第18話変態はいつも突然に
僕は今、伊勢に精神的傷をえぐられ傷心中であった。
だから、できるだけ人に会いたくないので、今日はもう部活をサボってしまおうと思っていたのだ。
しかし、習慣とは悲しいもので、入学してから間もない僕の数少ない行動パターンの一つである放課後の栄華部直行が起動してしまい、少し昨日の読み掛けの漫画の続きが気になっていたことも手伝い、気付けば僕のポンコツな足は映画部の部室の前まで来ていた。
だが、繰り返そう。
僕は今傷心中なのだ。
できるだけ人に会いたくないのだ。
部室の前まで来てしまい、昨日の続きの漫画を読むからには、最低でも深会先輩に会う事までは覚悟していた。
…………だが、しかし、今部室の前にいる
エンカウントを回避しようにも、三星さんは部室の扉のまん前に立っているのだ、難易度はトリプルエスである。
取り敢えず様子見をと思って、少し離れたところの物陰から見ていたが、どうやら部室のドアがセキュリティー強化されたことにより、中に入れなくて困っているようだ。
インターホンを押して中から、深会先輩に開けてもらえばいいと思うけど、なかなかそうしようとしない。
非常に気が進まないが、こうしていても埒が明かないので、三星さんに声を掛けることにした。
三星さんの背後まで言って、肩を易しめに叩く。
「あの、ドアの隣についてるインターホンを押したら、中から開けてくれると思いますよ」
すると、外見だけは綺麗な三星さんが、年上美女のように髪を少しなびかせながら、こちらを振り向くと
「私を叩くときは、もっと強くお願いします‼」
「何、言ってんだ、アンタ‼」
案の定これですよ。
「あっ、なんだ敬馬くんじゃないッスか。知らない人かと思って遠慮しちゃったッス。敬馬くん、サンダーファイヤーパワーボム掛けてみてくれません?」
「そんな子供の考えたみたいな技の掛け方なんて、僕は知りませんし、三星さんは、人との親密度によって要求する技が変わってくるんですか?」
「そりゃあ、そうッスよ」
そんな満面の笑みで言われても、困るんですけど。
初対面の時は四の字だったのに、ずいぶん距離感埋まってない?
こんなに仲良くしたくない人初めてだよ。
ちなみに後日、調べたら本当にありましたサンダーファイヤーボム。動画を見たけど、普通の人が学校の廊下なんかでしようものなら、掛けた方も掛けられた方も死ぬんじゃないかと思う程激しかったです。
三星さんのペースで話していたら、いつまでたっても本題に入れないので、僕は最初の問いに話題を戻した。
「で、とにかくインターホンを押せば入れてくれますよ」
先ほどは無視されて話が変わってしまったが、今回は片手で頭の後ろを掻きながら照れくさそうに三星さんが反応した。
「いや、勿論最初に試したんッスよ。でも、深会先輩ってば全然反応してくれなくて」
「えっ? それは気になりますね。深会先輩いないのかな?」
「それは、ないはずッス。中から紙をめくる音や足を組み替える音、椅子を引く音にスカートが太ももに触れ合う音とがするッスから」
「最後のどうやって聞いたんだよ‼」
「興味があるならパンツが太ももの付け根と擦れあう音を、聞き分ける方法を伝授してあげてもいいッスよ」
僕は、そんな戯言は後から詳しくご教授賜るとして、そもそも深会先輩が部室の壁は防音性のものだと言っていたから、中の音が聞こえること自体すごいのだが、三星さんは何気に優秀なので、嘘ではないかもしれない。
ただ、優秀さが犯罪者寄りだが
「おかしいですね。僕が押してみましょうか」
即時実行、僕はインターホンを押して見る。
……ピーンポーーン
若干、長押ししてみたが、反応がないかな?
しばらくの空白をはさんで
「…………………はい、餃子の少将です。ご注文は?」
「…………………」
どう考えても深会先輩の声なんですけどね。一応、事情を聴いてみようかな。
「どうしたんですか?」
「……外に呼んでもいない
「いますね。深会先輩が呼んだわけじゃないんですね」
「呼ぶわけないじゃない、あんなの」
日頃から散々都合よく使っておいて、ひどい言い方だ。
しかも僕らの会話を聞いてて三星さん、悲しむどころかニコニコしてる。
「あの、僕、中に入りたいんですけど」
「ごめんなさい。外にゴキブリクラスの害獣がいて、中に入れたくないからドアを開けられないの。笹箱君が、駆除し終わったら呼んでちょうだい」
…………本当に、ひどいな。
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