梅田ダンジョンへようこそ 〜ヤマトリアル物語〜
@tadasaka
プロローグ
ここは大阪、梅田の地下街である。
彼らは阪神梅田駅方向から円形広場を抜け、大阪第四ビル沿いにディアモールを目指していた。
地下の通路を照らすLEDは所々しか機能しておらず、薄暗くてどこか湿っぽい。
かつては多くの人で賑わっていたが、今や店舗の殆どはシャッターが降ろされ、壁を飾るポスターもすっかり色あせている。
そんな通路を慎重に歩いている六人組。革製の軽装に身を包んだ冒険者の一団である。
前衛は剣を装備した体格のいい少年と、槍を構えた金髪碧眼の背の高い青年。
中衛の杖を構えた少年と少女は、どちらも小柄である。
シンガリは短剣装備のハンサムな女性と、肩に使い魔のミツメフクロウを止まらせいてるクロスボウ装備のこれまたハンサムな女性。
後衛の二人がキャラかぶりのようだが、短剣装備の方が黒髪に小麦色の肌という日本人的外見なのに対して、使い魔持ちの髪が銀髪で耳も尖っているので、見分けるのは簡単だ。
「そろそろディアモールだから」
短剣装備の女性、シノが囁くように先頭の二人に声をかける。
シノの言葉に、先頭の二人が歩みを止めた。
「これくらいの時間だと、よく溢れてるから注意しないとね」
何が溢れているのかとは、誰も問いたださない。その溢れたものを退治するためにここまで来たのだ。
もう一人の肩にとまった使い魔の二つの目がぎょろりと動く。その名前の由来となる額の瞳は、ただの模様なので当然動くことはない。
「いるね」
使い魔の持ち主、俗に言うエルフ的外観のフェイがつぶやくように続ける。
「あっちの方向に、十匹くらい。距離はほぼ二十メートル」
使い魔と感覚共有しているらしく、常人には暗くて見えない通路の先を指差す。その先で通路はより広い通路・ディアモールと交差していた。フェイが指差しているのは、かつての第三ビル方向だ。
「どうしますか?」
槍を持ったマイケルが流暢な日本語で、どこか心配そうに尋ねる。剣を装備した少年、高校生の健一の方がまだ余裕がありそうだ。
「裕太君は呪文の準備をして。マイケルと健一君は私と一緒に敵を引きつける」
シノの指示で杖を持った少年、これも高校生の裕太がゴクリとツバを飲み込み、杖を構える。
「大丈夫?」
緊張を隠せない裕太の肩に手を置き、シノがその顔を覗き込む。
「だっ、だいじょうぶです!」
「はいはい、まずは深呼吸」
促されるままに深呼吸を何度か繰り返し、裕太の肩の力が抜けた。自然体に戻った裕太から離れ、シノが交差点側へゆっくりと近づく。
健一とマイケルも得物を構えてその後に続く。
シノはそっと広い通路を覗き込み、二人に合図してその先に飛び出した。
「フェイ、灯りをつけて」
シノの指示でフェイがトリアル語の呪文を唱えると、広い通路が淡い光に照らされた。
ディアモールは地下道というより、東西に長い広場のような場所である。
放置されたカフェテリアの机の向こう側、シノ達から見て左へ二十メートル程先に、小柄な人影がたむろしていた。
それは勿論人ではない。赤黒い甲殻虫のような皮膚に、猿のような矮躯。ゴブリンタイプのモンスター。
飛び出してきたシノ達に向かって、素早く魔物が駆け寄ってくる。その数、十二匹。
「裕太君、今よ!」
シノの合図に、裕太が日本語式の中級呪文を唱えた。
「炎よ! 紅き壁となりて我が敵の進軍を阻め!」
走り寄るゴブリンタイプに向けて、手にした杖を振るう。
その動きに呼応して床から吹き出た炎の壁に巻き込まれ、魔物達はその半数が砕け散った。
「やるね」
フェイが裕太を讃えつつ、手にしたボウガンで立て続けに二体を撃ち抜く。
後は待ち構えていたマイケルと健一がそれぞれ一体ずつ、シノがゴブリンの間を走り抜けるようにして短剣で二体を屠る。
倒された魔物はすべてガラスのように砕け、その破片もすぐに砂のように崩れ、やがて蒸発するように消えていく。物質化した不純な魔力・・・瘴魔の塊がダンジョンの作用によって純粋な魔力へ還元されていくのだ。
後には青いビー玉のような魔力石だけが残る。
その魔力石を拾い集める一行。
「皆よく頑張ったね。初めてにしては上出来だよ」
魔力石を集めた袋を片手にして、笑顔で言うシノ。
「ちょっ、皆って、うち何もしてへんし!」
そのシノに、杖を構えた少女、奈々美が拗ねるように言った。
「まあ、奈々美は回復役だし・・・」
シノが慰めるように声をかけ、
「そやけど・・・」
がっくりと肩を落とす奈々美。
「まだこの先もあるんだし、何かあったときにはお願いするよ」
ディアモールの先には、かつての四ビルや三ビルの地下部分が広がっている。彼らの冒険はまだ始まったばかりなのだ。
ここは梅田地下街。モンスター溢れ、冒険者が集うダンジョンである。
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