第1話暗中模索
僕、
なんて出だしから始まると、あまりにも有り触れ過ぎていて面白くないが、事実なのだからどうかお目溢しをお願いする。
更には今日から、部活動勧誘週間で部活巡りをするなんて言った日には、学園物の漫画を読めば、二冊に一冊くらいの頻度で見つかりそうな展開だから手がつけられない。
でもそんな有り触れた展開でも、いざやってみる側からすればワクワクするもので、僕は期待に胸が第二次成長期だった。
放課後になり、いよいよ部活動を見学する時間帯になると、教室の外から生徒たちの騒がしい声が聞こえてくる。
おそらく先輩たちが、一人でも多く新入生を獲得しようと、呼び込みの準備をしている音だと思う。
我が
それ故に、部費の交渉材料の一つとして部員数はかなり重要となってくるので、毎年新入生獲得競争は熾烈を極めるのだという。
まぁ、全部、今この学校で二年生やってる、中学の先輩の受け売りなんだけどね。
何はともあれ僕も早く部活動を探しに行かないといけない。
この時期を逃して入部すると、既に人間関係ができてしまっている部活で疎外感を味わうことになる。
どこの世界も異物排除には積極的である。
部活を選ぶ際、参考になってくるのは中学で何の部活をやっていたかなのだが、僕の場合、中学ではスポーツ系の部活をやっていたが、高校までそれを続けるほどのめり込んでいたわけでもないので除外である。
となると他には、元から興味があったものや趣味を生かした部活だが、これも全く何もないというわけではないのだが、ここでそれ一つさっさと決めてしまう程、視野を狭くしてはまっているわけでもないのである。
つまり、完全に受け身の体制で部活の紹介や雰囲気で決めようと思っている。
しかし、これは一歩間違えば、結局決まらずに帰宅部コースになってもおかしくないので、早め早めに行動していく必要があるのだ。
僕は帰り支度を済ませ、鞄を持ったまま見て周るのも面倒だと思い、自分の机に鞄を置いて、いざ部活動見学へと教室の後ろの方の扉へ手を伸ばすと、聞き慣れた声に呼び止められた。
「ちょっと、ちょっとビックリ箱! 部活見学なら私も周るってば!」
声のする方を振り返ると、小さい頃から近所が近く小中高と同じになってしまった
「そのビックリ箱っての止めろって言ってるだろ」
「何言ってんの、あんたの名前、反対から読めば驚箱って読めるじゃない。つまりビックリ箱でしょ?」
その口頭では微妙に伝わりにくいあだ名を言われ、もう幼い頃から何度やったかもわからない返しをする。
「敬と馬を一つにして驚くと読むな。あと笹はどこにいった?」
そう言われると彼女は大体、
「うん? 笹でできた箱なんじゃない?」
と適当に返す
「なんで、ディティールそんなに甘々なんだよ。名が体を表してるぞ」
とまぁ、こんな感じの間柄だと言えばわかってもらえるだろうか?
いや、大抵わかんないな。僕が説明される側の立場だとしても、「はっ? 何? 幼馴染自慢?」とか思うかもしれない。
確かに伊勢は、身長こそないものの、胸もそんなにないものの、頭もそんなによくないものの、意外とコミュ障なものの、嘘も平気でつくものの、力は強いのに運動神経はイマイチなものの、容姿にはそこそこ恵まれている。
……そろそろ、容姿ぐらいじゃ挽回できないんじゃない? ものの。
「……今、あんたすごく失礼なこと考えてない?」
何こいつ? 人の考え読めるの? よかったじゃん、長所もう一つ見つかって。
「そんな馬鹿な。ものの」
「ものの?」
しまった。つい口から思考が洩れた。純粋無垢な偽ることを知らない心を持った、僕の悪い癖だ。
「まっ、いっか。早く見に行くよ」
伊勢は、どうやら諦めてくれたらしく僕に先を促すかのように教室を出て、顎でクイッと勧誘合戦をやっている正門側を指す。……男前という長所を加えてもいいかもしれん。
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