第1章
出張帰りの列車の窓から、月を見ながら思った。星ってのはどうしてみんな球体なんだろう?
…遠心力とかいう力の仕業かな。例えば、表面がごつごつした物だって、長い間回り続ければいつか球になるのかな。
自ら回り続ける物は、安定を求める。やがて、静止しているのか、回転しているのか、一見しただけではわからない、完全な球になる。
球体の大気に守られた、地球という球体、地球の上でこまごまと動き続る、生物たち。何かの気まぐれで、誰かが大気圏を飛び出しても、そこは太陽系という球の世界なのだ。
球体に対して、人は不思議な憧れを持つ。そんなことを考えていると、そういう優しい閉鎖空間なら、悪くないな、なんて思ってしまう。
…うーん、どうも最近丸い物ばかり目につくなぁ。砂都貴(さつき)が見せてくれた、あの本のせい、かな。寂しがりの小さな扇形が、完全な円になるためのパートナーを探して旅をする絵本。…とにかくお陰で、とんでもない衝動買い、してしまったよ。
アタッシュケースの隅の、小箱。ひっそりと眠る、真珠の指輪。…だってさぁ、商談の時間待ちで、何気なく立ち寄ったデパートの1Fの隅でさ、光って見えたんだ、宝石売り場の、たくさんある中の、この真珠だけが、まるで僕を呼ぶように。
…こういう理屈って、女の子みたいだな。僕は情けないような、おかしな気分で、ついクスクス笑ってしまう。よかった、終電直前の列車の中、向かいの席には誰もいない。…でも、この指輪を見たとき、どうしても砂都貴に手渡すことしか思いつかなかったんだ。手渡す、そのイメージ。ほかに、何の意味もなく。
真珠って満月みたいだな。ガラス越しの、半端なかたちの月を見ながら、僕はあの九月の満月を思った。
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