わたしダーガーじゃなかった
おが たかお
理由がわからなかった頃
かつて、激しい衝動がありました。
焦燥もあった。
酷く辛い感覚だったのに今思えば得たいの知れないエネルギーがドンドンと私の胸を打ってきていた気がしてうらやましいのだった。
今描かなくちゃ、何か大切なものを取りこぼすよ。
終わってしまう前に紙にぶつけてね。
興奮していて筆先が震える。
なぜ表現するのか、それが絵にしろ言葉にしろ。
当時の私にはわからなかった。
出来上がった作品は私の個人的感情とは関係なく存在してしまう、丸いフォルムを持った可愛らしくも怖ろしい精霊のようだった。
今の私と言えば。
待っている。
書きたくなるのを。
じっと座って感じている。
飽きてきて少し眼を開けると。
会話に刺激される日もあれば。
本で立ち上がる時もある。
誰かの火が燃え移ることが多くなった。
私の圧倒的な衝動は失われたみたいだ。
昨日は雑誌のヘンリー・ダーガー特集を読んだ。
自分の人生をかけて実験を続け答えをだす戦いなのかと思った。
ヴィヴィアンガールズは神に使わされた者たち。
私は私の目線で、ひとりの人間の生涯を表わす価値を感じていた。
誰に言われるでもない。
ただ根源の内で遊ぶ子どもみたいなんだ。
自由で屈託なく笑い泣き怒り忘れるのに。
言葉はこうして残っていく。
今は、自分の才能をお金に買えて恋人の時間を買いたい。
明確な意図があってしまう、それはとても都合の良い夢。
きっと、正直に言えば嫌われるのかもしれない。
だけどそれ以外にアウトサイダーで居ない理由も見当たらなかった。
深みに入り込んで宝を持って帰ればみんな喜ぶ。
私は時にダイバーになって、それを仕事にする。
仕事にするのだ。
求められていないのに、押し付けるみたいに価値を売る。
私はアーティストになりそこなった。
悔しくて何度も泣き叫んだ。
自分の人生を勝手に諦めて勝手に恨みそうになって。
潔く、自分の絵を捨てることができない。
辞めると言って何度も筆を折ったのに。
まだどこかで希望を持っている。
これは詩なのか?エッセイなのか?
そういうカテゴライズから入らないよ。
底にはグツグツとマグマが煮えていて。
噴出して来るのをやっぱり待っている。
悪く言って殺してくれ。
厳しく私を叱ってくれ。
それも優しさだと知っている。
才能ないなら言ってくれ。
また諦めるから。
何度だって捨ててやるんだ。
覚悟はしていたのに。
だけどまだ誰も何も言ってない。
ひたすらに応援されているだけ。
それだけ。
ひとりで衝動にやられていた頃。
醜い言葉に囚われていた。
殺意。
「私を許そうっていうの?信じられない」
世界で一番悪いのは私だ。
みんないい子なのに、苦しみが存在するのは宇宙が未熟だからだ。
妄想が進んで、周りの人々が私のせいで死んでいく姿がリアルに見えた。
「鏡に化け物が映る」
この世に存在させてはならない。
だけど痛いのは嫌だ。
怖い。
行き場所がない。
さまよって、最後には魂の故郷へ帰るのだけど。
旅の途中の私は、知るよしもないじゃない。
精霊が話しかけてくる。
「おれたちはここに在るしいつでも味方だからね」
ありがとう。心強いよ。また会いたい。
恋人が可愛いから。美味しいアイスクリーム、満足するまで食べさせたいよ。
大好きな音楽も、気の済むまで買ってあげたい。
ただ甘やかして、幸せだって言わせたい。
負荷のない世界でぬくぬくして欲しい。
遊びたいときは自由にお外で跳ね回ってくれ。
どうなって行くのかはわからない。
だけど私は何度も書く。
作家になる。
というか、こうして作家をする。
モヤモヤして不確かなそれらを言い表そうと懸命だ。
私にはそれらがある。
それらは誰にでもあるものなの。
ただ私のそれらは私の中で私にしか見えない側面を形成する。
共有してみる。
それらはみんなの魂に呼応するだろうか。
あたなの魂に触れるだろうか。
私はヘンリー・ダーガーみたいに戦いたかった。
大人にめちゃくちゃにされたんだろうか?
私はいつも助けられてばかり。
タイ土産に貰った黒い鳥の金の瞳に反射して。
敵のいない宇宙で星が瞬くのを見る。
愛していたいよ。
可愛い子だね。
書く度に広がる。
可能性ばっかりあげる。
結果はどうあれ。
私はアーティストになりそこなった。
でもまだ間に合うのかな?
今更、よくわからない。
いつだって、自分自身であれば大丈夫。
何者でもないよ、私というコスモが抱える全てを飲み込んで。
ほっと一息、温かな風を生む。
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