僕が歌えば、君が来る。先輩視点。

人が多いのがあまり好きでなくて、いつも朝早く来る。


…………なんてのは嘘で、いつもは家が近いから遅刻ギリギリ。ゆっくり寝ていたい。


でも今日いつもと違い朝早い。たまたま目が覚めてしまい、二度寝しようと思っても眠れないから学校に来た。


朝早いと人が少なく、いつも騒がしいイメージの学校はとても静かでなんだか不思議な雰囲気だった。


早く来ても友達が来ているわけでもなく、クラスにも誰もいなくて暇。


部室にでも行ってみようかな。


最近は集まりもないし、練習もないから全然寄り付いていない。


テスト週間だったっていうのもあるんだろうな。


部室に近づくにつれ、だんだん音が聞こえてきた。聞き覚えのある、ギターの音。好きな曲のメロディ。好きな人の声。あいつの歌声。


こっそり覗いてみるとやっぱり後輩で、俺の好きな人だった。相変わらず綺麗な歌声で歌いやがる。悔しいぐらいにいい声で惚れ惚れする。


熱唱してるから気づかれないだろうと思い中に入り、入口付近の椅子に座る。


そして後は、あいつの歌声に耳を傾けた。












--------------------------------------------------------------------------------





パチパチパチパチ


一曲歌い終わったところで拍手をする。


とまぁ案の定俺の方に鋭い目を向けてくるカワイクない後輩ちゃん。



「うるさいと思ったらおまえか遠藤。」


「………………。」



少しだけ憎まれ口を叩く。


後輩の遠藤はやっぱり無言。まぁ、一曲歌い終わって疲れてるんだしそりゃ喋れねーよな。


自分で飲もうと思ってた飲み物をそばまで行き渡す。


辺りを見渡した限り飲み物らしきものは見つからなかったから。


それを無言で受け取り勢い良く飲む。500mlのペットボトルの半分まで一気に飲んだ。


あんだけ本気で歌ってりゃ喉も乾くよな。


なのに飲み物ないって、あほかよ……。

「大分上手くなったな。」


「………………。」



ども、というようなジェスチャーだけする。


そんなに喋りたくないのか……。相当疲れてんのか?なんて、ただ喋りたくないだけだろうな、このものぐさ後輩は。


あと、早く帰れって思ってそう。次の曲すごく歌いたそう。めっちゃ睨まれてる。

でも二人っきりになれることなんてなかなかないから、気づけば思わず言ってた。



「なぁ、俺と付き合ってくんね?」


「ぶふぉっっ」



勢い良く吹き出した、飲み物を。


人がせっかくあげたものを。なんて言ってみる。


……まぁ、俺が悪いんだけどな。タイミングとか考えずに言ったし。


正直勢いで言ってしまったので内心焦ってる。


「げほっげほっ……」


「えっちょ、だいじょうぶか?!」



慌てて横に行き背中を撫でる。少し背骨の浮いた背中。こいつちゃんと飯食ってんのか?なんて思ってしまった。


手をスッと俺の顔の前に出してきて大丈夫とジェスチャーで伝えてくる。


本当に大丈夫そうだな。だいぶ咳も落ち着いてきたみたいだし、本当に大丈夫そうなので手を離し少し離れる。


スッゲー顔真っ赤。いや俺も柄になく真っ赤なんだけどね?


あまりにも遠藤が真っ赤過ぎてこっちまで余計に恥ずかしくなってくる。


でも俺は少しSっけなのでいじめたくなる。(なんて)

で、答えは?」



そういえば答え聞いてなかったなんて思って答えを急かす。


コイツの場合急かさないと無視されそうだし。


少しだけ詰め寄りながら、壁の方へ詰め寄りながら。


遠藤はツンっと横を向いてしまった。耳まで真っ赤。すげー可愛い。あまり髪の長くないこいつ。少し覗く襟足がそそる。



「えー、それはどっち?」

横を向いたままこっちを向いてはくれない。


いろいろ考えてんのかな?無言は肯定と捉えていいのかな?


仕方が無いから耳元で囁いてやる。



「ねぇ…………無言は肯定に取るよ。」



ちらっとこっちを見てきたと思ったらガン見してくる。


え、なに。めっちゃ恥ずかしいんだけど。



「…………なにかな。俺の顔になにかついてる?」



本気でそう思ったけど、よくよく考えれば俺の顔や耳が真っ赤なのが珍しいのね。


基本ポーカーフェイスだから、こんなふうになることなんてないから。


少しだけ首を振る遠藤。なんだか小動物みたいでギャップ萌。





壁まで後少しだったから少し詰め寄り壁に追い込む。


壁ドン状態。


そしてそのまま、




チュッ




軽く唇を重ねる。


抵抗されなかった。



「…………抵抗してくれるかな、嫌なら。」


「い、…………嫌じゃ、ない…………。」



やっと、それだけ聞けた。






恥ずかしかったのか顔を逸らそうとするので慌てて顎を掴んで俺の方を向けさす。


やったのはいいもののすごく恥ずかしい。


けどまぁ、もう後戻りはできない。


すごく綺麗な目。吸い寄せられそうな目だな。



「…………どうなっても知らないよ?」


顎を掴んでいるので肯けない遠藤は一生懸命目で訴えてきた。


なんだよコイツ、スッゲー可愛い。


ふっと思わず顔が緩んで、抱き締めていた。


そしてやっと伝えた。




「好きだよ。」



それに、精一杯答えてくれた。



「…………私も、です。」








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る