第6話
「アンタは今日から、紀 梅花(きの うめか)だ。俺の代わりに、それを演じてくれ」
私は反論をしようとしたが、直ぐに少年に手で制された。
「この都はバカが多過ぎる。貴族も天皇も、町人も誰もが自身の私利私欲を求めてる」
少年は嘘偽りの無い目をしている。
「これまでずっと、必死に勉強をしてきたつもりだ。でもこのままじゃダメだと思った。俺は国を変えたいんだ!その為に自分の目で国内をちゃんと見て回りたいんだ!!」
言い終わるなり、私は少年の言葉の余韻に浸った。
“国を変えたいんだ”
その言葉が、どうしても自分の心を掴んで離さなかったから。
自分の気持ちに偽りなく、素直に吐く彼の姿に惹かれたのかもしれない。
ずっと政治家である父を見ていた。
上には頭を下げ、下を見下す。
夢なんてものはただのお飾りで、本音と建て前があった。
そして、地位の為には自分の意見を捨てる。
挙げ句の果てには愛人作ってスキャンダル。
最低で、バカで、ろくでなしな父だった。
“自分の目でちゃんと国内を見て回りたいんだ!”
少年の言葉には、魂が宿っていた。
彼なら信用出来る、と素直に思った。
「引き受けてくれるな?」
再度、念を押すように彼は私の目を見る。
私は頷く。
そして自分に言い聞かせるように、もう一度、大きく頷いた。
「任せたよ、梅花」
身分や秩序、制約なんかどうでもいい。
私という滑稽な人間に役を与えた彼に、何か救われる気がした。
今、生まれて初めて、人生にわくわくしている。
_____これは最後の自分自身を好きになるチャンスだったのかもしれない。
この時、本当は気付いていた。
こんな軽々しく任務を引き受けてはいけなかったこと。
そして、頭の痛みが、これは夢ではなく現実なのだぞと警鐘を鳴らしていることに。
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