鉄人ファフニール

大地

プロローグ

 19世紀のイギリス・ロンドンの人々の間には奇怪な事件の噂でもちきりだった。


 事件内容は強盗と、それに伴う殺人。それだけならばごくありふれた事件だが、これが単なるありふれた盗みではないことを多くの人が語っていた。


 ある子供は自分よりも何倍も大きな大男だったと言った。

 ある浮浪者は腕が長かったと言った。

 ある貴婦人は乗っていた馬車を一殴りで粉々に砕かれたと言った。


 一見バラバラに見える目撃証言の中で共通しているのは、犯人は普通の人間よりも大きく、体から常に煙を吹き出しているところ、そして目当ての物、主に宝石や、蒸気エンジンの補修や交換に使われるパーツ、エンジンそのものを盗み出すと、眩いばかりの光を放って消えてしまうという点だった。



 今夜もまた、霧の都ロンドンにそれは現れた。

 夜霧に紛れ、街を闊歩するその姿に、浮浪者は腰を抜かし、窓から見ていた人々は息をのんだ。

 今日のお目当ては宝石店のショーケースに入ったダイヤモンド。通報を受けて駆け付けた警官隊の銃撃をものともせず、逆に警官隊を蹴散らし、パトカーをひっくり返して強引に道を開かせ、その太い両腕でガラスを打ちこわし、まんまとお目当てのものを入手し、姿を消したのだった。


 警察の必死の操作にもかかわらず、それの行方や目的は何一つ解らないまま時間だけが過ぎていった。 

  

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