十一 骨折り損。
あらすじ。
前回、
程なく目的地である、暗黒島と書いてハーレム島と呼ぶ黒龍の棲家に着いたカリン達を待っていたのは、まさにハーレムと呼ぶに相応しい蠱惑的な女性達。シルビアやお店のマスターは、彼女達に翻弄されつつも辛くも攻略に成功し、カリン達は次のステージに進む事に成功しました。
しかし、事はスンナリとはいかないもので、次の試練がカリン達に襲いかかります。テラ散らかっている黒龍の部屋。その何処かに
「全く、なんてお方だ。これだから人間って奴は……」
カリンの『全てを薙ぎ払え』発言に黒龍はブツクサ文句を言いますが、そもそもカリンは人間ではなくフェリング。妖精の部類に入ります。
「とっとと手を動かすでち。でないと本当に実行するでちよ」
「はいはい。分かってますよ。あ、手といえば、気をつけて下さいね。結構刃物とかも落ちているので」
「刃物?」
「ええ、エクス何ちゃらとかレバ何ちゃらとか、色々です」
「おいおい。それってエクスカリバーとかか?! 伝説の武器じゃねーか」
人ン
「えっと……黒龍さん」
「はい。何でしょうか?」
「あの、その……もしシャワーなどあれば、お借りしたのですが……」
片付けのペースが上がったお店のマスターをよそに、エリザ王女がモジモジしながら黒龍に訪ねました。王女は高所恐怖症で、黒龍の背に乗っている時も白目を剥きながら瞑想していました。その瞑想中に出ちゃったモノが未だに乾かず、絶対領域の中の布が湿ったままなので王女には不快なようです。
「一応ありますが、もし良ければ私が舐めて差し上げましょうか? 私の唾液には汚れを落とす効果がありますから」
「い、いえ。それは遠慮します」
どうやら黒龍の唾液には、洗剤や重曹に似た成分が含まれているようです。
「そうですか? 島の女性達は身を震わせて喜んでくれますよ」
それは恐らく……いえ、疑いなく別な悦びでしょう。
「シャワーの方が良いです」
デロン。と、出された舌を見て、エリザ王女は一歩身を引きました。壁を這っていた虫も、この舌でカメレオンの様に伸ばして捕獲、捕食していたのです。そして、この舌で島の女性達が、全身もれなくねぶり責めされている姿を想像してしまったお店のマスターは、何事もなかったフリをしていました。片付けで中腰になっていたのが幸いしたようです。
「
「あ。有難う御座います。それではお借りします」
「後で私も行きますから」
「「行かんでいいから手を動かせ「でち」」
カリンとミュウの突っ込みが見事なハーモニーを奏で、一同が再び作業をしようとした時でした。
「キャーッ!」
バスルームの中から絹を裂いたような悲鳴が一同の耳に届きました。一番手に駆け付けたのはお店のマスター。彼は王女の入浴シーンに聞き耳を立てようと、誰にも悟られない様に少しづつ
「どうちたんでちか!?」
「あ……カリンさん。見てくださいよコレ……」
そう言ってエリザ王女は、珍入者によって大事な部分を隠していた手を退けます。そこにはたわわに実った立派な夕張メロンが二つありました。
「なんでちか。自慢でちか? デカイのを見せつけるプレイでちか?」
「ちちち違います! 何ですか見せつけプレイって?! ソコじゃなくて身体の方です!」
エリザ王女に言われてよくよく見れば、柔らかそうな肌にクッキリと縄の跡が残っていました。しかも、見事な亀甲縛りの跡だったのです。
「……エリザ。SMプレイも大概にした方が良いでちよ。折角のキレイな肌が台無しでち」
「そうじゃなくて! 誰が私を縛ったのですか?! って聞いているのですっ!」
カリンの視線から、エリザ王女は誰が犯人なのかを特定しました。縛ったのはお店のマスター。黒龍が島に着陸する時に、危険だからと王女を黒龍の角に括り付けていたのです。彼の優しさがそうさせたのですが、流石に亀甲縛りはやり過ぎたようでした。しかし、咄嗟にそんな事が出来るお店のマスターも只者ではありません。
ぺちぺち。
「あっ、ダメソコ」
小さな手の平がお店のマスターの頬を叩いた時、彼の口から飛び出した寝言に一同はドン引きしました。しかしながら、このままにしておく訳にはいきませんので、カリンは嫌そうな顔で周囲に訴え掛けながらもう一度頬を叩きます。
ぺちぺち。
「だからぁ、ソコはダメだってぇ」
思った通り、ニヤケヅラしたおっさんがそんな事を言っても色気は全くありませんでした。そして、頬を叩く音がペチペチ。から、パシーン! に変わるまでそう時間は掛かりませんでした。測ってはいませんでしたが、恐らく二秒程度でしょう。
「…………痛いプレイは好きじゃないから、もっと優しくして?」
「て、手強いですね」
呆れて物言う黒龍に一同は頷きます。
「仕方ないでち。ここに置いておいても邪魔なだけでち。ミュウ、外へ放り投げてくるでちよ」
「
ミュウはヒョイ。と、お店のマスターの襟首を掴み、ズルズルズル。と、引き摺って行きます。ミュウはエンシェントドラゴンですので力持ちなのです。一方で、ポイ捨てされたお店のマスターは、草の上をカーリングの
お店のマスターを投棄したその帰りに、スッキリした表情でバスルームから出てきたエリザ王女とバッタリと出くわしたミュウ。ホカホカで頬がほんのりと赤みがさした、世の男性方がグッとくるその肢体を、濡れた髪からつま先まで視線を往復させます。
「な、何ですか? ジロジロ見て」
「エロイな」
「な……」
ただそれが言いたかっただけの様でした。
エリザ王女が加わり一同は黙々と作業を進めて、陽が落ちる頃にはテラ散らかっていた部屋もようやく人並みの住める空間となりました。
「ふう。雑巾掛け終了っと」
「お疲れでち」
床をセッセと拭き掃除していたシルビアにカリンは労をねぎらいます。お屋敷でのメイド技能がこんな所で役に立ったようです。
「いやぁ、有難う御座います。こんなにスッキリ片付いたのは何百年振りでしょうか?」
「ン百年!?」
黒龍の言葉にシルビアが驚いた表情をしましたが、龍の時間感覚を人と一緒にしてはいけません。
「それで?
「ええっと……ホラアソコに」
黒龍の指差す方向には、台座が置かれているだけで何もありませんでした。
「……あれ? どこかに落ちたのでしょうか?」
「……ねぇ。私、それちょっと前に聞いた気がするんだけど……」
「デジャビュ。って思いたい所ですが、
「無いんでちよ」
今度は散らかってませんので、
「仲間だな」
「…………嫌だぁぁぁ!」
黒龍の咆哮が部屋中に響き渡ったのでした。
「絶対何処かにあるはずです!」
片付けた物をひっくり返そうとする黒龍をミュウが背後から抑えつけます。尚も抵抗を続ける黒龍ですが、その意図は別なモノに変わっていました。密着したミュウの胸部を堪能し始めたのです。
「盗られた。と、思うべきでちね」
「あの中から持ち出すなんて、信じられませんわ」
片付けに夢中になって、誰しもが途中で気付かなかった方のが信じられません。部屋がテラ散らかっていた時には、誰かが通った様な跡は残されていませんでした。ほぼミッションインポッシブルな状況下。それで事を成したのですから、相手はイーサン・◯ント並みの行動力を持っていた様です。
「ただ部屋を片付けただけでちたね」
徒労に終わったという事実は、一同の精神にクるものがあります。深い、それは深いため息をカリン達は吐き出しました。
「どうします?」
「どうもこうもないでちよ。残りは青龍と白龍でちね」
「ここまでやられていたのですから、青龍の方もダメかもしれません」
エリザ王女の言う通り、陸から遠く離れた孤島にまで魔の手が伸びていたのですから、棲家が陸に近い青龍の
「全く、大事な物なのに管理が甘いでちね」
「「すすすすみませんでしたぁっ!」」
心の臓を抉る様なカリンの言葉に、黄と黒の龍達は見事な、それは見事な土下座を披露してくれたのでした。
「あれ?」
今後の行く先を協議する為、街の宿屋に向かおうと黒龍の棲家を出た一行。外に出てすぐにミュウが素っ頓狂な声を上げました。
「どうちたんでちか?」
「いやその。お店のマスターが居なくなってる。と、思いまして」
ミュウが指差す方向には大きな岩があって、ミュウのサポートによってお店のマスターがヘディングシュートを試みた跡があったので、ソコに居た事は間違いなさそうです。
「狸寝入りだったのでしょうか?」
「いや、それは無い」
王女の言葉にミュウは断言します。例え王女の
「引き摺った跡があるでちから、誰かが連れ去ったようでちね」
微かに残るその跡は、街の方へと続いている様でした。
「まさか、魔王崇拝者が……?」
一同に緊張が走ります。
「とにかく、この跡を追うでち」
カリンが先導して引き摺られた跡を辿ります。その跡は街の中のとある一軒家で途絶えていました。
「開けるでちよ」
ドアノブに手を掛け、カリンは皆の顔を見渡します。ゴクリ。とした、緊張が周囲に伝わりました。皆の頷きを確認したカリンは、勢い良くドアを開け内部に雪崩れ込みます。
「こ、これはっ!」
思わず声を上げたエリザ王女。彼女が見たモノとは?!
「九十四のルーサさん!? それに八十三のユナさんまで?!」
胸部の数値を口に出す必要があるかは甚だ疑問として、グッタリとして床に這い蹲る二人の女性。胸部が上下している所を見ると息はしている様ですが、二人共に疲労困憊状態。しかも、その顔や腕や太もも、衣服にまでナニカ白いモノがベットリと付いているのが見て取れます。
「何だ? この白濁とした粘液は……?」
黒龍がソレを指で摘むと、ヌチョリ。と、した音と共に糸を引きました。
「ん? おお、カリンちゃん達。片付けは終わったのかい?」
騒ぎを聞きつけて、奥からひょっこり顔を出したのは、行方不明のお店のマスターでした。
「……マスター。アンタこの娘達とヤったでちね」
「
「最っ低」
「どうして私も呼んでくれなかったのですか!?」
黒龍の言葉にミュウの拳が唸ります。上から下へと頭を打ち抜かれ、黒龍は床に這い蹲りました。そして、皆から白い目を向けられているお店のマスターは、慌てふためきます。
「ちょちょちょ待ってくれよカリンちゃん達! ここここれは違うんだって!」
「その動揺が何よりの証拠ですわ」
名探偵エリザ王女の迷推理が再び始まりました。指で自らの顎をリズミカルに叩きながら、王女はその辺をウロつき始めます。
他人の部屋の片付けに辟易としたお店のマスターは、部屋から抜け出して街で美女達と遊ぼうと思い付きました。そしてまんまと成功を収めたお店のマスターは、目に止まった九十四のルーサを誘い、ついでに八十三のユナも誘ってお楽しみ会と相成った。と、いうのが王女の推理です。彼女は自身の裸に関する部分を隠蔽して話したのでした。
「ひ、姫さんソレは誤解だ!」
「何を言ってますの?! ここは五階では無く一階でしてよ!?」
お前こそ何言ってんだ? と、皆が王女を見つめます。
「第一、このはっ……くだく……とした、たっ、体液が証拠ではありませんか!」
「体液って……姫サン。アンタぁ重大なコトを見逃しちゃあいませんかね」
急に落ち着き払ったお店のマスター。それを見て今度は逆に王女が内心焦り始めました。
「な、何をですか!?」
「確かに、黒龍さんの部屋に居た筈の俺が、何故ここへ運び込まれたのか? その辺の記憶が曖昧だが――」
どうやら、王女の裸などの記録情報は、スッカリと削除された様です。
「――流石なオレでも、ここまで濃いモノは出せない!」
そんな威張って言う程の事ではありません。
「そして、これ程の美女にせがまれて、首を縦に振らない男など居ない!」
コイツ最低だ! この場に居る人達は皆そう思いました。
「……だからオレは教えてヤったんだ。この娘達のカラダにな。……初めは心配だった。こんな華奢な身体つきの女の子が、太くそそり立ったモノを転がしてソレに耐えられるのか? と。しかし! 苦痛の先に悦びが待っているのだと俺は自身を奮い立たせた!」
ゴクリ。静かな室内に、誰かが唾を飲み込んだ音が聞こえた様な気がしました。
「この娘達は良く頑張った。頑張って、頑張り抜いてそして、力尽きた。最後には悦んでいたよ……。だから俺は彼女達に言った。焼き上がるまで休んでいなよ。と!」
『…………は?』
お店のマスターの言葉に、カリン達一行から見事なハーモニーが発せられました。
「マスター。焼き上がるってなんでちか?」
「ん? ワッフルに決まっているだろう? 変な事言うなぁカリンちゃんは」
「身体が耐えられないってのは?」
「シルビアちゃん。材料を練るってのは結構重労働なんだぜ?」
「では、悦んでいた。というのは?」
「ああ、この娘達は自分の手作りワッフルを黒龍さんに食べさせたいんだとよ。必死になってせがむ彼女達の熱意に、俺は負けたのさ。だけど、まさか倒れているとは思わなかった。気付かなくてすまねぇ、ルーサちゃんにユナちゃん」
「言われてみれば……コレってお菓子の生地ですか」
黒龍は摘んでいる白濁とした粘液をニチャニチャ。と、指で弄びます。こうして、王女の
夜の帳も降り、自らのお腹も膨らませた一行は、そこそこ賑やかな(ただし、周りはみんな女の子です)宿屋兼食堂で今後の対策に入りました。
「さて、結果的に
カリンは殊更『も』を強調します。その際ミュウの身体がビクンッ。と、跳ね上がります。世界にとって大事な物を何する訳もなく持っていかれた事は、許されるべき事ではないのです。
「――残りは、青龍と白龍のモノ『だけ』になりまちた」
赤龍の
「青龍の居場所はみんな知っての通りでちが、白龍の居場所は……ミュウ」
「はい。白龍は我等
ミュウがバッと広げた世界地図。ツツツと指し示すミュウの指を皆の目が追います。そして、ピタリ。と止められたその場所に、皆の驚きは隠せませんでした。
「――ここです」
「おいおいマジかこりゃぁ」
「何ですって!?」
「どこ? ここ」
「北方大陸、
北方大陸
「えっ!? ここって寒いの?!」
説明を聞いたシルビアは、自分を抱きしめてブルッと身体を震わせました。
「私、寒いと朝とか苦手なんだけど……」
記憶によれば、寒くなくとも起きて来れない低血圧な筈です。
「いや、シルビアちゃん。ここで寝たら死ぬぞ」
寝たら朝には立派な氷像が出来上がっている事でしょう。
「カリンさん。ここならば確認しに行くのは不要ではないですか? 彼の地は前人未踏の未開の地。加えて、寒さと強風で白龍の元まで辿り着けるとは到底思えないのですが」
「そう思いたい所でちが、奴等には
「あ、そうでした」
赤龍の能力を使えば、寒さなんておさらば出来ます。その恩恵を受けられないカリン達の方が問題でした。
「大丈夫じゃないですか?」
そこに黒龍が口を挟みます。
「どういう事でち?」
「黄龍がその男の。そして私が彼女達を肉布団にすればふぉっ!」
「オマエは黙っていろ!」
即座にミュウの拳が黒龍の頭を打ち抜きました。各々を肉布団にした所で寒さ対策にはなりません。
「肉布団か……」
お店のマスターの呟きは、皆との距離を一歩遠ざけたのでした。
「……あ。そうだ。これならどうです?」
頭におっきなたんこぶを乗せた黒龍。ミュウに頭を打ち抜かれて何かを思い出した様です。
「私も噂でしか聞いた事が無いのですが、如何なる寒さをも弾き返す道具が有るとか無いとか」
それは、どんな凍てつく波動でも弾き返す事が出来る効果を持った、ラスボス戦に有ったら嬉しい代物なのだそうです。
「そういえば私も聞いた事があるな。しかし、それは神話級のシロモノだぞ? 今も残っているかどうか分からん」
「知っている者に聞いてみるしか無さそうでちね。で、誰でちか? それを知っている人は?」
カリンの言葉に、ミュウと黒龍の顔が青ざめます。
「「古龍帝様です」」
ゲンナリした表情で、黄と黒。二人の龍の声が揃ったのでした。
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