でグシグシと拭いている。

 なんだその失礼なリアクション! お前が無理やり奪ってったんだろうが! 返して! 俺の大事なファーストキスを返して!


「ふぇ」


 ふぇ?


「ふぇえええええんっ! 妾の大事な大事な初めての接吻がっ! 相手を選べない立場だけど美男子な王子に奪われる予定だったのにぃ! こんなふっつうのモテなさそうな奴なんてあんまりだぁあああああ!」


「は、はああああああぁああああああ!? 何言ってんのお前!? 俺の方が嫌なんだけど!? むしろ俺が泣く立場なんですけど!?」


 て言うかお前がして来たことで! お前に必要なことなんだろうが!

 泣くなよ! 泣くなら最初からするなよ! 俺が傷付くだけになっちゃうだろ!

 あと普通にモテないってなんだ! モテるに普通も特別もあるか!


「ぐす、ぐす。帰りたいよぉ。王宮に帰って妾の庭園で美味しいお茶を飲みながら全部無かった事にしたいよぉ」


 あーもう! ほんとムカつくなこのチビ!



「良いからほら早くアイツなんとかしろよ! そろそろ死人が出るぞ!」


「そ、そうだ! 全部あのウスノロデク人形が悪いんだ! おのれ砂巨人サンドゴーレムぅ! 妾の少女だったあの頃を返せぇ!」


 返せも何も、ものすごいスピードで大人の階段昇ったのお前なんだけどなシンデレラ! 人を巻き添えにして!


「とう!」


 大きな翼を一回はためかせて、涙目のチビは大声を上げる。

 そのまま更に急上昇。


「わっ! 馬鹿落ちる! 落ちるって!」


 お前ここ上空何メートルだと思ってんの!?


「うるさい! さっきから妾の魅惑のバストを思いっきり鷲掴みしてるくせに! 死んでも本望でしょ! 満足でしょ!」


 本望な訳あるかっ! 満足とかする訳ないだろ!


「何が魅惑だこの洗濯板! バストだかベストキッドだか知らんがどこ触ってんのかわからん体してる癖に!」


「んだとぉもう一度言ってみろ! それがお前の断末魔だ!」


 なにその台詞カッコイイ!


「あとベストキッドって何さ!」


 名作映画だ!


『目標を補足。再度迎撃体制を取ります』


「わぁああ!! 来たぞロリ魔王! 早くしろよ!」


「なんか知らんけどロリって言うのやめろ! その言葉嫌な響きがするから!」


 ロリはロリだろ鏡見ろ鏡!


「くそう! 全部お前のせいだ! こんな異世界までしつこく追って来て! 怖かったんだからなぁ! すっごいすっごい怖かったんだからなぁ!」


 苦い思い出トラウマを刺激された涙目の銀髪褐色ロリが翼を大きく広げ、両手を前に突き出す。


「南天より来たれり忿怒の業火! 北天より迫りし絶望の氷雨! 成して混ざりし天空の怒り!」


 お、おお!? なにその厨二全開な口上! 素直にカッケェ!


「めんどいから省略ぅ! 喰らえぇい!」


 省略すんなよ大事な部分だろそれ!


黙示録の剣セイバー・カタストロフ!!」


 あ、めっちゃ呪文の続きが気になる! 省略された部分がなんだったのか興味が尽きません!


「あれ? この呪文で良かったんだっけ?」


「お前本当いい加減にしろよ!?」


 適当にもほどがあるだろ!


『高濃度の魔素を検出。脅威度最大。防御体制を取ります』


 ザラザラ巨人が両腕を交差して身体を守る。


「あ、合ってたみたい。やった! 初成功!」


「へ? 初?」


「うん。一回しか使った事ないし、そん時は失敗しちゃったの。それ以来みんなに使っちゃダメって怒られちゃって。ほら、妾って天才だけど、間違う事は誰だってあるでしょ?」


 このロリっ子。痛い目みないと学習しないタイプの馬鹿だな?


「んじゃ呪文省略なんかすんな!」


「だ、大丈夫だって! ほら上」


「上?」


 俺達の頭上に、天空を貫く程の巨大な剣。

 その剣から発せらる何かで空がき、大地が震え、ちっさい川が割れる。


 豪華で禍々しい誂えのその剣が、地上の砂巨人サンドゴーレム目掛けて猛スピードで落下して行った。




 俺達の鼻先を掠めて。




『防御体制を強化ーーーーーーあ、これムリ』


 それが、彼の最後の言葉だった。




 轟く爆音。抉れる大地。割れるコンクリート。

 ひっくり返る二トントラック。

 ぐわんぐわんと揺れるのは、遠くに見える川を跨いだ大橋。


 俺の足元で人々が紙のように吹き飛んでいく。あ、あれ死んだだろ絶対。


「ふぇ」


 ふぇ?


「ふぇええええええっ! こわ、怖かったぁあああ! 鼻の先っぽ怪我してない!? 妾のお鼻ちゃんと付いてる!?」


「怖かったのは俺じゃボケェ! なんでこんな近くに落とすんだお前アホか!」


 一瞬死を覚悟しちゃっただろうが! 走馬灯っぽい何かを上映しちゃったじゃんか!


 幼稚園の時に女の先生に本気カンチョーをして緊急搬送させたこととか、小学校の頃に女子の気を惹きたくて全裸でプールに飛び込んだ事とか、中学卒業の時にV系ロックバンドの格好をしてアホ四人組でエア演奏した時の事が一瞬の内に脳裏を通りすぎて行ったんだぞ!?


 あれ? 俺の走馬灯って黒歴史オンリー?


「そ、そんなこと言ったって! 砂巨人サンドゴーレムすぐ下に居たんだもん! ちゃんと呪文言ってたら落とすんじゃなくて操れたんだもん!」


「自業自得じゃねぇか!」


 ゆっくりと降下を始めたロリ魔王のこめかみを両拳で挟み、きりもみさせながらゆっくりめり込ませて行く。。


「い、痛い! イタタタっ! 何これすっごい痛い! 妾、初体験! って痛い痛い痛い! やめてぇ!」


「痛いか! 痛いだろう! だが俺の拳はもっと痛いんだ!」


「そ、そうなの!?」


「嘘だ!」


 痛い訳なかろう!


「ふぇええええんっ! 妾何も悪くないのにぃ!」


「お前それ本気で言ってんの!?」




 12月24日 クリスマスイブ。


 東京のとある街で起きたこの事件は、大きな注目を浴びる事になる。


 空飛ぶ幼女。

 それを追う砂の巨人。

 突如大地に突き刺さった巨大な剣。


 何よりも話題となったのは二つ。


 一つは多少の怪我人が出たものの死亡者が出なかった事。


 そして東京タワー、東京スカイツリーに続く第3のタワー。


 東京ソードタワーというランドマークが出来た事だ。




 その全てが、俺の両拳でこめかみを潰されているこの銀髪褐色ロリ。


 自称、異世界の魔王さまが原因なのは誰も知らない。


「痛いか! 痛いならやり返してみろ!」


「ぐ、ぐぬぬっ! もう魔力が空っぽなのぉ! ふぇええええええんえっ!」


 魔王のくせに涙目の似合うロリであった。

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