第4話 接触力

物理の授業があった放課後は、例外なくミオとの学習会が開かれた。


「そうそう、今日教わった式も、数学の公式みたいに使うの」

「ハイ」

「その公式の導き方を丁寧にやってたけど、アレ、覚えなくていいからね」

「ハイ、わかりました」

「ほんとかなぁ」


ミオはシャーペンを置いた。


「ねぇ、いま静電気力をやってるけど、それは目に見えないわけ?

力は力だよ」

「!……」


レイは両人差し指を合わせた。

目にはベクトルの感覚質が現れる。


「俺が見られるのは、接触力だけだ

ただし垂直抗力は除く」

「ふうん、場の力は見えないんだ」


ミオは再びシャーペンを持ち、ノートに絵を描いた。

棒人間が壁を押すイラストだった。


「こーゆー絵とか、動画とか写真はどうなの?」


レイにはその棒人間の手から矢印が生まれるのを見た。


「絵でもなんとなく見える

ただ、どんなときも大きさだけははっきり決まらない」

「中途半端ね……」


「『ここにこれくらいの力がある』って分かっていたら、はっきり見える

相対的な力がだな」

「力らしさが重要なのね」


ミオは机の下で足を伸ばした。


「きっと、意識の問題なのよ」

「?」

「レイは力のことを、よく分かってない」

「……まあ」


ミオは消しゴムを親指と人差し指でつまんでみせた。


「今この消しゴムは、私の二つの指からの鉛直上向きの摩擦力によって静止している

見える?」

「うん」


「いい?

静止しているのよ

だったら、これとつりあう力がはたらいているはず

だって、それが無かったら消しゴムは鉛直上向きに、飛んでいってしまうもの」

「……」

「そのつりあいの力こそが、重力

物体の中心から、鉛直下向きにはたらいていて……」

「ふむ……」

「2力の摩擦力を足した長さになるはずだけど……」


「みえた!」

「ほんと?!」


レイの目には重力の感覚質の矢印が生じた。


「おお?!机の重力もみえる!」

「?!」

「俺の重力も!」


レイはミオの肩を掴んだ。


「ミオ立てよ、お前何kg?

俺62kgだけど」

「は?!言うわけないでしょ」


「うわ!抗力も見える!」

「……」

「すっげー、一面の矢印!」

「……」


「ミオありがとうな

意識の問題だったみたいだわ!」

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