ぼくはUFOを見たんだ
琥珀 燦(こはく あき)
①
ぼくは、UFOを見たんだ。ついさっき、この目でね。
ここは、長野の山のずぅっと奥の盆地。父さんのふるさと。仕事が忙しくて、お盆休みが予定より遅れてしまった父さんより、一足先に、母さんと、妹のひろ子と三人でやってきたんだ。
この村に初めてやってきた僕には、目に映る何もかもがめずらしくて、心臓がドキドキ、ワクワクいってる。列車の窓を追いかけて空中をすべっていく水色のトンボ。もこもことした重い緑色の木々。バス停のそばを流れる用水路の、オルゴールみたいなせせらぎの音。
そして、ものすごーく、大きな空。右見ても、左見ても、見渡す限り空なんだ。まるででっかいドームの中みたい。それも、オレンジやらバラいろ、えび茶・・・もうありとあらゆる赤系を丸天井にぬり付けたような夕焼けなんだ。
さて、後ろは、空がどこまで続いてるんだろう。そう思って、背伸びしながら目で追いかけていたら、ドスンとしりもちをついちゃった。
「いっててててぇ・・・」
あぜ道だったものだから、ズボンは土で真っ黒になった。
そのとき、光が空を横切った。ついっと、すべるように大きく。
何だろう? ぼくはすわったまんまで白い光を目で追った。すぅいすぅいと、夕焼け空を楽しそうに走り回る光。それが、ぼくのちょうど頭上まっすぐのところで止まる。あれ?変なの。まるでぼくと目が合ってとまどってるみたい。
およそ一分、ぼくは光と見つめ合った。なぜだか、耳の気圧がかすかに下がったような気がした。キーンと細い、バイオリンみたいな音が、頭のおくを走る。せつないような、でもやさしい、なつかしいような息苦しさ。
「涼平、なにやってるの?置いていきますよーっ」
母さんの呼ぶ声でわれに返る。あぜ道の数百メートル先で、ひろ子と二人、手を振っている。
その声に、はじかれるようにあの光も、それこそいちもくさんに、という感じで走り出した。夕日とは反対側の、山のほうにすべり落ちて、消えた。
ぼくも、ポップコーンのようにはじけた。わぁわぁ大声を上げ、走った走った!
ぼくは、UFOを見たんだ。流れ星でも飛行機でもない。あれは絶対UFOだ。ぼくは、ほんものの、UFOを見たんだ!
だれも、UFOのことを信じてくれない。
全力疾走で追いついて、母さんに
「今のさ、今の見たよね。あのヘンな光」
息切らして言っても全然聞いてない。
「まぁ、どうしたの。下ろしたてのズボン真っ黒にして。みっともないわねぇ」
なんておこるばかり。ひろ子なんて、
「おにいちゃんったら、四年生にもなってUFOなんて、こどもっぽーい」
ってわらってる。二年生でそんなゆめのないこと言ってるほうがなまいきすぎるんだよ。
あぜ道をつっきると、大きな平屋の家が見えてくる。ばあちゃんが庭先でにこにこと手を振っている。ぼくはそこまでまた一気に走って行った。
「よぅ来たねぇ、涼平、大きくなって」
「ばあちゃん、ばあちゃん、この辺UFO出るよね?」
「何ですか、涼平、あいさつもしないで」
母さんがおこると、ひろ子がクスクスわらいながら、おばあちゃんこんにちは、と頭を下げる。ぼくも、こんにちはぁ、おせわになります、とあいさつした。
「東の山のほうには、大きなはかばと寺があるでなぁ。ひとだまでも見たかもなぁ」
夕飯のとき、ばあちゃんはそう言ってあはあはとわらった。ひとだま信じるくらいなら、UFO信じてくれたっていいのにさ。
まるいちゃぶ台の向こうでは、じいちゃんが魚の干物をつつきながらニヤニヤしてる。じいちゃんまでぼくをわらってるな。くやしいよぉ。
UFO信じるのってそんなに子供っぽいのかなぁ。
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