モン・トレゾール~幸せを呼ぶ魔法具店~

愛崎 四葉

プロローグ 魔法具とは

  魔法、それは、かつて、戦いの時に使用される力であった。

 自分を守るため、愛する者を守るため。

 時には、魔法で命を奪われたものもいた。

 だが、それは、昔の事。

 今は違う。

 魔法とは、日常で使用される力だ。

 たとえば、灯をつける時や瞬時に移動する時に。

 魔法は、人々の生活になくてはならないものであった。

 と言っても、高度な魔法を使いこなす者は、限られてくる。

 個人差が、生まれ始めたのだ。

 だからこそ、高度な魔法を使いこなす者は、あるアイテムを開発した。

 それは、誰でも、高度な魔法を使いこなせるアイテム・魔法具を。



 魔法具は、人の手に渡り、使用されてきた。

 便利なアイテムとして、愛用されてきたのだ。

 だが、開発された当時は、生産量は、少なく、希少なアイテムとされていた。

 それゆえに、魔法具は、一家に一つあれば、十分と言われるほど、生産が追いついていなかったのだ。

 魔法具が開発されてから、十年たった時の事だ。

 魔法具を作る者達が、魔法具の会社を設立。

 大量生産できる魔法具を開発し、工場を設立した。

 おかげで、多くの人が、魔法具を手にすることができ、高度な魔法を使用する事が、できるようになった。



 時は、流れて、百年後。

 マリーシャ国と呼ばれる小さな国、国に囲まれた国だ。

 だが、魔法具の生産率は、トップであり、魔法具生産国と呼ばれていた。

 その理由は、最初に、魔法具の会社が、マリーシャ国であったからだ。

 そのおかげで、マリーシャ国は、発展途上国となった。

 特ににぎやかな街は、ヘルヴェン街だ。

 レンガの家や店が立ち並び、おしゃれさが、際立っている。

 お店の品も、アンティーク調の物が多く置かれている為、アンティークの街と呼ばれていた。

 そのヘルヴェン街には、魔法具の会社、「シエル」が、設立されている。

 会社と言っても外観は、レンガでできた城のように見える。

 中心にある巨大な時計塔も、魔法具の一つだ。

 「シエル」は、街のシンボルだ。

 その会社こそが、最初に設立された魔法具の会社であった。

 「シエル」のおかげで、多くの人が、魔法を使いこなせるようになったと言っても過言ではない。

 「シエル」は、ヘルヴェン街、いや、マリーシャ国の象徴とも言えるであろう。

 そんな中、その「シエル」の南にあるアンティカ通りに、小さな店が建っていた。

 二階建ての小さな小さな店だ。

 だが、その外観は、アンティーク調であり、通行人が、立ち止まって、見とれるほどおしゃれであった。

 その店の名は、「モン・トレゾール」。

 魔法具を取り扱う店だ。

 と言っても、工場から取り寄せた魔法具はない。

 なぜなら、その店のオーナーが、一つ一つ、丹精を込めて、作っているからだ。

 世界で、たった一つの魔法具を。

 どの魔法具も、アンティーク調であり、高度な魔法を使いこなすことができる。

 だが、それだけではない。

 「モン・トレゾール」は、他の魔法具店、会社とは、違う特徴がある。

 それは、週末のみ、オーダーメイドができる。

 自分だけの魔法具を手にすることができるのだ。

 しかも、お客の悩みを聞き、その悩みが解決できるような魔法具をオーナーは、作る。

 その魔法具を手にしたお客は、悩みから解放され、幸せになれたという。

 ゆえに「モン・トレゾール」は、こう呼ばれていた。

 幸せを呼ぶ魔法具店だと……。



 蕾が芽吹く季節、「モン・トレゾール」は、今日も、開店していた。

 明るい日差しの中、店の前には、花壇が植えられている。

 赤、黄色、白のチューリップが、芽吹き始めている。

 春は、もうすぐそこまでやってきているようだ。

 お店から、一人の若い女性が、ドアを開けて、出る。

 それも、赤い包装紙に包まれたプレゼントを手にして。


「ありがとうございました!」


 女性が、店から出た直後、一人の少女も、続けざまに店から、出てお辞儀をする。

 どうやら、従業員のようだ。

 その少女は、金髪に両サイド三つ編み、青い瞳が、印象的なかわいらしい少女だ。

 服装は、真っ赤なワンピース。

 かわいらしさを強調しているかのようだ。

 まるで、お人形のように愛らしい彼女は、女性に対して、にこやかな表情を向ける。

 女性も、つられて、笑い、手を振りながら、去っていった。

 とても、幸せそうに。


「今日も、たくさん、手に取ってもらえたなぁ」


 少女は、嬉しそうに呟く。

 どうやら、多くの客が、足を運んだようだ。

 商売繁盛したようで、少女は、嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 


 少女は、すぐさま、お店の中に入る。

 内装は、レンガ調スタイルであり、落ち着きがある。

 棚には、ステンドグラスのようなランプ、少女と同じ金髪のかわいらしい人形、宝石がちりばめられたスプーンなど、アンティーク調の魔法具が、並んでいる。

 眺めているだけで、時間が立ってしまいそうなほど、おしゃれであり、まるで、宝石箱のようだ。

 少女は、お店の中に入っていくと、一人の青年が、カウンターの前に立っている。

 その青年は、黒い髪に、少女と同じ青い瞳を持つ。

 おしゃれをしているわけではなく、素朴な青年と言ったところであろう。

 だが、暖かな笑みは、優しさを含んでいるようだ。

 青年は、少女を出迎えた。


「お疲れ様、モノカ」


「あ、アキ君、お疲れ様。今日も、たくさん、売れたよ」


「そっか。ありがとう」


「ううん、アキ君の魔法具は、どれも、素敵だからだよ」


 青年と少女は、楽しそうに会話を繰り広げている。

 傍から見れば、兄弟のようなのであろう。

 だが、二人は、オーナーと従業員の間柄だ。

 兄弟ではない。

 青年の名は、アキリオ。

 「モン・トレゾール」のオーナーだ。

 加えて、魔法具なしで、高度な魔法技術を唱える事が可能であり、ゆえに、魔法具を作ることができる。

 と言っても、大量生産は、難しい。

 だが、彼の作る魔法具は、評判がよく、リピーターもいるようだ。

 その理由は、おしゃれで、使い勝手の良いからであろう。

 少女の名は、モノカ。

 アキリオの事を、「アキ君」と呼ぶ天真爛漫で、不思議な少女だ。

 住み込みで働いている。

 フレンドリーな性格であり、彼女のおかげで、客足が伸びた。

 彼女の笑顔を見るだけで、幸せな気分になれた客もいるらしい。

 アキリオとモノカのおかげで、小さなお店でも、商売繁盛したのであろう。


「モノカが、店番をしてくれるおかげで、たくさんの魔法具が作れるんだよ。だから、ありがとうだ」


「そっかぁ。良かった」


 人の手で作る魔法具は、高度ではあるが、大量生産は、困難を極める。

 ゆえに、アキリオは、お店に出る事は、あまりない。

 朝から、夜にかけて、一日中、魔法具を作り続けてた場合、多くて、十個作れれば、良いほどだ。

 お店に出ていたら、半数の魔法具しか作れなくなるであろう。

 だが、モノカが店番をしてくれるおかげで、アキリオは、魔法具作りに集中できる。

 だからこそ、繁盛したのであろう。


「休憩にしようか」


「うん」


 アキリオは、時計を見る。

 その時計も、アキリオが作った魔法具の一つだ。

 時計の針は、三時を指している。

 お客もいなくなり、休憩したほうがいいとアキリオは、判断したようだ。

 モノカは、急いで、店の奥へと入っていく。

 アキリオの為に、紅茶を用意するためだ。

 カウンターの中で、白いティーカップに紅茶を注ぐモノカ。

 そのティーカップも、魔法具だ。

 時間が経っても、飲み物が冷めないようになっている。

 アキリオは、そのティーカップを手に取り、紅茶を飲み始めた。

 モノカも、ティーカップを手に取り、紅茶を飲み始める。

 暖かく、甘い香りが、心を落ち着かせた。


「そう言えば、そろそろ、一年たつのかな」


「何が?」


「モノカが、この店に来てからだよ。確か、春の頃、だったよね?」


「あ、うん。そうだったね」


 実は、モノカは、一年前に、住み込みで、働き始めたのだ。

 彼女が、この店を訪れたのは、花が咲き始めた頃になる。

 時の流れは、早いものだ。

 アキリオは、しみじみと感じていた。

 しかし……。


「もう、一年が、経つんだね……」


 モノカは、なぜか、寂しそうにつぶやいていた。

 この時、アキリオは、まだ、気付いていなかった。

 なぜ、彼女が、寂しそうにしているか。

 彼女が、なぜ、この店にやってきたのか。

 過去に何があったのかを……。

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