第2話 御前創という人物

さて、私、御前創は朝ごはんを食べ終わると決まって散歩に出かける。いつも家の周りの3kmくらいのコースをゆったり歩くのだ。今日も今日とていい天気で散歩がはかどる。てくてくと歩みを続けると、公園に差し掛かる。するといつもはガラガラの公園に1人、泣いている少女がいる。どうやら風船が木に引っかかってしまったようだ。これは老いても男、御前創、とってあげるしかないだろう。

「おじょうちゃん、大丈夫かい?おじさんがこの風船とったげよう。」

「うえーん、お気持ちは嬉しいけど、この高さは控えめに言っても無謀と形容せざるを得ないよう。」

「そう思うだろう?しかし私には秘策があるのさ。少しあっちをむいていなさい。」

少女の視線を自分に向かせないようにし、準備は完了だ。実は私には超人的な妻のせいかちょっとした能力のようなものがある。それは、この世界の物理法則とはまた異なる自分だけの物理法則を創り出せるというもの。適用範囲は自分もしくは自分が触れているものに限られる。しかし、厄介なのが、これの発動方法だ、剥かなければならないのだ、何をかって?そんな野暮なこと聞くんじゃないよ。このために少女にはそっぽを向いていてもらう必要があったのだ。ラッキーなことに今の服装はジャージだ。脱がなくとも剥くことは造作もない。いそいそと剥き、風船の引っかかったところまで、ジャンプ。そして風船を取る。このときもちろん手は、剥きの姿勢を維持しなければならない。若い時は、これを忘れてよく失敗したなーなどと思いながら、木を降り、少女に風船を手渡す。よかった、泣き止んでくれたようだ。

少女と別れを告げ、またいつものコースに戻る。さぁ家までもう少しだ。

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