戦え! 恐山戦士オソレンジャー2

ぜろ

第1話

「ねえ、リルカは進学どうするつもり?」

「うーん、看護系の学校に入ろうと思ってるんだ。手に職付くしあぶれないし」

「うっわ打算的。夢がないよ夢がー」

「じゃあ、ロザリアはどうするの?」

「どーしよっかねー。私も技術系かな。美容師辺り目指してるけど、あれって手が荒れるって言うからちょっと心配もあったり。あたし昔っから手が荒れやすいからさー」

「今度の誕生日には、良いハンドクリーム贈ったげるよ」

「きゃははははっうれしー!」

「あ」

「どしたの? リルカ」

「学校にプリント忘れた。ごめん、先に帰ってて」

「ってもうそこリルカの家じゃん! 明日でも良いじゃん。わけわかんないっ! もー、リルカは真面目過ぎて仕方ないなー……しょうがない、一人で帰るか」


 それが薔薇十字ばらじゅうじロザリアと、失楽園しつらくえんリルカの、今生の別れとなった。



 比較的ゾンビ害の密で無い日本には、それでも彼らに対抗する武器がある。それは例えば僕の持つ青森県は恐山に祀られるオソレンジャー……不恐邪であったり、遠くは高野山に保管されていると言う散弾銃高野散であったり、その比較的近くに配置されている比叡山の薙刀、比叡斬だったりする。ちなみに僕は遠すぎて彼、或いは彼女達に遭った事がないのでどういった形状をしているのかは解らない。平凡な青森の中学一年生に奈良京都は遠い。

 とは言え三人が三人みんな少女の姿でいることは知っている。三人合わせて日本三大霊嬢と呼ばわれるのを知っているからだ。嬢というからには少女の姿をしているのだろうことは想像に難くない。


 家政婦と一緒にハンバーグを食べている時の電話で僕はそれを知った。


『いやもう高野散の子は受験生でねえ~、これが失敗に終わったら二度と高野散を使わないと言っていてねえ~』

「つまり僕に出向けと」

『あ、大丈夫、今は大分北上してるから、関東でかち合えると思うよ、彼女には』

「旅費は」

『もちろん振り込んでおいたとも。それじゃあ明日の土曜から、よろしくねえ~』


 相変わらず人にものを言わせない県知事の言葉に、冷めるからとさくさく箸を進めていたオソレンジャーと家政婦を振り向く。


「明日、東京だって」

「江戸か! して何ゆえに?」


 もぐもぐとデミグラスソースを口いっぱいに付けたオソレンジャーが僕に問う。


「比叡斬が盗まれた」


 ぴく、と耳を揺らしたのは家政婦だ。


「比叡斬ってオソちゃんと同じ日本三大霊嬢のはずだよね。どうしてそんな簡単に盗めたの?」

「一般公開のスキを突かれたらしい。家のと違ってメジャーだからな、向こう二つは。特に高野散は威力はすごい。広域攻略兵器として西南戦争でも戦ったって話だ」

「嘘臭い」

「僕もそう思う」

「しかし、比叡の奴がそう簡単に人間に奪われるかのう……」

「オソちゃんぐらいの警戒心だったら駄目だね」


 くすくす笑う家政婦は、かんざしの増えたオソレンジャーの頭を叩く。個人密輸していた諸々を廃業して、今はネット上で小間物屋として商売をしているらしい。金はあった方が良いから、その方向転換には賛成だ。オソレンジャーにも試作品をくれるので、よく懐かれているし。


「わしは人を選んでおる! オルガンとてわしに様々な肉料理を教えてくれるではないか! 咲哉もよく食べるようになったのだぞ!」

「へぇ、そうなんだ?」


 ニヤニヤ笑いながらこっちを見る家政婦――楽隠居オルガンに、僕ははあっと溜息を見せる。


「と言うわけで今日はなるべく早く帰ってくれ。始発出だからたっぷり寝ておきたい」

「あいあいー。オソちゃん、これ今日のレシピね」

「うむ! オルガンは良い奴じゃのう!」


 その良い奴にカラシニコフぶっ放されたのはお前だよ、とは言ってやらない。


 家にいても冷蔵庫に何もないし適当な金が置いてあるだけだから、どうせなら三人で食べよう。楽隠居の提案はオソレンジャーを喜ばせ、俺をおののかせた。一服盛られてオソレンジャーを奪取するつもりなんじゃないかとか、色々。だがそんなことはなく、楽隠居は学校が終わったらうちの家政婦として掃除洗濯を買って出てくれている。勿論買い出しもだ。怪しくて買わん! とオソレンジャーが毛嫌いしていた西洋野菜も買ってくれるので、最近の僕はちょっとだけ元気である。

 それに三人の食卓は、中々やかましくて良い。

 孤児院では全員揃って個々の食事って感じだったしな。


 楽隠居を見送った僕はオソレンジャーを剣に戻し、竹刀袋に入れる。それから布団を引いて寝た。楽隠居が無事に帰りつ着ますように、なんて考えて。


「のう咲哉、盗人の名前はもう割れておるのか?」

「割れてる。家宅捜索もされてるけれど親も貯金を引き出された後らしくて足どりが解らないらしい」

「ほぉん。だが北上しているのは確かなのだろう? その根拠は?」

「何もないゾンビバラックが襲われて多数犠牲者が出てる」

「良いではないか」


 ホントこの宝刀はゾンビに容赦ながない。


「現代の法律ではゾンビ殺し違法だよ……」

「して盗人の名前は?」

「ロザリア」

「ろざりあ」

「薔薇十字ロザリア」

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