062

 久しぶりに見た父さんは少しやつれているように見えたけど、思ったよりは元気そうだった。診療のときに着る白衣を羽織って、レッドフィールドの隣に立った。そのすぐうしろに、女給姿の少女が控えている。脇に置かれている金属製のカートには黒い箱が載っていた。

 父さんはゆっくりと僕たちを見渡した。

「久しぶりだな、バーニィ」

 バーニィが無言でうなずく。

「ニキ。元気だったか。噂はいろいろと聞いていた。たぶん、お前たちにはレンが世話になっているはずだ。礼をいう」

 TBが僕の頭のうえにぽん、と手を乗せて、うなずいた。次に父さんはヨミに視線を移した。

「セブンス――」

「ヨミでいい」

「わかった。ヨミ、君たちの仲間のことは残念だった。だが、私は君たちに協力するつもりはない。ビルの意向に従うつもりだ」

 バーニィはじっと父さんを見つめたまま何もいわない。TBが僕にちらっと視線を走らせた。僕は思い切って口を開いた。

「父さん。僕にはまだよく分からないことがたくさんある。だから間違っているかもしれないけど、父さんは本当にこの人に協力するつもりなの? それが本当に正しいことなの?」

 父さんは白衣のポケットに両手を突っ込むと足元に視線を落とした。沈黙が僕の上に重くのしかかってくる。

「父さん!」

 やがて、父さんはゆっくりと顔を上げた。

「レン、俺は――私はできればお前にはこういうことに関わらせたくなかった。あの土地で医者として、あの土地の人のために働いて一生を終えてほしかった。今からでも遅くはない。私のことも、彼らのことも全て忘れなさい。そして、エルム・クリークに帰りなさい」

 分からない。僕には父さんがどこか変わってしまったような気がしてならなかった。久しぶりに会ったから? 父さんはこんな喋り方だった?

「何いってるんだよ! そんなことできるわけないじゃないか。僕はもう知ってしまったんだ。地球のこと、ファントムのこと、それにこの星のこと。父さん、僕はここに来る途中でマックスっていう人に会ったよ。その人は空を飛ぶ機械を発明したんだ。でも、ファントムに殺されてしまった。こういうことがこれまでずっと繰り返されてきたんでしょ? 本当にそれでいいの?」

「これまでにいったい何人の人間が、今お前がいった疑問にぶち当たったと思っている。だが、みんな最終的には、ファントムとコーディネーターに任せることがこの星のためになるという結論に達したんだ。お前はまだ子供だ。知らないこともたくさんある。今は、私のいうことを聞いていればいい」

 おかしい。僕は何かが引っ掛かっていた。父さんはこんなことをいう人だったか?

「確かに僕はまだ子供で知らないこともたくさんある。でも、これだけは知ってる。バーニィもTBもヨミもキャットも、僕の仲間だ。彼らを忘れることなんて出来ないよ」

 しばらく無言で僕を見つめていた父さんは、僕たちのやり取りを満足げに聞いていたレッドフィールドを振り返った。

「ビル、私の銃を返してもらってもいいか」

 父さんの後ろに控えていた少女にレッドフィールドが何かをささやくと、少女はカートに載っている黒い箱を父さんに差し出した。

 銃? 家には古いライフルが一丁あるだけで、父さんは拳銃を持っていなかったはずなのに。

 少女が黒い箱を開き、父さんは両手で中に入っている物を掴むと僕たちに向き直った。

「では私が断ち切ってやろう」

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