第12話 工務店の日常-3

本採用になったことで、軽トラを一台、自分専用に用意してもらった。


オートマだ。


アパートの駐車場も借りて、通勤はコレでやることにした。


社会人になってから苦しんでいた電車の通勤ラッシュからこれで解放される!


ペーパードライバーだったあたしに、狭い東京の現場までの運転に慣らさせるためという目的もあったらしいが、ラジオやお気に入りの音楽を聴きながら通勤をするというのは、ホントに気持ちがいい。

クルマの運転はあまり好きではなかったが、専務の言ったとおり、軽トラックの軽快な運動性能と操作にダイレクトに反応する機動性は気持ちがよく、朝の通勤が楽しくなった。


舞波工務店にはあたしと社長、専務のほかに6人の社員がいる。

まず、あたしとおなじようなポジションで、小林さんと小田さん。

小田あかりさんは32歳の女性。 独身。

建築の専門学校を出て、某中堅ゼネコン勤めをやって、ここに来たそうだ。

2級建築士所持者だ。


舞波工務店は、基本的に社員が担当する物件を持っているが、それぞれの得意分野に応じてフォローしあっている。


彼女は実務をこなしていた経験から、施主に提示するパースや、壁紙や床材を実際に張り付けたいろんなプレゼンテーション資料の作成、確認申請や検査の書類作成なんかが得意なので、設計実務やデザインの担当という感じだ。

すらっとした長身の美人で、元気なところが貞子に似ているが、彼女と違って面倒見がいい。


CAD(PCで図面を書くソフト)の使い方や、確認申請の実務も教えてくれたし、彼女が自分でつくった(!)エクセルの確認申請や検査書面フォームは見事な出来で、

「これってわざと難しくしてるんじゃないの!?」「同じことを何回も入力させないでよ!」と設計事務所時代はブチ切れそうになった書面作成が非常にスムーズに行えるようになった。


「工務店は設計だけをやるわけじゃないから、業務はカンタンに。同じことはフォーマット化すればいいのよ。やることはたくさんあるからこんなことに時間とられたくないじゃない?」

年間何件も確認申請業務を行っておきながら、イチからいつも入力しなおして膨大な作業時間をかけているあちこちの設計事務所に教えてやりたい。


現場に行くときは作業着。施主との打ち合わせのときは、「できる」感じのオフィスカジュアルに着替えるメリハリも素敵だ。

ちなみに、彼女も入社初日に専務に作業着を選んでもらったそうで、その話をしたら「うん、うん」と同意をいただいた。


小林遥人さんは、私立大学の建築学科卒の26歳。

大学を卒業して、すぐに舞波工務店に就職した変わり者だ。

大学卒業後、すぐに工務店に入ったせいか、建築学科卒にしては、現場に行くことや、自分で作業することが多い。


あかりさんと違って、朝から帰社するまでずっと作業着だ。

施主さんとの打ち合わせも作業着でやっているので、あたしのイメージしていた工務店のヒト。って感じだ。


彼も一通りの業務はこなせるが、ポジション的には現場担当。という感じ。

見積もりの積算作業や、各職人の割振り、手配なんかも彼がやることが多い。

設計やプレゼンはあまり得意でないようで、あかりさんによく、資料づくりを依頼している。

彼女も現場進行を彼に依頼することもあるので、ギブ&テイクで業務分担をしている。


1級建築士取得の勉強もしているそうで、学科は受かっているのだが、製図がクリアできていないそうで、お昼休みにはよく、T定規を広げて、製図の練習をしている。

建築士の試験は学科に受かると、3回まで製図の試験を受けることができるのだが、2回落ちているので、今年が最後。いわゆるカド番で、これに落ちると、また学科からやり直しになる。

ちなみに専務は、設計事務所勤務1年目で受かったらしい・・・。


そして、事務員さん。

そのほかに大工さんが3人というのが、舞波工務店の社員一同。

あたしのポジションは、設計も現場もやる「オールラウンダー。」専務のようなポジションになってほしいそうだ。


折衝のテンポがよくなる。というので、他の社員の物件の模型も作るようになり、あたし専用の模型作成ブースもつくってもらった。

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