ひこばえ
こうえつ
愛しさと切なさ
新幹線に乗り数時間。見知らぬ駅から降りた。
不安を抱いたが彼が駅まで迎えに来てくれていた。
ホッとする私は、隣を歩く彼に不満ぶつけた。
「遠かったし、心細かった。でも会えて嬉しいよ」
最後は本音が出た。
「そうか」と短く返す彼とは半年ぶり。
三年前に東京で出会い、そのまま好きになった人だった。
しばらく、さびれた商店街を歩く二人は、久しいのもあって無口だった。
「わたし……雪の降る町に住んだ事が無いの」
突然、私が口を開いた。
彼は半年前に転勤で、東京から東北の雪深い町に住むようになっていた。
彼は移動の前に私に「一緒に来て欲しい」と一度だけ話したが、私が答えに困っていたら、二度は口にしなかった。
「……だって、寒いし、雪道なんか歩いたこともないし」
黙って歩く彼に向かって、私は言い訳をしていた。
そんな私に彼は短く答えを返した。
「慣れると思うよ」
「まあ、そうかもしれないけど……」
彼が転勤になって、わたしは迷っていた……どうしようか。
彼と一緒にこの雪の降る町に住む?
その答えが出ないうちに、恋しさも寂しさも限界のわたしは、来てしまった。
春の連休を使って。彼の住む雪が降る町に。
彼はわたしの顔を覗き込んで、フッと笑った。
「なに?……そのからかうような笑い顔……わたしは真剣なのよ!」
「まだ迷ってるのか? でも君が来てくれたのは嬉しい」
「なら、もう少し喜んでよ……それと……出来れば強く言って欲しい」
「何を強く言って欲しいの?」
「そ、それは……今は言えない!」」
彼はフッと笑った。
「また、そんな笑い方……人によっては喧嘩になるからね!」
彼は大きくため息をついて「やれやれ」そんな感じ。
「君がこの町に住むのは強制できない。自分で決めるんだ」
「そんな事言ったって、こんな雪が降る町……知っているのは貴方だけだし」
「まだ雪の話は早いって……それに君は運が良い、この町が一番綺麗な時期に今居るんだよ」
それは運じゃない、わたしが半年で我慢出来なかったからよ。
貴方と別れて独りでいる事に。
不満そうなわたしを見ながら、彼は町の川辺へとわたしを導く。
「どこへ行くの?」
「この町の一番綺麗な場所に連れて行くよ。あ、そうだ、この町に伝わる昔話を聞いてみないか」
彼は数百年前に起こったと言われる、昔話を話し始めた。
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