所作

皇 将

第1話 エイム

 ジリジリと焼けつく茂みの中。

 俺はスナイパーライフルを構えて腹這いになっている。

 隣には、観測手として望遠鏡を覗いている相棒がいる。同じく腹這いだ。

 偽装網ぎそうもうをお互いに身体全体にかけてあり、日光はある程度遮断されているとは言え、暑い事には変わりない。


 茂みの向こうには、敵の兵士が数人いるという。それを待ち受けている状況という訳だ。


 照準眼鏡スコープの向こうからは、中腰になりながら周辺を警戒している敵兵が出てくる。こちらには気付いていない。


 相棒の観測手も認識したのだろう。軽口を叩きながらこちらに知らせてくる。

「お客さんがおいでなすったぜ。丁重に歓迎しなきゃな」

 もちろん、歓迎は鉛弾で、だ。


「ヘッドショット、エイム」

 声がワントーン下がる。

 合図と共に十字照準レティクルを、先頭の兵士の頭、こちらから見て横顔の耳の所に合わせる。

「…エイム」

 

 ひと呼吸の後、相棒からの合図が飛ぶ。

「ショット」

 軽く人差し指を引く。肩にかかる銃の反動リコイルを感じた直後、照準していた敵兵が力が抜けたかのようにその場に崩れ落ちる。


 敵兵はその事実に驚くと共に、すぐさまその場に伏せる。照準眼鏡スコープからは敵兵の影すら見えなくなる。


「おいどうする? お客さん、チビっちまって動かなくなっちまった」

 相棒の言葉に動揺する事無く、そのまま銃を構えた腹這いの姿勢を維持する。

「落ち着けよベイビー。待つだけさ、蛇のようにな。ここからは根競べだ」


 スナイパーライフルのレバーを引き、撃った薬莢を弾き出して新しい弾を装填、レバーを戻してロックする。


 長い待ち時間になりそうだ。クリスマスに彼女を待つ、彼氏みたいに。

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