第九章 君はまだ自分の価値が分かってない

076

「お前はそういうだろうと思ってたよ」

 馬を並べて走りながら、バーニィは僕にいった。

「人が悪いなぁ」

「まあ、そういうな。サキは最後まで反対してたんだ。ところで――」

 僕たちの前を行くオートモービルに視線を移して、バーニィは声を落とした。

「サキってなんだかお嬢ちゃんを大人にした感じでおっかないな」

「そうかな。サキとは初めて会ったの?」

「ああ。そもそも、彼女、いったいいくつなんだ」

「実は僕も知らない。なんだか訊きづらくて……」

 ふいにサキがこちらを振り返った。僕とバーニィはぎくっと固まってしまった。そんな僕たちを見て、サキはふっと笑うとまた前を向いた。

 僕たちの会話が聞こえる距離ではないのに。確かにちょっとおっかないかも。


 コーディネーターたちは、ファントムの技術を使った通信網を持っている。バーニィの話によると、レッドフィールドの死は西部地区のコーディネーターたちに即座に伝わったらしい。その後彼らの間ではちょっとした混乱が起こった。レッドフィールドの後任と今後の方針を決めるため、ファントムを交えて近々会議が行われる。ヨミはそこを襲うつもりだ。

 しばらく進むと、突然目の前にレッドフィールドのオートモービルが飛び出してきた。二台が道をふさぐようにして止まる。そのうちの一台から飛び降りたのはフランチェスカだった。

「バーニィ、乗って。状況が変わった」

 フランチェスカはサキに声をかける。

「サキも。こっちのほうが速い」

 サキは自分のオートモービルを降りて、僕たちのあとに続いた。フランチェスカの隣にバーニィ、うしろに僕とサキが座ると、フランチェスカは勢いよく発進させた。もう一台にはキャットと『アーム』のメンバーが乗っている。フランチェスカが口を開いた。

「ドクター・マチュアから連絡が入った。会議の場所は教会じゃない」

「どういうことだ」

「これは罠よ」

「くそっ」

 バーニィが舌打ちして、僕に説明する。

「会議の場所はテリトリー内の教会だという情報が入ったんだ」

 教会というのは地球にある宗教のための施設だそうだ。僕には宗教というものがよく理解出来ないけど、バーニィの話では地球には様々な宗教があるらしい。

「それを聞いてヨミはひとりで飛び出していった。ドクター・マチュアは『アーム』に協力的なコーディネーターだ。俺たちに便宜をはかってくれている」

「あの馬鹿……」

 サキが溜息をついた。バーニィがうなずく。

「まったく、また同じ手に引っ掛かりやがって」

 たぶんヨミはいろんな責任を感じているはずだ。自分なりの考えで下した決断だろう。いや、もしかしたら――。

「バーニィ、ヨミは罠と分かって行ったんじゃないかな」

「私もそう思う」

 フランチェスカがちらっとこちらを振り返った。

「だって、ファントムと接触できることは間違いないもの」

「なるほどな。いずれにしても、嬢ちゃんに追いつかなきゃならない。フランチェスカ――」

「河沿いを北上すればなんとか間に合うかも。悪路だけど我慢して。しかも運転覚えたてだからね」

「分かった。お手柔らかに」

 僕はフランチェスカにたずねた。

「TBは?」

「もちろん、すぐに追いかけていったわ」

「走って?」

「当然」

 サキが不思議そうな顔をしている。フランチェスカは僕を振り返ると、微笑んだ。

「無事でよかったわ、レン」

「ありがとう、フランチェスカ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る