第3話 この道へのきっかけ

滝沢秀樹建築研究所。


一般住宅や店舗の設計デザインを主な業務とする設計事務所。


所長は世間一般で言うところの「建築家」で、それなりにかっこよく仕立てられたホームページの白黒写真では、両手を中途半端にあげてなにかを語っているような「建築家ポーズ」の写真が掲載されている。

名前を検索すると、雑誌に彼の「作品」が掲載された記事と、過去に受賞した、いくつかの地方の建築コンペの履歴がヒットする。


大学卒業と同時にここに勤め始めて、今年で4年目になる。


私立の4年制大学文学部在学中に行った北海道旅行の途中、たまたま立ち寄った、すでに廃墟と化したリゾートの一角にあったコンクリート打ちっぱなしの教会に目を奪われた。

手入れもされず、荒れ放題だったが、コンクリートの「やれ具合」がなんともいえない雰囲気を醸し出していて、思わず見とれてしまった。


ネットで調べてみると、日本を代表する建築家、安西正孝氏の作品ではあるが、リゾートの廃業とともに放棄されてしまったということだった。

それからは、彼の作品のことを調べ廻り、東京にも彼の作品が多数あることを知り、あちこち見て回った。

彼のデビューから数十年経っていることもあり、かなり状態の悪いものも多かったが、そのほうが、彼の建築の魅力が引き出されている気がした。


ちょうど就職活動が始まる時期でもあったので、この世界にはいりたい・・・!と漠然と思い立ち、あちこちの設計事務所やゼネコンを就職活動で廻ってみたが、建築の勉強をなにもしていない自分は相手にもされなかった。


そんなとき、なにかの間違いか、面接にこぎつけたこの事務所の面接で、模型作りの課題があり、手こずる建築学科の学生をしり目に、課題の2間×4間の寄棟屋根のスチレンボード模型を上手く作ることができたのだ。

昔からものを作ることが好きで、プラモデルや模型をつくることが趣味だった時期もあったので、課題をクリアすることができた。


面接のほかの課題だったCAD(PCで図面を書くソフト)やデジタル機器の扱いはダメダメだったが、そんなものは後からでも覚えられるが、実際に手を動かす仕事は向いている者しかできない。という当時のチームリーダーの一言で採用が決まったらしい。


しかし、4年たってもイマドキの設計業務を覚えることができなかったので・・・。


ということが今回の「クビ」話の経緯のようだ。

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