魔王の詠唱~キャストマジシャンズ
告井 凪
『アリスマジシャンズ』
第1話「その時、唐突に目覚めた」
俺の前世、魔王だ。
唐突に理解した。
前世で勇者に討たれた後、魂がこの世界に流れ着き、一般家庭の子供に宿った。
それが俺というわけだ。
客観的に見て、こんなことを考え出した俺は頭のおかしなヤツだろう。
誰だって思う。遅めの中二病だなって。
でも違う。本当に、唐突に理解したんだ。
魔王だったと。強烈な自覚が自分の中に生まれた。
疑いようのない、いいや疑うことの許されない、だけど漠然とした……魔王の記憶。
そうだ、自分の中には魔王の記憶がある。自由に引き出すことはできないが、確かにあるのがわかる。
(お前は魔王だ。今、すべての記憶を授けることはできないが、魔王なのだ)
そんな声が頭に響いてきたけど、俺は正気だ。
頭の中の声が言うことが、俺には理解できる。納得できる。
何故なら俺は魔王だったから。
唐突に理解した。
だけど、本当に唐突過ぎる。なんで今、こんな時に覚醒した?
「コータ? どうしたのよ、ぼーっとして」
「……あぁ、すまん。ユイコ」
森の中。あちこちから火が上がり、地面が抉られ、木々がなぎ倒されていた。
目の前では、巨大なゴーレムがゆっくりと歩を進めている。
ここは戦場のど真ん中。現実ではあり得ない、激しい戦闘の爪痕を目の当たりにしている。
「敵は二人やられてる。極大魔法のチャンスよ」
「そうだな」
「本当にわかってる? 敵のゴーレムを破壊できれば、このゲームわたしたちの勝ちなんだから」
「わかってるって」
俺は今、『
ダイブグローブデバイス専用、VR・多人数協力型対戦ゲーム。
ヘッドセットはもういらない。グローブを装着するだけで、人は魔法の世界に飛ぶことができる。
初プレイ、ワクワクしながら呪文を詠唱した瞬間――魔王の記憶に目覚めたのだ。
(魔法を使うというリアルな感覚に触発されたと思われる。あるいは――)
頭の中でまたゴチャゴチャ言い始めた。そろそろ、うるさい。
俺の前世が魔王だったというのなら――。
「ユイコ、俺が極大魔法を唱えてみていいか?」
「え? んー、そうね。初めてならやってみたいわよね。どうぞ?」
このキャストマジシャンズというゲームは。
唱えた呪文の内容によって、発動する魔法が決まる。
詠唱が長ければ長いほど、強力な魔法になる。
極大魔法と呼ばれる最強レベルの魔法を唱えられれば、相手のゴーレムを破壊、勝利が確定する。
つまり、魔王が使っていた呪文なら……きっと、恐ろしい威力の魔法になるだろう。
魔王の記憶が、活用できるかもしれない。
(使ってみたいの間違いだろう?)
本当にうるさいな……。いいから、呪文を教えろ。
瞬間、ズキンという痛みと共に、頭の中に言葉が流れ込む。視界が黒くなる。赤くなる。世界が、渦を巻く。自分の中には留めておけない、禍々しい力の奔流を感じ……俺は呪文を吐き出した。
「魔力の源泉、死の象徴は黒き力! 世界の根源、生の象徴は赤き力! 旧き炎より生まれし大いなる影は真なる闇! 両極の力は今ここに、我が拳となる! 刃向かう者は前に立て! 覚悟を刻み受けてみよ!」
真っ黒な渦が頭上に現れる。禍々しい真なる闇。黒き、赤き、力の渦。
意識が吸い込まれそうになる。これが、魔王の詠唱。本物の魔法……。
身体が震え、俺は拳を突き上げて叫んだ。
「打ち砕け、魔王の鉄槌! ヴォーテックスハンマー!!」
*
俺の前世は魔王だった。
『詠唱魔法士キャストマジシャンズ』
ゲームをプレイ中に俺は前世の記憶に目覚めた。
では、そもそもどうしてこのゲームをやることになったのか?
時を少し遡り――具体的には昨晩まで戻って話をしよう。
俺がキャストマジシャンズに興味を持ったのは、一本のプレイ動画がきっかけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます