夜空に輝く青い星
アオイヤツ
第1話
真っ黒な空を飛んだ。
そして落ちた。
12月の静かな海に沈む。
見上げる空と沈み込む海がぐるりと回る。
空に沈み、黒い水に溶けていく。
それはとても不思議な感覚。
悪くない最後だ。そう思う。
真っ暗な世界に一つだけ、大きな光が見えた。
ぽっかりと浮かんだ白い光を見つめていた。
ぼやぼやと輪郭をにじませる光はとても綺麗。
シャン――
音が聞こえた。
音の方向を見ようとしたけれど、溶けた体は動かない。
シャンシャンシャン――
音は段々と近づいてきた。
シャンシャンシャンシャンシャン――
音が何度も何度も頭の中でこだましていく。
シャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャン――
そしてふっと消えた。
音が、ではなく私の記憶が。
ジジイが私の服を脱がそうとしていた。
眼を開けると、すぐ近くにあった顔と肌に感じるぶっとい指先。私はそれをぼんやりと眺めた。そして、そのツラを下から殴り飛ばした。
「な、なにしてんだコラァ!!」
反射的に出た言葉は我ながら下品で、力強く、適切であったように思う。
アゴを殴られたにも関わらず、ジジイは数歩後ずさるだけで倒れもしなかった。立派に蓄えたアゴヒゲのせいで打撃が効かなかったようだ。
背が高く、でっぷりと太った巨漢ジジイは不潔さを漂わせるヒゲを掻きながら「ぐふぉふぉ」と笑った。外国の映画にでも出てきそうな体格とアゴヒゲだが、もじゃもじゃの黒い髪の毛とクリクリした黒い眼、血色のいい肌色は日本人のものだと思われる。
素手で倒せる相手ではない。組み伏せられる前に武器を見つけなくてはならない。私は素早く立ち上がり、すぐ横にあったバールのようなものを手に取った。見た目より重いソレを両手でしっかりと握りしめ、ジジイを睨みつける。
「それ以上近づいたり、怪しい動きをしたらコレで殴る」
ジジイはぐふぉぐふぉ笑いながら、淀んだ目で私を見ていた。
ジジイを威嚇したまま周囲を見回した。白くて狭い通路の様な場所だ。右手に強い明かりがあって視界は悪くないはずだが、狭い通路の外はどういうわけかなにも見えない。漆黒の中に白い四角が浮かんでいた。逃げ場らしきものは見当たらない。
少しでも距離を取るために後ずさろうとしたが、足に何かが絡みついていて上手く動けない。バランスを整える間もなく、ダメ押しで地面が揺れた。おもわず右手を突こうと暗闇に手を伸ばしたけれど、そこにはなにもなかった。暗い闇の中に倒れこみそうになって、私は崩れ落ちる様に地面に膝をついて事なきを得た。
「大丈夫か姉ちゃん」
ジジイが声を掛けてきた。
「近づかな――くしょん!」
クシャミがでて、私はようやく気付いた。
寒い。異常なほどに寒い。濡れた服が肌に張り付いて、氷の中にいるみたいにとにかく寒い。自分で自分の身体を抱いても、全身が冷えているとなんの意味もない。
「ふう、言わんこっちゃねえ」
ジジイはそう言って、自分の背中から大きな影を取り出した。
「濡れたモン脱いで、早く着ろ」
投げつけられたジャンパーは熊のように大きくて、野生のケモノのように臭かった。
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