WINTER WHITE RAIN(トパァズ シリーズ)
琥珀 燦(こはく あき)
1.
「空がまどろんでいるわ」
愛しい彼女が、カーテンを引く音は、心地良く僕の眠りを引き裂く。糊のきいた白いシーツのいい匂い。古いホテルの行き届いたサービスがうれしい。
頭をちょっとずらすと、よこになったままでも外の景色が見える。柔らかな雨が、港町の朝の風景をセピアに包んでいる。
「・・・おはよう、砂都貴(さつき)。よく眠れた?」
声を出してみても、脳の中がまだぼんやりしている。波が寄せて返すように、夢が体中を漂っている。
「・・・水凪(みなぎ)さん、顔色悪いね。熱あるのかな」
頬を近付け、ミルク・ティー味のバード・キスをくれたあと、彼女・・・砂都貴は、心配そうに言う。冷たい掌が額に心地よい。僕も手を伸ばして、砂都貴の栗色の柔らかな前髪を撫でた。
「大丈夫だよ。ヤな夢を見ちゃっただけ。今日はあまり遠くへは行かないことにしよう」
「もう、この街を出てしまうの?」
砂都貴が溜息混じりに言う。
「離れたくないの? ここを」
「ん・・・なんだか離れがたいの。この街の風景、とても好きなの」
なるほど、ね。この街は彼女の描くパステル画によく似ている。淡色の濃淡で描かれる、柔らかな、あのあたたかい風景に。
「きみがそう思うなら、構わないよ」
どうせ、一日や二日、出発を延ばしたって支障はないさ。はじめから宛てなどない旅だし。
"月の砂漠をはるばると・・・"
彼女の名前のもとになったという、物悲しい旋律の童謡を思い出した。砂漠の都の姫君だと言っても不思議のない美しい砂都貴・・・。お揃いの白いコートを着て、僕達はひっそりと終点のない旅をしている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます