今日、世界で一番美味いビール

カゲトモ

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「じゃーん!」

「俺たち、結婚しましたぁ!」

「え、お、わ」

 口に含んでいたビールを一先ずごくん、と飲みこんで目をぱちくり。

「おめでとぉ!」

「「ありがとう!!」」

 ぴったりと声の揃った目の前の二人は満面の笑み。二人の顔の横に揃えられた左手にはキラリと輝く細いシルバーのリングがある。

「やっと結婚したのねぇ」

「なー、もう六年になるんじゃなかったっけ?」

「よく覚えてんなぁ」

「想太は物覚え良いからね」

「はなちゃんはそれだけが取り柄だもんね?」

「は? ミケの目は節穴か」

「うっさいわね! ま、いいわ。今日はお祝いよ! さっ、もう一回乾杯しましょ」

 テーブルの上には美味そうな料理たち、それから掲げられた四つのビアグラス。

「幸樹と雪彦の結婚を祝って」

「「「「カンパ―イッ!!」」」」

 ゴッゴッ、と喉を通って行くビールが美味くて美味くて。多分きっと、今日世界で一番美味いビールを飲んでいるのは俺たちに違いない。

「「「「っあぁぁぁぁぁ」」」」

「あー美味い」

 いつものビールなのに、今日はやっぱり美味い。

二人の結婚祝いの集まりで訪れていたのは、ミケのお気に入りがいるムギローブだ。今日はイツキ君いないけど。

「ビールが美味いのもそうだけど、本当におめでたいわねぇ」

「はは、ありがと」

「いろいろ大変だったんだって?」

「んー、まぁやらなきゃいけない事はいくつかあったけど、大変とは感じなかったかな。一緒になるためなら仕方ないことだし」

 とはにかみつつ、照れているのを隠すのに頭を掻くのは雪彦の昔からの癖だ。

 雪彦は背が高くてイケメン。今でこそ細マッチョの良いスタイルだが、昔はもっと細くていわゆる“もやし”体型だった。女性からの人気も高かったと思う。

「だな。ちょっと住む場所を変えるとか、必要な書類を集めるとかそんな感じだし。大変だったのは引っ越しくらいかな」

「そうねぇ、この辺もパートナーシップ宣言、やってくれていたら良かったのに」

「仕方ないよ。まだ日本は同性婚を認めてはいないから」

「残念よね」

 パートナーシップ宣言、それは宣言をした同性カップルの関係を自治体が公に認めますよ、という制度だ。簡単に言うと、同性カップルにも男女の夫婦のような権利を認めます、というもの。もちろん法律上婚姻関係を結んではいないから厳密には結婚したわけではないし、法的な権利も制限されるけど“愛を誓い合うパートナー”として公に認められたと言うことだ。それはもう、結婚と言っても過言ではないと思う。

「別に俺は結婚しなくても一緒にいられたら良かったんだけど、どうしても雪彦がしたいって」

「雪彦はロマンチストだもんな」

「でも、幸樹も嬉しかったんでしょ?」

「・・・当たり前じゃん」

 ツン、と唇を尖らせるのは幸樹の癖。雪彦みたいに態度に出さないけど、はにかみながら唇を尖らせるのが照れている時の癖だ。

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