世界乗り換えキャンペーン、やってます

姫宮フィーネ

世界が壊れるとも

何もしなくても朝は来るものだと終わっていた。

それが思い込みだと突き付けられたのは、太陽のあるべき位置に黒い穴があいていたからだ。

昨日は仕事が忙しく、遅くまで残業していた。

それでぐっすりと眠っていたわけだが、外の騒がしさに目を覚ました。

時計を見ると10時過ぎだった。

何やらうるさい、とは思っていたが、カーテンを開け、窓を開けたところで何か違和感を覚えた。

いつもと空気のにおいが違ったからだ。

身体はいつものように雨戸の鍵を外し、そして、雨戸をあけた。

予報で快晴で洗濯日和だったはずだ。

だから、部屋の空気を入れ替えるにもちょうどいい。

窓の向こう側はいつもと違う景色だった。

隣にあったはずのアパートの代わりに見たこともない木々が生えている。

その林からは水の粒が空に昇っていた。

雨の降っている様子を逆再生しているかのような。

その雨粒を追っていくと、青空が上には広がっていた。

安堵したのを覚えている。

しかし、太陽はなかった。

太陽のあるべきあたりには黒い穴が開いていた。

ひび割れた液晶ディスプレイを見たことがあるだろうか?

あんな感じの黒い部分が空にできていた。

まだ、自分は寝ぼけているのだろうか、と私は洗面台に向かう。

水で顔を洗えば目が覚めるだろう、と。

蛇口をひねっても何も出てこなかった。

意地の悪い夢だと私は強く思う。

夢は夢と自覚したらすぐに覚めるからだ。

しかし、覚める気配はない。

それどころか、もっと、悪いことが起こった。

外からの音が聞こえなくなったのだ。

恐る恐る窓のほうに目をやると、真っ白に塗りつぶされていた。

表面の凹凸どころか表面があるのかもわからない白い壁。

静寂を破ったのはスマートフォンのバイブレーションだった。

新着のメッセージを告げるもので、スパムか何かだと思いながらアプリを開いた。

冷静に考えれば、外がなくなっているかもしれない状態でスパムがくるわけもないのだけど。

『世界は終わりました。移行しますか? 移行する場合は空メッセージを送ってください』と書いてあった。

悪ふざけもほどほどにしてください、返信。

すぐにメッセージが返ってきた。

『本気です。私たちはこの破滅的な状況から多くの質を救いたいのです』

しつ?

疑問に思っていると続いてメッセージが届いた。

『時間はもう1分もありません。はやくしないと、世界ごtお

消えてしまいます』

跡形もなく世界ごと消えるのはまっぴらごめんだ。

そう思って私は空のメッセージを送信した。

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