meltdown

マッチョウサギ

第1話 溶け落ちた警戒心

世界が溶ける夢を見た。

人類の創り出した文明は全て一瞬の内に溶け落ち無に帰した。

地球は既に球形を保っておらず殆どが消滅してしまっている。

宇宙空間そのものが曖昧になり時空に穴が空いている。

科学者の予想した人類の滅び、それのどのパターンより凄惨であっけない滅びだった。

時空の穴からは大量の目が覗いている。


人類は、あまりにも脆弱だった。






時は西暦3283年 技術は進歩し、出生時点で2000年代の20台と同等の身体能力、知識を持っていた。否、持たされていた。体外受精が一般的となり、受精後は専用のカプセルで倍速で育てられ、脳が形成された時点で知識や情報を詰め込む。その仕組みができた時には多数の反発があったがそれも百年も前の話。今では当たり前となっている。

寿命は2倍ほどに伸び、人口は一定値を保つように、優秀な人材の遺伝子のみを繁殖させる。効率だけを追い求めた人道も糞もない生殖。そうして出来上がった社会は哲学や神話など文学的なものが一切排斥され、科学や化学、生物学、理化学的なものしか残らなかった。親と子と言う概念は既になく、創り出された子供たちは生後すぐに高等教育を受け始め、1年でその過程を修了し、自らの研究に入る。研究で優良な成果を残したものは延命の権利を得る。体はそのままというわけにはいかないが、中身をそのまま次の体に引き継ぐことが可能である。そうして出来上がった超高度科学社会には国という概念は既になく、最も多くの表現が可能と言われる日本語を標準語とした「人類連盟」が出来上がった。人類連盟は20年に1度、人類存続に最も効果のある研究成果を残した研究者を上から12名選び幹部とする。その選ばれた幹部でこれからの人類の方向性を決め、研究資金や人材の分配を行う。高度に発達した科学性は他分野についての理解を浅くするという事も、発表された研究内容は全て、人類共有で脳にインプットされる事により解決した。

そんな世界で自分の研究に励む少年たちの話である。



「生体No.A5986 これから、計画:銀の鍵についての発表を始めます。」

いくら時代が発展しても発表の形式は昔と変わらず講堂で発表する形式をとる。

「まずこの計画は宇宙空間に穴を開けることを目的とした計画です。穴を開けると言ってもワームホールとかそういう事ではなく、文字通り空間に穴を開け、そこに生じる次元差をエネルギーとして取り出そうというものです。」

宇宙空間に穴を開けワームホールを作り出すという考えは何度も議論されていたが、物理的に不可能だということで結論がついた。それは愚か、空間に穴が開く、ということ自体が次元を跨ぐ行為であり物質界のものでは不可能とされている。

「まあ、そりゃあそんな顔しますよね。普通不可能ですから。ですが皆さん、それに限りなく近づく方法はご存知ですよね?そう、ブラックホール」

アインシュタインの一般相対性理論にこんなものがある。

「重さとは空間の歪みである」

ピンと貼った一枚の布を空間と見立てボールを星とする。軽いボールと重いボールを置く、当然重いボールの方が深く沈み込む、深く沈みこんだ布は傾斜を持ち周りのものをそこに引きずり込む。それこそが重力の正体である。

「しかし、ただのブラックホール如きでは空間に穴は開きません。それは銀河系のバルジにある超大質量ブラックホールクラスでもです。ですがそれは大きさが大きさ、密度にするとほかのブラックホールと変わりません。ではあの大質量をもっと小さく押し込めたら?具体的には素粒子くらいまで」

ブラックホールは密度が無限大、のイメージがあるがそうではない。脱出速度が光の速度を超えたらブラックホールになるだけで別に穴でもなんでもなければ表面もある。極論ではあるが、脱出速度秒速30万kmになりうる密度でその質量に耐えられる物質があれば、潰れないブラックホールができるわけである。

「一般相対性理論に則ってブラックホールの特異点を考えると、密度が無限大になると宇宙すべてが一瞬で飲み込まれてしまうことになってしまいます。」

それでは次元に穴もクソもないじゃないかと疑問符を浮かべる傍聴者たち

「また、重力波のみが四次元空間に干渉できるという研究結果もあります。時間や空間は伸び縮みするという理論ですね。今回はそれを利用します。宇宙空間にはダークマターとダークエネルギーが満ちています。今回発見したのは宇宙空間はペットボトルレベルの強度しかないということです」

????とさらに疑問符を浮かべる傍聴者たち

「宇宙空間を膨張させ続けているダークマターとダークエネルギーが突然一部分、完全に無くなったらどうなると思うでしょうか?」

幾人かの傍聴者が気づき始める

「そう、空間に亀裂が入ります。ダークマターは宇宙空間に均一に広がっていますが10万分の1程度の揺らぎがあるとされ、それを観測した結果、ダークマターの少ない場所の方が空間密度、つまりは空間強度が低かったのです。でもどうやって完全になくすかって?それを解決させるのがブラックホールです。」

傍聴者は徐々に気づき初めて感嘆の声を上げるものも出てきた

「粒子加速器を宇宙空間に建設し、微小なブラックホールを生成、周りを完全剛体で囲み、エネルギーとマターを消失させるそれにより空間断層を作り出し次元の壁を破ろうという理論です。以上で発表を終わります。」

この発表はまたたく間に世界中に知れ渡り、多数の出資者が出た、しかし危険性を示唆する者も出た。当然だ、空間に穴を開けるのだから。しかし、太陽系外で行うという事で結論がついた。この理論がエネルギーではなく外なる神を呼ぶ為のものとはいざ知らず…

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